2002年9月22日(日)
カクタス「RESTRICTIONS」(REPERTOIRE RR 4131-WZ)
(1)RESTRICTIONS (2)TOKEN CHOKIN' (3)GUILTLESS GLIDER (4)EVIL (5)ALASKA (6)SWEET SIXTEEN (7)BAG DRAG (8)MEAN NIGHT IN CLEVELAND
「伊勢物語」の出だしふうに書くなら「むかし、さぼてん座なる音曲の一座ありけり」とでもなるだろうか。今を去ること三十余年前、アメリカにカクタス(さぼてんの意)という名のバンドがあった。
結成は69年。元ヴァニラ・ファッジのティム・ボガート(b)とカーマイン・アピス(ds)は、ジェフ・ベックとともにBBAを結成する予定だったが、ベックが交通事故に遭ったため結成を断念、元ミッチー・ライダー&デトロイト・ホイールズのジム・マッカーティ(g、ヤードバーズのdsとは別人)、ラスティ・デイ(vo)とともに作ったのが、このカクタスというわけだ。
当アルバムは、彼らの三作目。71年リリース。彼ら自身でも一番気に入っている作品だという。
まずはタイトル・チューンの(1)から。のっけから、へヴィー&ハードなギター・リフ、重心の低い粘っこいビート、そしてパワフルなシャウトが飛び出す。
そう、カクタスは生粋のハードロック・バンドなんである。
当時といえば、英国からZEPが68年末デビューするや、本国のみならず米国でも人気沸騰、ビートルズからZEPへと明らかにロックの潮流が変わってきた、そういう時期であった。
カクタスも、同じハードロック路線で、編成が同じだったこともあり、「米国版ZEP」ともいうべき扱いを受けていたように思う。
しかし、今聴いてみると、同じハードロックでありながら、微妙に違うのである。ブリティッシュ・ハードロックとは一線を画したサムシングがある。それは何か。
(2)を聴いてみると、それがよくわかる。スライド・ギターをフィーチャーしてブルース風味を加えてはいるが、メロディ・ラインといい、コーラスのつけかたといい、全体に脳天気なカントリー・フレーバーが横溢している。
これはつまり、かたや国営放送でしか音楽情報を得ることの出来ない英国と、何十何百もラジオ局があって、スイッチをひねればC&Wがすぐ流れてくる米国の、音楽環境の違いによるものといってもいいだろう。
「カントリー的なるもの」を排除して、米国のロックは成立しないのである。
英国のトラッドと、米国のカントリー、この違いが両国のハードロックにも微妙に反映しているといえそうだ。
(3)も、バリバリのハードロック。決して明るい曲調ではないにもかかわらず、ブリティッシュのような「湿り気」のない暗さとでもいおうか、どこか突き抜けたものを感じる。
(4)は、一瞬誰の曲じゃ!?と思うかも知れないが、まぎれもなくハウリン・ウルフのナンバー。
カクタスの「陰の主役」ともいうべき最強のリズム・セクション、ボガート&アピスが暴れまくる一曲だ。
オーソドックスなブルースとしての原曲を、完膚なきまでに破壊(笑)、まったく別のハード・ロック・ナンバーに仕立て上げたのはスゴいというほかない。
クリームの「トップ・オブ・ザ・ワールド」、JBGの「迷信嫌い」、ZEPの「レモン・ソング」をしのぐ、最強のカバー・ヴァージョンかもしれん(笑)。
(5)は、うってかわって肩の力を抜いた、軽妙なシャッフル。ハープをフィーチャーして、カントリー・ブルースっぽく仕上げている。
ただ、ちょっと不満が残るのが、ラスティ・デイのヴォーカル。彼はいわゆる「シャウター」のタイプで、格別ヘタではないが、「華がない」歌い手だなと思ってしまう。
聴き手に強い印象を残すことが出来ない、凡庸な歌いぶりだ。これがカクタスが、いまイチ成功しなかった理由のひとつのような気がする。
(6)はさらにブルース濃度を高めたナンバー。オリジナルだが、明らかに「ローリン&タンブリン」を下敷きにしている。
演奏はしっかりしているので、そこそこ聴けるのだが、ラスティの歌はどうもしっくりと来ない。彼はどうもブルース・フィーリングの感じられる歌い手ではない。
(7)はへヴィー・メタルの先駆ともいうべきサウンド。ラスティはワン・パターンなシャウトに終始しているが、むしろこちらの方が、彼には向いているような気がする。
ラストの(8)は、アコギの演奏にハープがからむ、インスト・ブルース。
ジョニー・ウィンターにもこの手のアンプラグドな演奏があるが、ジム・マッカーティもなかなかダウンホームないい味を出している。
カントリー同様、ブルースもまたアメリカ人にとっては、「心のふるさと」なのであろーな。
以上、全編通して聴くと、まぎれもないアメリカン・バンドなんだなあと感じてしまう。
その後バンドはメンバー・チェンジをするが、結局長続きせず、72年には解散してしまっている。
リズムのふたりはご存じのようにBBAを結成するわけだが、BBAサウンドの原点といえるのが、この一枚だと思う。
格別の名盤、傑作というわけではないが、カクタス4人の個性がもっともストレートなかたちで表われ、音楽的にも充実したこのアルバム、ぜひ一度聴いてみてほしい。
<独断評価>★★★☆