2011年2月6日(日)
#159 ラムゼイ・ルイス「太陽の女神」(Sun Goddess/Columbia)
#159 ラムゼイ・ルイス「太陽の女神」(Sun Goddess/Columbia)
ジャズ・ピアニスト、ラムゼイ・ルイス1974年のアルバムよりタイトル・チューンを。モーリス・ホワイトの作品。
まずは筆者とこの曲のなれそめを述べておくと、高校2年か3年のころ、FM東京の洋楽番組(DJは広川太一郎さんだったような)でエアチェックして、以来それを35年以上にわたってカセットで聴き続けてきた、そういう付き合いの長~い曲なのである。
その後何年かして、「シャイニン・スター」あたりから日本でも人気の出てきていたアース・ウィンド&ファイアーが、ライブでこの曲を演っていることから、もともとモーリス・ホワイトが作った曲であることを知った。アースは何度もライブ・レコーディングをしているので、彼らとしても相当気に入った曲だったようである。
で、ひさしぶりにこの曲を聴いたのは、古馴染みのカセットによってではない。先日、初めてアマゾンで購入した、直輸入CDで聴いているのである。
今回、オリジナルのCDを入手したことで、ひとつ、意外な発見があった。この8分半にもおよぶ大曲「太陽の女神」には、実はラムゼイ・ルイスは一切演奏に参加していないのである。
一体どーゆーことかというと、アルバムの7曲のうち、この「太陽の女神」「ホット・ドーギット」の2曲はプロデュースを完全にホワイトに委ねており、ルイスは一切タッチしていないのだ。いわば丸投げ状態(笑)。
つまり、その2曲に関してはルイスの作品とはいいがたいのである。いやー、これにはビックリした。筆者は35年以上、彼の作品&演奏と信じて疑わなかったんだから。
なにゆえ、こういうことになったのかというと、ラムゼイ・ルイスの過去の経歴を溯るとはっきりする。
彼のバンド(ピアノ・トリオ)には60年代、ホワイトがドラマーとして在籍していた。有名なライブ・アルバム「ジ・イン・クラウド」の時代はホワイトでなくレッド(イザーク)・ホルトだったのだが、ホルトの後釜として66年から70年まで活躍していたのである。その後、ホワイトはアースの前身となるバンド、ソルティ・ペパーズを結成、ジャズではなく、ポップ・シーンへ躍り出ることになる。
74年にルイスかソロ・アルバムを制作するにあたって、過去彼の世話になったホワイトが、恩返しの意味を込めて、彼が率いるアースのメンバーらによる演奏曲を2曲、献上したということなのである。
ここで、どなたも次のような疑問をお持ちになると思うだろう。「ルイスが弾いていないんなら、一体誰が2曲のキーボードを弾いているんだ? アースのラリー・ダンか?」
ところが、その答はラリー・ダンではないのだ。正解は、チャールズ・ステプニーなのである。
「ステプニー? 誰それ」という方のために説明しておくと、彼はもとはチェスレーベルにいたアレンジャー/プロデューサー/キーボーディスト。ルイスもかつてチェスに在籍していた関係で、仕事仲間でもある。
つまり「太陽の女神」のフェンダー・ローズやアープ・シンセサイザーによるサウンドは、ステプニーによるものだったのだ。うーむ、目からウロコ(笑)。
目からウロコついでにもうひとつ付け加えとくと、イントロのギター・カッティング、あれもネットなどで見るにアル・マッケイが弾いていると思っている人が多いようだが(筆者もそうだった)、実はマッケイではない。アースのもうひとりのギタリスト、ジョニー・グレアムなのだわ。
いやはや、LPのパーソネルを見たことがなかったばかりに、とんだ勘違いの上重ねだったわけだが、情報が少ないとそういう間違いもえてして起こったものなのだよ、洋楽に関しては。
さてさて、曲の素晴らしさを書くのが後回しになってしまった。とにかく、この曲に関してはまったく非の打ちどころがないといっていい。ホワイトとフィリップ・ベイリーのコーラスといい、モーリス(ds)&バーディン(b)・ホワイト兄弟の生み出すグルーヴといい、ステプニーのツボをおさえたメロウなバッキングといい、ジャズ畑のサックス奏者ドン・メリックの軽快でダイナミックなブロウといい、「神曲(かみきょく)」とよばれるにふさわしい出来ばえである。
37年の年月を経ても、その黄金の輝きは褪せていない。これを機会にぜひ聴いてみて。