2001年4月7日(土)
ミック・テイラー「シャドウ・マン」(アルファ・ミュージック)
ミック・テイラー、もちろん元ブルース・ブレイカーズ、元ストーンズの、あのミック・テイラーである。
1948年生まれの現在53才。その豊富なキャリアの割には若いともいえるが、ま、けっこういいトシではある。
20代のころはロック界屈指の美青年とうたわれた彼も、さすがに貫禄がついて、ふくよかなフツーのオジサン風になってしまった。
ピーター・フランプトンほどの変わりようではないけどね。
でも、ミック・テイラー、まだまだミュージシャンとして健在なり、ということを教えてくれるのが、96年発表のこのアルバムだ。
ハードなツアー、パーティでのバカ騒ぎに明け暮れていた、ストーンズとしての生活にさっさと見切りをつけて脱退したのが、74年暮れ。
以来、マイペースを絵に書いたような音楽活動を続けている。
79年にようやくファースト・ソロ・アルバム「ミック・テイラー」を発表、以後、寡作ながらもソロ作をリリースする一方で、ボブ・ディラン、ジョン・メイオール、ジョーン・ジェット、キース・リチャーズらとのセッションワークを残している。
日本でも根強い人気があり、87年、89年、92年と、たびたび来日公演を行っている。
そんな彼も、一時はフュージョン寄りのサウンド指向になり、ファンの評判はいまイチであったが、90年代にはまた彼自身のルーツ・ミュージックであるブルースへ戻ってきた。
やはり、彼にはブルース、それもアメリカ深南部の「濃い」ブルースが似合う。
このアルバムでは、曲作りや歌はもっぱらリード・ボーカルのサーシャ(オーストリア出身)にまかせて、自らはプレイヤーに徹している。
これが実に味わいのあるプレイだ。
おなじみのギブソン・ギター(メインはLPスタンダード、ほかにSGなど)で奏でる、伸びのある艶やかな音色はむかしと変わらない。
「ドント・クライ・リトル・ウーマン」での泣きのプレイなぞは、鳥肌モノだ。
また唯一のカバー、ストーンズ時代の名曲「ホンキー・トンク・ウーマン」でのスライド・プレイは、オリジナルとはまた一味違ったブルーズィーな名演だ。
サーシャの歌もソウルフルで力強く、ミックのギターになじんでいる。曲もアーシーな味わいがあり、いま注目のアーティストだ。
こういう自分より20才近く若い才能を見出して起用していくことも、ミック・テイラーの感性の柔らかさの証しといえるだろう。
「売れる音」とは到底いえないが、何度聴いても飽きのこないシンプルで良質のロック。
流行りものを追っかけることより、本当の本物だけをじっくり聴きこんでいきたい、そういうひとにぜひお薦めしたい一枚である。