2007年1月7日(日)
#343 アニタ・ベイカー「RHYTHM OF LOVE」(ELEKTRA 61555-2)
今年も「巣」をよろしく。新年第一弾は、これ。アニタ・ベイカー、5枚目のアルバム。94年リリース。
彼女自身、エグセクティヴ・プロデューサーとしてクレジットされているほか、トミー・リピューマ、アリフ・マーディン、バリー・J・イーストモンド、ジェラード・スマレック、ジョージ・デュ-クら名うてのプロデューサー達が名を連ねている。
このアルバムの発表後、アニタは約10年の休止期間に入ることになる。第一期(83~94)の締めくくり的なアルバムともいえる。
一曲目のタイトル・チューン、M4、M5、M6、M9の5曲を除く7曲は他人の曲と、カバー・アルバム的性格が強い一枚。それも「LOVE」がテーマといえそう。
M1はアップテンポで、バリー・J・イーストモンドのシンセ・ベースが耳に心地よいファンクなナンバーだが、あとはゆったりしたテンポのバラードが多い。
個人的には、カバーものにやはり目が行ってしまう。そのなかでも特に注目なのは、バカラック作のM2、ドゥービー・ブラザーズのヒット曲M8、そしてなんといってもロジャーズ=ハートの名曲、ラストM12「MY FUNNY VALENTINE」。ちなみに、M3の「BODY AND SOUL」は、ビリー・ホリデイでおなじみの曲とは同名異曲である。
M2はリピューマ、M8はマーディン、M12はデュークがプロデュースを担当。同じカバーものでも、それぞれの持ち味が反映されていて、アレンジは微妙に違う。
M2は都会的なジャズ・ファンク、M8はサックス・ソロの印象的なAOR、M12はこのうえないゴージャス感をたたえたネオ・ジャズといったところか。いずれも見事な出来だ。
とりわけ、これからの心ときめくシーズンには、M12がまさにぴったりですな。
もちろん、カバー曲だけでなく、アニタのオリジナル曲も上々の出来ばえですんで、そちらもお忘れなく。いつもながら、彼女の書くメロディの、センスのよさには感心してしまう。
本作のアニタの歌いぶりは、これまでの5枚と特に変わることなく、非常に安定していて貫禄さえ感じさせる。のびやかな高音はいわずもがなだが、特にその中低音域での、うねるような表現の豊かさは、他のシンガーの追随を許さないものがある。
人間の声こそは、究極の楽器であると筆者は考えているのだが、アニタはまさにその至上の使い手にほかならない。
しなやかで、したたかで、しかもハートフル。歌をうたう以上、こういうシルクのような極上の手触りの歌を目指したいものだ。
音楽的な洗練と、エモーショナルなパワーが見事に共存している、アニタならではの歌世界。20世紀のポピュラー・ミュージックが到達した、至高の境地。貴方もぜひ、味わっていただきたい。
<独断評価>★★★☆