NEST OF BLUESMANIA

ミュージシャンMACが書く音楽ブログ「NEST OF BLUESMANIA」です。

#291 小林万里子「朝起きたら・・・」

2013-10-27 09:29:30 | Weblog
#291 小林万里子「朝起きたら・・・」(ファースト・アルバム/フォーライフ)

シンガー・ソングライター、小林万里子のデビューシングル曲。小林自身のオリジナル。

小林万里子という名前を覚えている人は少ないと思うが、関西弁の「朝起きたら・・・」という印象的なフレーズで始まるこのブルースを覚えている人は、結構いるのではないかな。

これは、小林万里子が1978年にメジャーデビューした時のシングル。下記のyoutubeの音源はファースト・アルバムのB面、ライブステージ・バージョンとなっているが、オリジナルは石川鷹彦がアレンジを担当している。

小林は54年、神戸生まれ。お嬢さん学校の神戸女学院を卒業して、早稲田大学に入るも、とある家庭の事情から(同じく上京した実兄から、いまでいうところのDVを受けていたらしい)2か月で辞め、翌年神戸大学に再入学。

神戸大では軽音楽部に入り、曲作りを始めるが、下ネタの歌が多かったため、品のいいサークル内では浮いた存在だったという。

自作曲のデモテープをフォーライフレコードに送り、採用される。それがこのデビュー曲だったのだ。

見た目はフツーの四大卒の女性が、(おそらくは)自分の性体験をあけっぴろげに、自虐ユーモアをてんこ盛りにして、しかもダウンホームなブルース曲として歌うという彼女の個性は、当時際立っていた。

曲は発表されるや、おもに有線放送、深夜放送の世界で話題となり、リクエストが殺到。あざやかなクリーンヒットになった。

この勢いでセカンド・シングル「れ・い・ぷ フィーリング」をリリースしたのだが、ここでつまづいた。前作以上にキワドい歌詞が問題となり、放送禁止の扱いを受けてしまったのだ。

つまり小林の歌詞は単なるセクシーソング、下ネタソングというよりは、社会の矛盾、不条理に対するプロテストとして書かれたもので、事なかれ主義のマスメディアになじむものではなかったのだ。

その後、80年には井上陽水のプロデュースにより「すんまへんのブルース」、81年には「ファースト・アルバム」をリリースするも、またもや過激な歌詞内容が問題となったのか、アルバムは販売ルートに乗らず、幻の封印作品となってしまう。

この処分により、小林はメジャー活動の芽を摘まれ、82年には引退。以降、10年以上のブランクが続いたのである。

しかし、転んでもタダでは起きないのが、関西女のど根性。93年からは、地元関西を中心に草の根的な音楽活動を続け、過去のアルバムも再発し、また2011年にはニュー・アルバムをインディーズからリリースするなどして、現在に至っているのだ。

実は筆者は、先日大阪に行って、彼女のライブを初めて見て来た。

今年59才になる小林は、見た目は年相応のオバチャンになっていた(失礼)。が、歌い始めるや、場の空気が一変した。

声がまさにブルースなのだ。少し低めで、深みのある声質。日本人の女性ではなかなか聴けない、独特のニュアンス、フィーリングを持ったシンガーだと筆者は感じた。

お嬢さん育ちで、学力優秀、有名大学にも通っていた彼女が、なぜブルースのような被差別民族の歌をうたうようになったのか、疑問に思う人もいるかもしれない。それは、彼女のロング・インタビューがネット上にも掲載されているので、じっくり読んでいただきたい。

フェミドルに聞け!歌手小林万里子さん



中学に入学した頃から強度の不眠症に悩まされ、「太っている」「かわいくない」という理由から実の兄よりずっと DVを受けてきたという彼女、そういうやり場のない彼女の魂を救ってくれるのは、ブルースという音楽だけだったのである。筆者も、彼女と似たような境遇だっただけに、それは非常に共感をおぼえるのだ。

悩み、苦しみを笑いに変えて吹き飛ばす、底抜けのパワーを、ブルースは彼女に与えてくれたのである。

筆者が訪れた大阪のライブバー「シカゴロック」では、小林は実にのびのび、イキイキと「絶対マスメディアにはのらない歌」の数々をうたい倒していた。皇室ネタ、薬物中毒の芸能人ネタ、政治ネタ、ハゲネタ、そしてもちろん定番の下ネタ。メジャーを離脱したことをむしろ強力な武器として、言いたい放題、やりたい放題のライブだった。

もちろん、笑いや風刺だけでなく、音楽としてもじゅうぶん魅力に満ちた艶やかな歌声がそこにはあった。これぞ、ホンマモンのブルースウーマンやで。

東京ではまず聴くことが出来ないが、一聴の価値はある。皆さんも、大阪に行く機会があれば、事前にライブスケジュールをチェックして、ぜひ彼女を聴きに行ってみて。ノリノリ&抱腹絶倒、ヤミツキになるのは間違いない。

「浪花のジャニス」の異名も、ダテじゃない。ホント、そう思うよ。

この曲を聴く

音曲日誌「一日一曲」#1~#100 pdf版もダウンロード出来ます

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