2002年5月26日(日)
ウィリー・メイボン&エディ・ボイド「メロウ&ビター・ブルース」(MCAビクター/Chess MVCM-22096)
1.I DON'T KNOW
2.I'M MAD
3.(I) GOT TO HAVE IT
4.BEGGAR OR BANDIT
5.LONELY BLUES
6.POISON IVY
7.HE LIED
8.SOMEDAY YOU WILL HAVE TO PLAY
9.SEVENTH SON
10.WHY DID IT HAPPEN TO ME
11.PICTURE IN THE FRAME
12.GOT LONESOME HERE13.COOL KIND OF TREATMENT
14.24 HOURS
15.THIRD DEGREE
16.RATTIN' AND RUNNIN' ROUND
17.JUST A FOOL
18.NOTHING BUT TROUBLE
19.I GOT THE BLUES
20.DRIFTIN'
ウィリー・メイボンとエディ・ボイドという、ピアノ・ブルースの代表的シンガーふたり、おのおの10曲ずつをおさめたコンピレーション盤だ(日本独自企画)。
前半登場するのはウィリー・メイボン。
メイボンといえば「アイ・ドント・ノウ」、というくらい、ほとんどのブルースファンは条件反射的に思い出すわけだが、この数多くのカバー・ヴァージョンを持つナンバーは、1952年末からなんと8週連続、全米R&Bチャートで第一位を獲得する大ヒットになったそうだから、まさに彼の「名刺」がわりといってよい。
ちなみに、ジミー・ウィザースプーン、チャールズ・ブラウン、ウィルバート・ハリスンといったベテラン・シンガーや、近いところではブルース・ブラザーズがカバーしている。
その(1)を皮切りに、個性ゆたかなメイボン・ブルースがたっぷりたのしめる。
ジャケット写真をご覧になってもおわかりいただけるように(右側の男性)、ヒゲをたくわえ、タキシードのバッチリ似合う、なかなかの「オトコマエ」。
じゃあ、歌もルックス同様キザっぽいのかというと、案に相違して、意外にとぼけてユーモラスなものが多い。
日常生活で「なんでそうなるの!?」といいたくなるような、トホホなシチュエーションを笑いをまぶして巧みに歌う、そういうタイプ。
声もどことなく、見た目よりオジサン風のややハスキーな「老け声」。これがまた、実に「いい味」をかもし出しているのである。
ここで簡単にメイボンのプロフィールを記しておくと、25年テネシー州ハリウッド生まれ。シカゴに移って本格的にジャズ・ピアノを習う。大戦後ブルース・サークルとの付き合いが出来てからはブルースに傾倒、47年にバンドで初録音。
52年にシカゴのローカル・レーベル、パイロットで(1)を吹き込み、これがチェスに音源が売られ、またたく間に大ヒットとなった。
以後、順調にヒットを生み出していく。53年には(2)、(3)、(4)、54年には(5)、(6)(リーバー&ストーラー作、コースターズがヒットさせた曲とは同名異曲)、55年には(7)、(8)、(9)をレコーディングしている。
(6)あたりからは、チェスの顔役、ウィリー・ディクスンが深くかかわるようになる。
(6)ではバックでベースを演奏、(7)ではメイボンと掛け合いをやったり、(9)では曲までも提供している。
ディクスンはもともと、ビッグ・スリー・トリオというピアノ・ブルース系のコンボをやっていたぐらいのひとだから、メイボンのようなスタイル(バンドの基本形はギター抜きで、ピアノ、ベース、ドラムス&ホーン。)を好んでプロデュースしたがったのではなかろうか。
57年からは他レーベルに移っていたが、60年に再びチェスに復帰、(10)を吹き込んでいる。
これはやや時代を下っての録音だけに、そのバックのビートも現代風になっている。
でも、そのどこかトボケた味わいのある、独特なヴォーカル・スタイルに変わりはない。
かの大御所歌手レイ・チャールズも、50年代にはメイボンのピアノ・ブルースに強い影響を受けたという。
たとえばその「コール&レスポンス」の手法を巧みに導入して、さらに大衆受けするよう仕上げたのがレイのサウンドだということになるだろう。
10曲に共通して感じられるのは、とにかく歌が「陽気」であるということ。仕事やプライベートで、どんなトホホな状態にあっても、彼の歌を聴くと、「ま、いっか」という気分になってくるから、不思議である。
個人的には(6)や(10)あたりの、にぎやかなナンバーが好きだな。実に「お酒が美味しく飲める」音なんである。
さて、後半はエディ・ボイドで10曲。
アルバムのタイトルにあるように、メイボン=芳醇でよくこなれた味の「メロウ・ブルース」であるとするなら、ボイドはそれと好対照にこのうえなくにがい「ビター・ブルース」だということ。実に言いえて妙なタイトルだな。
メイボンにとっての「アイ・ドント・ノウ」に相当するボイドの曲といえば、さしずめ「ファイヴ・ロング・イヤーズ」だろう。
これまたマディ、BB、フレディ・キング、ジミー・リード、ヤードバーズ、クラプトンといった幅広いアーティストにカバーされている名曲だが、その内容はといえば、「辛苦」「辛酸」そのものという感じのへヴィーなもの。
5年間製鋼所での重労働に耐え、尽くし続けた恋人からあっさり裏切られ、憤懣やるかたない気持ちを吐露した歌詞は、作者ボイド自身の体験に基づくものだというから、実に「重い」。
ボイドは14年、ミシシッピ州クラークスデイル生まれ。比較的早く売れたメイボンとは対照的に、下積みの時期が長かった人で、メンフィスでバンド活動を始め、シカゴに移ったのが26才のころ。いくつかのレーベルでレコーディングを果たすも売れず、自費制作のために製鋼所で働き、37才のときようやく「ファイヴ・ロング・イヤーズ」をJ.O.B.レーベルからリリースして大ヒット。
こちらもR&Bチャート7週連続1位という、「アイ・ドント・ノウ」に負けないくらいのヒットとなっている。
以後もこういう「ビター」な曲調が、彼の持ち味となっていく。
53年にはチェスから(14)、(15)という、「ファイヴ~」に続く「数字シリーズ」を立て続けにトップ3ヒットとし、同年には(11)、(16)、(17)、(18)もレコーディングしている。
翌54年には(19)、(20)を録音。本盤はこの他、ブレイク以前の51年の録音(12)、52年の録音(13)も含んでいる。
エディ・ボイドのバンドは、メイボンのそれよりはもう少し一般的な編成で、必ずギターを加えており、ロックウッドJr.やリー・クーパーといった巧者が参加している。
彼らのジャズィでクールなプレイもまた聴きものだ。
エディのピアノをメインに、ギター、そしてテナーサックスが絡む重量感あふれるサウンドが、なかなかカッコいい。たとえば(20)とか。
ちょっと大人っぽいスウィンギーなサウンド、そして彼のやや神経質で、苦味ばしった歌声。いかにも「通好み」のブルースといえそうだ。
チェスを離れた後のボイドは、いくつものマイナー・レーベルを渡り歩くが、残念ながらヒットには恵まれず、60年代後半以降はフィンランドへ移住して、かの地でマイペースの活動を続けていたようである。
ほんの四、五年間しか「栄光の時代」は続かなかったわけだが、彼の作品「ファイヴ・ロング・イヤーズ」は、不朽のブルース・スタンダードとして、いまだに歌い継がれている。
それだけでも、彼の「艱難辛苦」は十分に報われたといえそうだ。
この10曲に、「ファイヴ・ロング・イヤーズ」(BSR37号付録CDに収録されている)をあわせて聴けば、「苦労人」ボイドのシブ~い魅力は堪能できるはず。
ギター系ブルースとはまた違った、モダンで都市的な感覚があふれているのが、ピアノ・ブルース。
この、それぞれにイカしたふたりをチェックしない手はないと思うよ。
<独断評価>★★★★