NEST OF BLUESMANIA

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音曲日誌「一日一曲」#396 ザ・シャドウズ「Apache」(Columbia)

2024-05-06 08:03:00 | Weblog
2024年5月6日(月)

#396 ザ・シャドウズ「Apache」(Columbia)





ザ・シャドウズ、1960年7月リリースのシングル・ヒット曲。ジェリー・ローダンの作品。ノーリー・パラマーによるプロデュース。

英国のインストゥルメンタル・ロック・バンド、ザ・シャドウズは1958年結成。

シンガー、クリフ・リチャードが「Move It」(58年2月リリース)のシングルヒットによりバックバンドが必要となり、ニューキャッスルのバンド、ザ・レイルローダーズのメンバー、ハンク・マーヴィン(g)、ブルース・ウェルチ(g)、ロンドンのバンド、ザ・パイパーズ・スキッフル・グループにいたジェット・ハリス(b)、トニー・ミーハン(ds)が選ばれてスタートした。

結成当初はザ・ドリフターズというバンド名であったが、米国の同名バンドから訴訟される可能性が出て来たことにより、59年7月にザ・シャドウズと改名している。

当初は「クリフ・リチャード&ザ・シャドウズ」としてもっぱらリチャードの歌伴奏を務めていたが、彼抜きのインストゥルメンタル・ナンバーが予想外の大ヒットになったことがきっかけで、独立してレコードを出すようになった。

そのきっかけの一曲が、本日取り上げたシングル「Apache」である。

このインスト曲は英国のシンガーソングライター、ジェリー・ローダン(1934年生まれ)が作曲した。タイトルは54年の米国の西部劇映画「Apache」から取られた。

ローダンはこれを60年初頭にギタリスト、バート・ウィードン(1920年生まれ)にレコーディングさせたが、それがしばらくリリースされることはなかった。

その埋もれていたナンバーがなぜシャドウズのレパートリーになったかというと、こんないきさつがある。

1960年春、シャドウズはローダンをサポートしてツアーを続けていたのだが、その最中にローダンがウクレレでこの曲のメロディを弾いていたのに惹きつけられ、ローダンの勧めもあって6月にレコーディングすることになる。

結果として、この曲はシャドウズ版が一番最初にリリースされることになった。また、これに刺激されて、ウィードン版も急遽リリースされている。

シャドウズ版は5週連続全英1位というスーパー・ヒットを記録し、63年までにミリオンを売り上げた。一方、ウィードン版は全英24位止まりだった。

もともとウィードンが先にレコーディングした曲で大当たりを取って、彼の影をすっかり薄くしたことへのお詫びとして、マーヴィンとウェルチは61年、ウィードンのために「Mr Guitar」という曲を書いた、なんてこぼれ話もある。

さて、シャドウズ版と、ウィードン版とを合わせて聴き比べてみてまず感じるのは、前者の方が、原曲の持つ哀感をより繊細なタッチで浮かび上がらせてることだろう。

ウィードンのギターはちょっとガチャガチャうるさいというか、陽気すぎるのに対して、シャドウズのマーヴィンが弾くギターは、少し抑え気味に、そして緩急のメリハリをつけて、曲の持つ気品をうまく引き出すことに成功していると思う。エコーとギターのトレモロバーをうまく使っていることも大きい。

よりドラマティックなムートを漂わせるシャドウズ版に軍配が上がったのもやむなし、であろう。

そしてこの曲の超特大ヒットにより、ハンク・マーヴィンという長身の眼鏡男は、英国一影響力を持つギタリストとなった。

彼にインスパイアされてエレクトリック・ギターを始めたロック少年は、もの凄い数になるだろう。その中には、のちにプロ中のプロになった者も多数いる。

例えば、ジョージ・ハリスン、デイヴィッド・ギルモア、ブライアン・メイ、エリック・クラプトン、ジミー・ペイジー、ジェフ・ペック、マーク・ノップラー、ピート・タウンゼントなどなど、枚挙にいとまがない。

また、海を越えて、米国・カナダにもニール・ヤング、フランク・ザッパ、カルロス・サンタナといった、本国よりは少数だが、熱烈な支持者がいる。

日本では、シャドウズ単体の人気がほとんど出ず、エレキバンドとしてはそれを後追いし、カバーした米国のベンチャーズの陰に隠れてしまった。まことに残念である。

ところで、マーヴィンのサウンドの魅力は、愛用のフェンダー・ストラトキャスターの音の魅力でもある。そのギターとしての高い完成度は、繊細で微妙なタッチ、ニュアンスを表現するのに、最もふさわしいモデルだと言える。

彼は自分と似た風貌の米国のシンガー/ギタリスト、バディ・ホリーからの影響でこのストラトキャスター・モデルを選んだようだが、それはまさに正解であった。

「Apache」のメロディはごくごくシンプルに見えるが、実際にギターを手に取って弾いてみると、なかなか奥深いものを感じさせる曲である。

一見、簡単にマーヴィンのように弾けそうだと思ってトライしてみても、実は彼の完成された域にはなかなか到達しない。そのあたりが、シャドウズ・サウンドが英国のロック少年、ギター少年たちを熱狂させ、虜にした秘密なのかも知れない。

ロック・ギタリスト達が信奉するギタリスト、ナンバー・ワン。ハンク・マーヴィンの美技、妙技にこの曲で酔ってみよう。




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