2024年3月2日(土)
#331 J・B・ルノアー「Mamma Talk To Your Daughter」(Parrot)
#331 J・B・ルノアー「Mamma Talk To Your Daughter」(Parrot)
J・B・ルノアー、1954年リリースのシングル・ヒット曲。ルノア自身のオリジナル。
ルノアーは1929年、ミシシッピ州モンテセロ生まれのブルースマン。JBというのは実は略名ではなくて、それ自体がファーストネームなんだそうだ。
ルノアー(Lenoir)というのはフランス系っぽい姓だが、本人はもっぱら「ラノー」という読み方をしていたという。
父親は農業の傍らギタリストをやっていて、その影響により、幼少期よりブラインド・レモン・ジェファースンをよく聴くようになる。
10代前半、ニューオーリンズでサニーボーイ二世、エルモア・ジェイムズらと知己を得る。
49年、20歳にしてシカゴに移住、当地のブルース・ボス、ビッグ・ビル・ブルーンジーの助力により、メンフィス・ミニー、マディ・ウォーターズらと共演する機会を得る。
翌年よりレコーディングを開始、デビュー・シングルの「Korea Blues」や次の「Deep In Debt Blues」といった社会風刺ネタのブルースをリリースして異彩を放った。
「Eisenhower Blues」もそういった時事ネタのブルースだったが、政府当局から圧力ががかり、発禁扱いとなってしまう。再発版では歌詞を変えて「Tax Paying Blues」という曲となった。その他、「I’m In Korea」「Alabama Blues」「Vietnam」といった社会派のブルースが何曲もある。
そんな反骨精神に満ちた「闘うブルースマン」のルノアーだったが、一方で普通に男女関係のあれこれを歌う曲も作って、ヒットを出している。
それが「Eisenhower Blues」と同じ54年にリリースした、この「Mamma Talk To Your Daughter」である。
ユーモラスな歌詞と歌い口で、またたく間にヒット。R&Bチャートで11位を獲得する。他のミュージシャンに何度もカバーされており、その代表例が88年リリースのロベン・フォードのアルバム「Talk To Your Daughter」に収録されたタイトル・チューンだろう。
本欄をお読みになっている皆さんの大半は、フォード版でこの曲を知ったと思う。彼のステージでの定番曲でもあるしね。
ルノアーのオリジナル版はといえば、その30年以上前の録音だけあって、いかにも古めかしい、シカゴ・ブルース・サウンドだ。J・T・ブラウンと思われるテナー・サックスをフィーチャー、いかにもノリがいい。
もうひとつ、66年の再録音バージョンも紹介しておこう。こちらはルノアーのアコースティック・ギターをフィーチャーした、電化される前のいなたいデルタ・ブルース調。
これにフレッド・ビロウの、まるで祭り太鼓のように賑やかなドラムスが、曲にウキウキとした気分を与えていて、なんともグッド。
ルノアーの作品でユーモラスな曲調のものとしては、他にも「Don’t Touch My Head!!!」「Daddy Talk To Your Son」など多数ある。
言って見れば、政治という硬派ネタ、男女関係という軟派ネタは、ルノアーの歌のテーマの表と裏をなしており、どちらも風刺やユーモアを利かせて調理するのが、ルノアー流と言えるだろう。
70年を経て、いまだに多くのミュージシャン、リスナーに愛される小粋なブルース・チューン、「Mamma Talk To Your Daughter」。筆者も、時々セッションで歌ってます。