2024年6月23日(日)
#444 ジ・エヴァリー・ブラザーズ「Bye Bye Love」(Cadence)
#444 ジ・エヴァリー・ブラザーズ「Bye Bye Love」(Cadence)
ジ・エヴァリー・ブラザーズ、1957年3月リリースのシングル・ヒット曲。フェリース・ブライアント、ブードロー・ブライアントの作品。
米国のロック・デュオ、ジ・エヴァリー・ブラザーズはドン・エヴァリーとフィル・エヴァリーの2人組。世にはブラザーズと称していても、ウォーカーやらライチャスやらといった、他人同士の寄り集まりの場合も結構あるが、こちらは正真正銘、モノホンの兄弟である。
ドンは本名アイザック・ドナルド・エヴァリーで、1937年2月ケンタッキー州ブラウニー生まれ。フィルは同じくフィリップ・エヴァリーで、1939年1月イリノイ州シカゴ生まれ。2歳違いである。
父親アイクはギタリストだった。母マーガレットも歌い、息子たちと共にエヴァリー・ファミリーとして、40年代アイオワ州フェナンドーのラジオ局に出演していた時期もある。
一家は、兄弟が10代半ばとなった53年にテネシー州ノックスビルに移住し、ふたりは同地のウェスト高校に通った。
51年より兄弟デュオを組むようになり、ノックスビルで演奏活動を行い、地元のテレビ局のショーにも出演して有名なカントリー・ギタリスト、チェット・アトキンス(1924年生まれ)に見出される。56年より自分たちの曲を書き、レコーディングを開始する。
最初のシングルはアトキンスが周旋したコロムビアレーベルから56年にリリースされた「Keep a-Lovin’ Me」だった。これはドンの作品だが、まったりとしたワルツの曲調がまるでウケず、不発。
翌57年には、再度アトキンスが知人エイカフ・ローズやアーチ・プレイヤーに彼らを紹介したことにより、ケイデンスレーベルとの契約を果たす。
心機一転、同レーベルで最初にリリースしたシングルが大ヒットしてエヴァリー・ブラザーズはスターダムに躍り出る。それが本日取り上げた一曲「Bye Bye Love」である。
この曲は彼らのオリジナルではなく、プロのソングライティングチーム、ブライアント夫妻の手によるものである。
夫ブードローは1920年生まれ、妻フェリースは25年生まれ。45年に結婚して以来共作を続け、48年、カントリー・シンガー、リトル・ジミー・ディケンズのために書いた「Country Boy」で初ヒットを出している。
レコーディング・メンバーはボーカル、アコースティック・ギターのふたりのほか、エレキギターのチェット・アトキンス、ペースのフロイド・ライトニン・チャンス、ドラムスのバディ・ハーマン。
プロへの作曲依頼という戦略がみごと図にはまり、「Bye Bye Love」は全米2位、カントリー・チャート1位、R&Bチャート5位、さらには全英6位、カナダ2位という、国やジャンルを超えたスーパー・ヒットとなった。
本曲は曲調はデビュー曲とうって変わって、リズミカルで溌剌としており、当時20歳と18歳だったふたりにぴったりの、若さにあふれたものだった。
イケメン・ボーイズにこのキラー・チューン。ヒットしないわけがないよなって感じ。
その勢いで、ブライアント夫妻に再び依頼して書かれた「Wake Up Little Susie」(邦題・起きろよスージー)が57年9月にリリースされる。
この曲も全米1位・全米2位・全豪3位という前作を上回る大ヒットとなり、彼らの人気を決定付けたのであった。
以降ふたりは「All I Have to Do Is Dream」、「Bird Dog」、「Problems」、「Let It Be Me」、「Cathy’s Clown」といったヒット曲を60年代前半まで出し続けたのである。
それらの中でも、初ヒットの「Bye Bye Love」は、ずば抜けてカバー・バージョンが多い。おおよそ30組くらいのアーティストによって、レコーディングされている。
中でも印象に残っているのは、1970年にリリースされたサイモン・アンド・ガーファンクルのヒット・アルバム「Bridge Over Troubled Water」に収録されているライブ・バージョンだろう。
これは69年11月にアイオワ州エイムズで開かれたコンサートの模様を収めたもの。観客の猛烈な反応がビビッドに伝わって来るライブだ。
筆者としてはこのバージョンではじめて本曲を知り、以後その元ネタであるエヴァリー・ブラザーズ版を聴くようになったという、記念すべき一曲である。
もう一つ印象深かったのは、ジョージ・ハリスン。74年のアルバム「Dark Horse」に収められたバージョン。楽器演奏は全てハリスンという、セルフ・レコーディングだ。
こちらはややマイナー調にメロディをフェイクして歌った「変調Bye Bye Love」とでもいうべきものだ。妻パティと別れて、友人エリック・クラプトンに譲ったプライベートの苦い思い出を、そこに反映させて歌ったもののようだ。
これはちょっと面白い試みではあったが、原曲の良さであるアッパーな雰囲気は完全に失われてしまい、陰鬱さだけがこの曲を占めているような気もする。曲の新解釈としては、イマイチかな。
恋人との別れの歌という湿っぽいテーマながら、切ない気持ちをあえて明るく元気なムードで歌いあげるところにこそ、この曲の真骨頂がある。
若いドンとフィルの、パワーに満ちたハーモニーで、失恋のどん底にある心を元気づけてくれる「Bye Bye Love」。
聴く人は間違いなく、生きていく勇気を得られる一曲。エヴァグリーンなコーラスを楽しんでくれ。