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音盤日誌「一日一枚」#271 大木トオルブルースバンド「大木トオルブルースバンド FEATURING アルバート・キング」(CBSソニー 28AH 1279)

2022-08-12 05:00:00 | Weblog

2005年5月22日(日)



#271 大木トオルブルースバンド「大木トオルブルースバンド FEATURING アルバート・キング」(CBSソニー 28AH 1279)

ミスター・イエロー・ブルースマン、大木トオルとそのバンドの、81年のアルバム。ニューヨーク録音。大木トオルプロデュース。

タイトルが示すように、ゲストにアルバート・キングを迎えてのスペシャル・セッション。全9曲中、5曲にアルバートが参加している。

実はこれ、知人のそまさんから有り難くも頂戴した一枚。彼が大学在学時に購入したという。

雑誌「ブルース・アンド・ソウル・レコーズ」のアルバート・キング特集号(No.32)でも取り上げられていなかったぐらいだから、ほとんど知られていないアルバムだろう。おそらく、CDでも再発されていないだろうから、極めてレアな一枚といえそう。

トップの「キャント・ストップ・シンギング・ザ・ブルース」は、大木のオリジナル。

冒頭のアルバートの「語り」から、いきなりブルースの濃厚なムードが沸き起こってくる。いやー、この「つかみ」はスゴいよ。

そしてこれにもちろん続くのは、必殺技のスクウィーズ・ギター。この音、このフレーズですよ、待っていたのは!

この「存在感」は誰も太刀打ちできないだろうな。

残念ながら、本盤の主役であるはずの大木も、アルバートを前にしては、脇役に降りざるを得なくなっている。ま、格が違い過ぎるんだから、しかたないんだけどね。

もちろん、大木もかなり頑張っている。本場米国で経験を積むことにより、「ザ・サード」時代に比べたら明らかに歌は上達しているし、あのクセの強い、好き嫌いがはっきりと分かれていた「声」もだいぶん練れて来た感じだ。

この曲では、ギターと歌による、ふたりの掛け合いもふんだんに聴くことが出来る。

続く「オーキー・ドーキー・シャッフル」はアップテンポのシャッフル・ナンバー。これまた大木のオリジナル。

オーキーに大木を引っかけたのは、誰の目にも明らかだな(笑)。

イントロのギターは、コーネル・デュプリー。かの「スタッフ」でおなじみの御仁だ。このギターが実にクール。

彼からすぐにバトンを渡されてソロを弾きまくるアルバートも、もちろんカッコいい。

中間部はサックスのソロ。このアーティ・キャプランを筆頭とする、ホーン・セクションも巧者ぞろいだ。

アルバートもリラックスしてプレイしているのか、後半では大木への掛け声を発したりして、実にいいムードだ。

三曲目の「パーソナル・マネージャー」はミディアム・スローのブルース。スタックス時代以来の、アルバートの持ち歌。

ここでは、大木の歌よりも、アルバートのギターをメインにフィーチャーしている。

彼の派手なチョーキングも最高潮。本当の本物のプレイにノックアウト、である。

「トゥー・マッチ・ラビング」は、再び大木のオリジナル。ミディアム・テンポのブギ。

ギター・ソロは大木バンド所属のギタリスト、ルー・エランガー。明らかにアルバートとは違ったスタイル。どちらかといえば、ルーのほうが、平均点的というか、オーソドックスなスタイルのブルース・ギターを弾く。

言い換えると、ワン・フレーズを聴いただけで、「これは○○の音!」とわかるようなプレイではない。悪くいうと、ありきたり。

比較することは、あまりいいことじゃないが、アルバートの演奏に比して、ルーのそれは明らかに普通であり、凡庸なのである。

アルバートの、ワンフレーズだけで彼だと判る、ある意味ワンパターンなプレイの、スゴさというものを痛感した次第。

「ビッグ・アイド・ウーマン」は、大木のヒット曲「エブリナイト・ウーマン」の路線を踏襲したファンキーなナンバー。ある意味歌謡曲っぽいR&B。

ここでもギター・ソロはルーが担当。マイナー・ブルースということで、アルバートを意識したプレイをしているようだが、やはり二者の違いは歴然だ。

ギタリストにとって、テクとかリズム感とか、重要なことはいろいろあるが、こと「プロ」のギタリストに限っていえば、一番重要なのは「オリジナリティ」、筆者はそう思うね。アルバートの唯一無二のオリジナリティには、ホント、脱帽である。

B面トップ、「アイ・ガット・ア・マインド・トゥ・ギブ・アップ・リビング」は、ポール・バターフィールドの作品。スローなマイナー・ブルース。

大木とも親交のあったギタリスト、マイク・ブルームフィールドが本盤のレコーディング直前に亡くなっているが、この曲を生前のマイクが愛唱していたこともあり、彼への追悼の思いを込めて収録したナンバーだ。

この一曲、本盤では一番リキの入ったトラックだと、筆者は思っている。邦題では「絶望の人生」となる、絶望に満ちた暗いことこの上ないこのナンバーを、喉を絞るようにして歌い上げる大木。

このままだと、底なしの暗澹たるムードに落ちていくだけだが、「でも生きていかなきゃ」と、励ますように、あるいはチャチャを入れるように、セリフや笑いで合いの手を入れるアルバート。このバランス感覚はなんとも絶妙だ。

こんな生活、もういやだ。いっそ死んでしまおうか。いやいや、死んで花実が咲くものか。生き続けてりゃ、そのうち光明も見えてくるさ。

こういう陰と陽の「振り幅」に、ブルースの持つ本来の「タフネス」を見ることが出来るだろう。

「オー・ハニー・ドント」は大木のオリジナル。アップテンポのナンバー。アルバートのナンバーでいえば、「ウォーターメロン・マン」、「クロスカットソー」あたりの路線。

軽快なビートに乗せて飛ばしまくる、大木のヴォーカル、そしてアルバートのギター。

ホーンセクションやピアノなどのリズム隊も、ノリノリである。体がムズムズしてきて、自然と踊り出す、そんなナンバーだ。

「ユー・リアリー・ガッタ・ホールド・オン・ミー」は、ビートルズによるカヴァーでもおなじみの、スモーキー・ロビンスンの作品。

この曲はライブでもしばしば歌われ、以前本欄でも取り上げた「MY HOME TOWN」(2002年)でも再録音するなど、大木にとってはかなり思い入れの強いナンバーだ。

ここでのギターは、ルーが担当。こういうヒット曲系のナンバーでは、ソツなく無難にまとめてくる。

ライブでは時間をもたせるために、いろいろな曲調のナンバーをやらないといけないだろうから、こういう、何でもそこそこ弾ける器用なタイプのギタリストは重宝ってことだろうな。

間奏は、サックスのアーティが担当。こういうバラード・ナンバーだと、サックス・ソロの説得力はまた格別だ。

ラストは「ユー・センド・ミー」は、サム・クックの作品。ミディアム・スロー・テンポのソウル・ナンバー。

スウィートな女声コーラスに乗せて、大木もいつもの塩辛声よりは少し甘く、この愛の歌をうたう。

間奏はルー。大木の歌同様、甘く、でもブルーズィな味わいは忘れないこのプレイ、本盤では彼のベストだと思う。

ブルースな曲ではアルバート、ポップな曲ではルー、それぞれ得意分野がはっきりしていて、興味深い。

このアルバム制作にあたり、大木そしてレコード会社サイドが、どのようにして御大アルバート・キングを口説いて、アーカンソーからニューヨークまで来させたのかは、知るよしもない。

ブルースマンという連中はおおむね「現金」な種族だから、ギャランティさえ良けりゃ何だってOK、そんなところがある。

この場合も、大木の音楽性を認めてとかそういうことじゃなくて、カネが決め手。真相は案外そんなものかも知れない。

でも、それだって別にいい。あのアルバートとの共演は、大木のみならず、ほとんどすべてのブルースマンの憧れるところであろう。それが実現したのだから、これは大木にとって、一生モノの勲章だろう。

アルバートの参加した五曲は、明らかに、大木バンドのみの演奏とは「空気」が違う。

モノホンのブルースマンだけが持つ、独自の雰囲気が、最初の小節から満ちあふれている。

それが何なのか、言葉で説明するのは至難の業であるが、筆者としては拙いなりに分析してみた。少しはそのニュアンスが伝われば、幸いである。

最後に、貴重な一枚をプレゼントしてくださったそまさん、おおきにサンクス!

<独断評価>★★★☆



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