2023年3月26日(日)
#494 THE CRUSADERS「STREET LIFE」(ユニバーサル ミュージック/MCA UCCU-5089)
米国のフュージョン・バンド、ザ・クルセイダーズのスタジオ・アルバム。79年リリース。バンドメンバー、ウィルトン・フェルダー、スティックス・フーパー、ジョー・サンプルによるプロデュース。
クルセイダーズは高校時代からの仲間4人によるジャズ・バンドとしてスタート、61年にジャズ・クルセイダーズとしてレコード・デビュー、71年に現バンド名に改称して以来、フュージョン・バンドとして活動を続けていた。
現在オリジナル・メンバーとしては、ひとりフーパーのみが存命である。
彼らの商業的な成功の頂点にあたるのが、この「ストリート・ライフ」を発表した頃だ。アルバムは全米18位(ソウル、ジャズ・チャートでは1位)、タイトル・チューンは全米36位(ソウル・チャートでは17位)というヒットを記録したのである。
オープニングの「ストリート・ライフ」はサンプル、ウィル・ジェニングスの作品。アルバム・バージョンは11分18秒におよぶ大曲である。
アルバムでは唯一ボーカルをフィーチャーしたナンバーであり、76年にデビューした黒人女性シンガー、ランディ・クロフォードがゲスト参加している。
繊細なヴィブラートと、思い切りのいいシャウトが、ともに彼女の持ち技だ。テクニカルであり、一方、エモーショナルでもある実力派。
彼女の印象的な歌声により、この曲がスマッシュ・ヒットとなったのは間違いない。
その功績により、翌年にはクルセイダーズが彼女のアルバム「Now We May Begin」をプロデュース、ヒットするというオマケまで付いている。
ギターは3人。アーサー・アダムス、ローランド・バティスタ、ビリー・ロジャースである。アダムスはブルース系ギタリスト、バティスタは元アース・ウィンド&ファイアのファンク系ギタリスト、ロジャースは元ジャズ・クルセイダーズのギタリスト。
タイプの違うギタリストを3人も使うという、極めて贅沢な布陣なのである。
ベースはフェルダーが兼任。ゲスト・ベーシストが入る3曲以外はすべて彼が担当している。ほんと器用なひとだね。
ホーンは八管と、アルバム随一の強力な体制。テナーのフェルダーに加えて、トランペットはロバート・O・ブライアント・シニアとオスカー・ブラッシアー、テナーはブライアントの息子ジュニア、アルトはジェローム・リチャードソン、バリトンはビル・グリーン、テナー・トロンボーンはガーネット・ブラウン、バス・トロンボーンはモーリス・スピアーズ。
ゴージャスなホーン・サウンドが、女声ボーカルと並ぶこの曲の魅力の中心であることは間違いない。
ストリングスとホーンのアレンジは、サンプルが担当(他曲も同様)。この曲の深い味わいは、サンプルの手柄によるところ大だろう。キーボード同様、彼のアレンジ能力は素晴らしい。
ことにギターとストリングスの合わせ技は、クリティカル・ヒット(必殺技)だな。当時の日本でもさっそく高中正義が自分のアルバムに取り入れていたりする。
まぁ、フュージョン界最高峰のバンドなんだから、新作が出るとすぐに多くの後輩たちに真似されるのもしかたがない(笑)。
「マイ・レディ」はフェルダーの作品。
フェルダーのテナーを全面にフィーチャーした、ダンサブルなファンク・チューン。
ギターはバリー・フィナティとポール・ジャクソン・ジュニア。フィナティは白人ジャズ・ギタリスト、ジャクソンはフュージョン・ギタリスト。ともにファンキーなバッキングでこの曲を支えている。
サビのパートのバックに流れる混声コーラスは、フランスの、ルイとモニークのアルデベール夫妻のデュエットによるもの。
彼らはジャズ・コーラス・グループのダブル・シックス・オブ・パリのメンバーだった。このコーラスが、なんともエレガントな雰囲気を、曲に加味している。
「ロデオ・ドライヴ」はサンプルの作品。アップテンポでノリのいい、フュージョン・ジャズ・ナンバー。副題の「ハイ・ステッピン」も、納得のテンションである。
ロデオ・ドライヴとはアルバム・ジャケット写真を撮影したロサンゼルス・ビバリーヒルズの大通りのこと。
この街がもたらしたインスピレーションにより、本アルバムは生み出されたということだろうな。
この曲の陰の主役はベースのアルフォンソ・ジョンソンだ。彼はいうまでもなく、元ウェザー・リポートのベーシスト(二代目)。
その躍動感あふれるベースは、陽気な曲調ともマッチしている。フレットレス・ベースならではのアタック音が耳に心地よい。
ホーンは四管体制。フェルダーのテナー、ブラッシアーのトランペット、ブラウンのテナー・トロンボーン、スピアーズのバス・トロンボーン。
分厚いサウンドをバックに、気持ちよさげに吹くフェルダー。後を引き継ぐフィナテイのギター・ソロ、サンプルのローズ・ソロも快調だ。
「夜のカーニバル」はフェルダーの作品。タイトルが示唆するように、サンバ・ビートのナンバー。
ギターは4人体制と超豪華。大ベテランのデイヴィッド・T・ウォーカーを筆頭に、アダムス、バティスタ、そしてフィナティだ。
ギター・ソロを弾くのはフィナティ。そのジャズを基本としながらも、ファンクやブルースのエッセンスも加味したスリリングなプレイは、なかなかにイカしている。当バンドのかつてのメンバー、ラリー・カールトンにも通じるセンスがある。
ベースはジェイムズ・ジェマーソン・ジュニア。モータウンきっての名ベーシストの息子が、弱冠22歳での参加である。
ベテランたちに交じって臆することなく、スラップをきかせた堅実なプレイでサウンドをかためている。
「ハスラー」はフーパーの作品。
ミディアム・テンポのビートを効かせた、ファンク・ナンバー。
ギターはフィナティとジャクソン。フィナティがソロを担当している。ソリッドでファンキーなフレーズがグッド。
彼がこのアルバムでは、主席ギタリストという扱いなんだろうな。
フェルダーはここではテナーをアルトに持ち替えてプレイ。テーマ部分では、多重録音でサウンドに厚みを持たせている。
もちろん、作曲者であるフーパーのツボを押さえたタイトなドラミングも、文句なしにカッコいい。
ラストの「ナイト・フェイセズ」はサンプルの作品。
ダンサブルなビートを持つ、しっとりとした雰囲気のナンバー。
フェルダーはここでもアルトで吹いている。テーマ演奏に続いては、サンプルのローズによるソロ。再びフェルダーにソロが戻り、さらにサンプルへ…。
そんなループで、このナンバーはどこまでも続いていく。まるで終わらぬ夜のように。
で、この曲でも実は一番活躍しているのが、ベースのジョンソンだ。自由自在にうねるようなベース・ラインが、聴くものに大きな快感をもたらしてくれる。
このアルバムで大成功を収めた後のクルセイダーズは、しばらく繁栄期が続くものの、80年代後半以降、流行音楽を生み出すグループとしては、徐々に表舞台から消える道をたどることになる。
フュージョン、ファンク・ジャズ、あるいはディスコ、ダンス・ミュージックといったものが次第にあきられて、時代の主流から外れていったということだな。
栄枯盛衰は世の常だから、それは仕方がない。
だが、そういった流行が過ぎ去った後も、クルセイダーズ・サウンドはポピュラー・ミュージックの核にしっかりと根付いている。
いってみれば、70年代以後のポピュラー・ミュージック全ての教科書のような存在になったのが、ザ・クルセイダーズ。
どの世代の人々も、彼らのプレイを聴き、真似ることで、ビート・ミュージックのスタンダードを知ることが出来る。
「ストリート・ライフ」が、いつ聴いても新鮮な感動を与えてくれるのは、そういうことなのだ。
<独断評価>★★★★☆
米国のフュージョン・バンド、ザ・クルセイダーズのスタジオ・アルバム。79年リリース。バンドメンバー、ウィルトン・フェルダー、スティックス・フーパー、ジョー・サンプルによるプロデュース。
クルセイダーズは高校時代からの仲間4人によるジャズ・バンドとしてスタート、61年にジャズ・クルセイダーズとしてレコード・デビュー、71年に現バンド名に改称して以来、フュージョン・バンドとして活動を続けていた。
現在オリジナル・メンバーとしては、ひとりフーパーのみが存命である。
彼らの商業的な成功の頂点にあたるのが、この「ストリート・ライフ」を発表した頃だ。アルバムは全米18位(ソウル、ジャズ・チャートでは1位)、タイトル・チューンは全米36位(ソウル・チャートでは17位)というヒットを記録したのである。
オープニングの「ストリート・ライフ」はサンプル、ウィル・ジェニングスの作品。アルバム・バージョンは11分18秒におよぶ大曲である。
アルバムでは唯一ボーカルをフィーチャーしたナンバーであり、76年にデビューした黒人女性シンガー、ランディ・クロフォードがゲスト参加している。
繊細なヴィブラートと、思い切りのいいシャウトが、ともに彼女の持ち技だ。テクニカルであり、一方、エモーショナルでもある実力派。
彼女の印象的な歌声により、この曲がスマッシュ・ヒットとなったのは間違いない。
その功績により、翌年にはクルセイダーズが彼女のアルバム「Now We May Begin」をプロデュース、ヒットするというオマケまで付いている。
ギターは3人。アーサー・アダムス、ローランド・バティスタ、ビリー・ロジャースである。アダムスはブルース系ギタリスト、バティスタは元アース・ウィンド&ファイアのファンク系ギタリスト、ロジャースは元ジャズ・クルセイダーズのギタリスト。
タイプの違うギタリストを3人も使うという、極めて贅沢な布陣なのである。
ベースはフェルダーが兼任。ゲスト・ベーシストが入る3曲以外はすべて彼が担当している。ほんと器用なひとだね。
ホーンは八管と、アルバム随一の強力な体制。テナーのフェルダーに加えて、トランペットはロバート・O・ブライアント・シニアとオスカー・ブラッシアー、テナーはブライアントの息子ジュニア、アルトはジェローム・リチャードソン、バリトンはビル・グリーン、テナー・トロンボーンはガーネット・ブラウン、バス・トロンボーンはモーリス・スピアーズ。
ゴージャスなホーン・サウンドが、女声ボーカルと並ぶこの曲の魅力の中心であることは間違いない。
ストリングスとホーンのアレンジは、サンプルが担当(他曲も同様)。この曲の深い味わいは、サンプルの手柄によるところ大だろう。キーボード同様、彼のアレンジ能力は素晴らしい。
ことにギターとストリングスの合わせ技は、クリティカル・ヒット(必殺技)だな。当時の日本でもさっそく高中正義が自分のアルバムに取り入れていたりする。
まぁ、フュージョン界最高峰のバンドなんだから、新作が出るとすぐに多くの後輩たちに真似されるのもしかたがない(笑)。
「マイ・レディ」はフェルダーの作品。
フェルダーのテナーを全面にフィーチャーした、ダンサブルなファンク・チューン。
ギターはバリー・フィナティとポール・ジャクソン・ジュニア。フィナティは白人ジャズ・ギタリスト、ジャクソンはフュージョン・ギタリスト。ともにファンキーなバッキングでこの曲を支えている。
サビのパートのバックに流れる混声コーラスは、フランスの、ルイとモニークのアルデベール夫妻のデュエットによるもの。
彼らはジャズ・コーラス・グループのダブル・シックス・オブ・パリのメンバーだった。このコーラスが、なんともエレガントな雰囲気を、曲に加味している。
「ロデオ・ドライヴ」はサンプルの作品。アップテンポでノリのいい、フュージョン・ジャズ・ナンバー。副題の「ハイ・ステッピン」も、納得のテンションである。
ロデオ・ドライヴとはアルバム・ジャケット写真を撮影したロサンゼルス・ビバリーヒルズの大通りのこと。
この街がもたらしたインスピレーションにより、本アルバムは生み出されたということだろうな。
この曲の陰の主役はベースのアルフォンソ・ジョンソンだ。彼はいうまでもなく、元ウェザー・リポートのベーシスト(二代目)。
その躍動感あふれるベースは、陽気な曲調ともマッチしている。フレットレス・ベースならではのアタック音が耳に心地よい。
ホーンは四管体制。フェルダーのテナー、ブラッシアーのトランペット、ブラウンのテナー・トロンボーン、スピアーズのバス・トロンボーン。
分厚いサウンドをバックに、気持ちよさげに吹くフェルダー。後を引き継ぐフィナテイのギター・ソロ、サンプルのローズ・ソロも快調だ。
「夜のカーニバル」はフェルダーの作品。タイトルが示唆するように、サンバ・ビートのナンバー。
ギターは4人体制と超豪華。大ベテランのデイヴィッド・T・ウォーカーを筆頭に、アダムス、バティスタ、そしてフィナティだ。
ギター・ソロを弾くのはフィナティ。そのジャズを基本としながらも、ファンクやブルースのエッセンスも加味したスリリングなプレイは、なかなかにイカしている。当バンドのかつてのメンバー、ラリー・カールトンにも通じるセンスがある。
ベースはジェイムズ・ジェマーソン・ジュニア。モータウンきっての名ベーシストの息子が、弱冠22歳での参加である。
ベテランたちに交じって臆することなく、スラップをきかせた堅実なプレイでサウンドをかためている。
「ハスラー」はフーパーの作品。
ミディアム・テンポのビートを効かせた、ファンク・ナンバー。
ギターはフィナティとジャクソン。フィナティがソロを担当している。ソリッドでファンキーなフレーズがグッド。
彼がこのアルバムでは、主席ギタリストという扱いなんだろうな。
フェルダーはここではテナーをアルトに持ち替えてプレイ。テーマ部分では、多重録音でサウンドに厚みを持たせている。
もちろん、作曲者であるフーパーのツボを押さえたタイトなドラミングも、文句なしにカッコいい。
ラストの「ナイト・フェイセズ」はサンプルの作品。
ダンサブルなビートを持つ、しっとりとした雰囲気のナンバー。
フェルダーはここでもアルトで吹いている。テーマ演奏に続いては、サンプルのローズによるソロ。再びフェルダーにソロが戻り、さらにサンプルへ…。
そんなループで、このナンバーはどこまでも続いていく。まるで終わらぬ夜のように。
で、この曲でも実は一番活躍しているのが、ベースのジョンソンだ。自由自在にうねるようなベース・ラインが、聴くものに大きな快感をもたらしてくれる。
このアルバムで大成功を収めた後のクルセイダーズは、しばらく繁栄期が続くものの、80年代後半以降、流行音楽を生み出すグループとしては、徐々に表舞台から消える道をたどることになる。
フュージョン、ファンク・ジャズ、あるいはディスコ、ダンス・ミュージックといったものが次第にあきられて、時代の主流から外れていったということだな。
栄枯盛衰は世の常だから、それは仕方がない。
だが、そういった流行が過ぎ去った後も、クルセイダーズ・サウンドはポピュラー・ミュージックの核にしっかりと根付いている。
いってみれば、70年代以後のポピュラー・ミュージック全ての教科書のような存在になったのが、ザ・クルセイダーズ。
どの世代の人々も、彼らのプレイを聴き、真似ることで、ビート・ミュージックのスタンダードを知ることが出来る。
「ストリート・ライフ」が、いつ聴いても新鮮な感動を与えてくれるのは、そういうことなのだ。
<独断評価>★★★★☆