2014年4月20日(日)
#315 金子マリ Presents 5th Elements Will「彼女の笑顔」(Pacific Rim Record)
#315 金子マリ Presents 5th Elements Will「彼女の笑顔」(Pacific Rim Record)
シンガー・金子マリが現在活動しているバンド「5th Elements Will」、2010年5月のライブより。大阪府茨木市JACK LIONにて収録。忌野清志郎の作品。
金子マリについて改めて説明するまでもないと思うが、日本を代表する実力派女性ロックシンガーである。1954年東京生まれ。72年にCharと共にスモーキー・メディスンを結成してデビュー、「下北のジャニス」との異名をとる。74年にバックスバニーを結成してレコードデビュー。以来、Voice&Rhythm、MAMAといったバンド、あるいはソロとして活動を続け、2005年に現在のバンド5th Elements Willを結成して、現在10年目。キャリア40年超の大ベテランである。
今年の1月、バンド10年目にしてついにファースト・アルバムをリリースし、リスナーに高い評価を得ている。きょうの一曲は、アルバムには収録されていないのだが、ライブで前年に亡くなった忌野清志郎を偲んで歌われたもの(忌野の92年のセカンドアルバム収録曲)。ちなみに、金子はRCサクセションのアルバム制作に参加、ツアーにも帯同するなど、忌野との縁が深い。
曲調は「Stormy Monday」などを思わせる、ごくごくオーソドックスなスローブルース。忌野の曲が金子のハスキーボイスにぴったりハマっていて、いい仕上がりだ。
バックでいぶし銀のようなギタープレイを聴かせるのは、岩田浩史と森園勝敏のふたり。岩田はファーストアルバムをレコーディングした後、惜しくも病気で亡くなっており、彼の遺作ともなったわけだ。
彼らのプレイを聴くに、弾きまくりとか競演とかいった感じではなく、おたがいに譲り合っているといいますか、非常にアンサンブルを大切にしているのがよくわかる。tRICKbAGでのモリ氏とは、だいぶん印象が違うよね。
他のメンバーとしては、石井為人(kb)、大西真(b)、松本照夫(ds)、そしてもうひとりのシンガーとして、北京一がいる。いずれ劣らぬベテランや、若くても実力派のプレイヤー揃いなんである。tRICKbAG、ウエストロードあたりの人脈もいて、筆者的にも結構好みのラインナップだ。
ふと気づいたのだが、金子マリは、まさに「おくりびと」の人生を送っているなぁと感じる。実家は下北沢の葬儀屋「金子総本店」。現在金子はその経営も引き継いでいるという。人を来世に送ることが、彼女の中では「日常」となっているのだ。
そして、音楽活動をともにした人々の何人もが、先立っている。忌野清志郎もそうだが、なんといっても彼女と長らく音楽活動をともにし、1999年までは夫であったジョニー吉長が、2012年6月に亡くなっている。
そういった、大切なひとを失う悲しい経験や、一方で出産や子育てなどの喜び(あるいは苦しみも含まれるだろうが)をへて、金子のうたは年々深みと味わいを増してきているように思う。
そう、金子マリは、ブルースを歌える数少ない日本人シンガーといえる。彼女のような歌い手こそが、リアルシンガーといえるのじゃないだろうか。
うたは声量とか技術だけで良し悪しが決まるわけじゃない。いかに心が感じられるか、それが一番重要だ。
筆者は「感動した」なんて陳腐な表現はあまり好きではないが、この「彼女の笑顔」の歌声を聴いて心底感動し、「やられた!」と思った。さすが金子マリ。ダテに長い年月、歌ってはいない。
40年余り、つねに進化成長を続けるスゴいシンガーの、真骨頂を味わってくれ。