2022年12月23日(金)
#404 TRAFFIC「TRAFFIC」(Island CID 9081)
英国のロック・バンド、トラフィックのセカンド・アルバム。68年リリース。ジミー・ミラーによるプロデュース。
トラフィックはスペンサー・デイヴィス・グループにて人気の高かったシンガー/キーボーディスト、スティーヴ・ウィンウッドが67年にグループを脱退、デイヴ・メイスン、クリス・ウッド、ジム・キャパルディと共に始めたバンド。67年にアイランド・レコードよりデビューした。
ヒット・シングル3枚、デビュー・アルバムを67年中に出し、順調なスタートを切ったように見えたトラフィックだが、当初から問題を抱えていた。
4人のメンバーのうち、メイスンがひとり浮いていたのだ。
いや、この表現だとまるで彼がハブられていたかのように聞こえてしまうのでいい直すと、他のメンバーからは活躍を期待されているのに、メイスン自身が「ここは自分の居場所じゃないのでは?」という違和感を抱いていたのである。
原因はおそらく、指向する音楽性の「ずれ」であろう。
トラフィックはロックとジャズの融合、両者の橋渡しをするようなサウンドを指向していたが、さらにいうと、メイスンはロック寄り、他の3人はジャズ寄りのサウンドを好んでいた。
ロックなギター・サウンドは出来るだけ避けて、ジャズィなアレンジに寄せていくのがポリシー。
一対三、これじゃあ孤立するだろう。
事実、このセカンド・アルバム制作前に、メイスンは一度バンドを脱退していたほどだ。
「それではアルバムが出来なくて困る」という他のメンバーの強い説得により、メイスンはアルバムを作るために復帰したのだそうだ。
そして、アルバムが無事完成したことにより、メイスンは再度バンドを離れることになる。
その後も、メイスンは三たびバンドに復帰し、さらにまたもや脱退するのだから、彼の「やめ癖」は根深いものがあるな。
ま、音楽性に関しては、お互い譲れない性分の人たちだから、こういういざこざはいたしかたないんだろうな。
そんなこんなで人間関係の面倒ごとはあったものの、アルバムの出来は見事なものだった。
トラフィックというバンドは、ポピュラリティよりも音楽性を優先させるというポリシーが災いしてか、レコードの売り上げは、どのアルバムにしても決してよくはなかったのだが、このセカンド・アルバムだけは唯一トップ・テンに食い込んだという事実が、その内容の良さを証明している。
全10曲のうち5曲、つまり半分をメイスンが単独または共作で作っており、そのいずれでもリード・ボーカルをとっている。残る半分は言うまでもなく、ウィンウッドの担当曲だ。
さらに言うと、このアルバムで最も魅力的でのちの時代もカバーされ続けた曲といえば、間違いなくメイスンの作曲した「フィーリン・オールライト?」だろう。
シングル・カットもされたのだが、その時は英国・米国共にチャート圏外であった。
だが、スリー・ドッグ・ナイト、グランド・ファンク・レイルロードらがその良さを認めてカバーしたことで、名曲としての評価を得るに至っている。
それ以外も「ユー・キャン・オール・ジョイン・イン」「ドント・ビー・サッド」「ヴァガボンド・ヴァージン」「クライン・トゥ・ビー・ハード」で、R&B色の強いウィンウッドとは異なる、ポップでわかりやすいメロディ・ラインを生み出している。
筆者的には「クライン〜」のパワフルなコーラス・サウンドやオルガン演奏が好みだ。
一方、ウィンウッドの曲も充実している。ライブでも定番の曲「パーリィ・クイーン」をはじめとして、「フー・ノウズ・ホワット・トゥモロー・メイ・ブリング」「ノー・タイム・トゥ・リヴ」など良曲が揃っている。
ただ、メイスンに比べると、やはりジャズ寄りのクロウト受けする曲が多い。
もし、全曲をウィンウッドの曲、ボーカルでプロデュースしていたら、ハイクォリティなものは出来たとしてもセールスのほうは相当キツかっただろうな。
こうしてアルバムを細かくチェックしていくと、(第1期)トラフィックにおいて、メイスンがいかに重要なポジションを占めていたかが、よく分かると思う。
その後、トラフィックを離れたメイスンは、70年代、米国でヒットを連発、成功を勝ち取るに至る。
それはウィンウッドが80年代半ばに米国のヒット・チャートを賑わすよりもずっと前のことだ。
因縁の対決、メイスンに軍配が上がった、というところか。
もちろん、いい音楽は、チャートの「勝ち」「負け」によって決まるものではない。
ウィンウッドも、遅まきながら80年代にようやく実力を評価されたということ。
メイスン、ウィンウッド、ともにすぐれた音楽性、実力なくしては、この栄誉はなかったはずだ。
アルバム・リリース当時、メイスンは22歳、ウィンウッドはなんと20歳。恐るべき若さである。
早熟の天才たちの、若き日のグレイト・ワークス。
トラフィックのセカンド・アルバムを聴いてしまうと、筆者のような凡才は、彼らにただただ羨望と畏敬の眼差しを送るのみである。
<独断評価>★★★★
英国のロック・バンド、トラフィックのセカンド・アルバム。68年リリース。ジミー・ミラーによるプロデュース。
トラフィックはスペンサー・デイヴィス・グループにて人気の高かったシンガー/キーボーディスト、スティーヴ・ウィンウッドが67年にグループを脱退、デイヴ・メイスン、クリス・ウッド、ジム・キャパルディと共に始めたバンド。67年にアイランド・レコードよりデビューした。
ヒット・シングル3枚、デビュー・アルバムを67年中に出し、順調なスタートを切ったように見えたトラフィックだが、当初から問題を抱えていた。
4人のメンバーのうち、メイスンがひとり浮いていたのだ。
いや、この表現だとまるで彼がハブられていたかのように聞こえてしまうのでいい直すと、他のメンバーからは活躍を期待されているのに、メイスン自身が「ここは自分の居場所じゃないのでは?」という違和感を抱いていたのである。
原因はおそらく、指向する音楽性の「ずれ」であろう。
トラフィックはロックとジャズの融合、両者の橋渡しをするようなサウンドを指向していたが、さらにいうと、メイスンはロック寄り、他の3人はジャズ寄りのサウンドを好んでいた。
ロックなギター・サウンドは出来るだけ避けて、ジャズィなアレンジに寄せていくのがポリシー。
一対三、これじゃあ孤立するだろう。
事実、このセカンド・アルバム制作前に、メイスンは一度バンドを脱退していたほどだ。
「それではアルバムが出来なくて困る」という他のメンバーの強い説得により、メイスンはアルバムを作るために復帰したのだそうだ。
そして、アルバムが無事完成したことにより、メイスンは再度バンドを離れることになる。
その後も、メイスンは三たびバンドに復帰し、さらにまたもや脱退するのだから、彼の「やめ癖」は根深いものがあるな。
ま、音楽性に関しては、お互い譲れない性分の人たちだから、こういういざこざはいたしかたないんだろうな。
そんなこんなで人間関係の面倒ごとはあったものの、アルバムの出来は見事なものだった。
トラフィックというバンドは、ポピュラリティよりも音楽性を優先させるというポリシーが災いしてか、レコードの売り上げは、どのアルバムにしても決してよくはなかったのだが、このセカンド・アルバムだけは唯一トップ・テンに食い込んだという事実が、その内容の良さを証明している。
全10曲のうち5曲、つまり半分をメイスンが単独または共作で作っており、そのいずれでもリード・ボーカルをとっている。残る半分は言うまでもなく、ウィンウッドの担当曲だ。
さらに言うと、このアルバムで最も魅力的でのちの時代もカバーされ続けた曲といえば、間違いなくメイスンの作曲した「フィーリン・オールライト?」だろう。
シングル・カットもされたのだが、その時は英国・米国共にチャート圏外であった。
だが、スリー・ドッグ・ナイト、グランド・ファンク・レイルロードらがその良さを認めてカバーしたことで、名曲としての評価を得るに至っている。
それ以外も「ユー・キャン・オール・ジョイン・イン」「ドント・ビー・サッド」「ヴァガボンド・ヴァージン」「クライン・トゥ・ビー・ハード」で、R&B色の強いウィンウッドとは異なる、ポップでわかりやすいメロディ・ラインを生み出している。
筆者的には「クライン〜」のパワフルなコーラス・サウンドやオルガン演奏が好みだ。
一方、ウィンウッドの曲も充実している。ライブでも定番の曲「パーリィ・クイーン」をはじめとして、「フー・ノウズ・ホワット・トゥモロー・メイ・ブリング」「ノー・タイム・トゥ・リヴ」など良曲が揃っている。
ただ、メイスンに比べると、やはりジャズ寄りのクロウト受けする曲が多い。
もし、全曲をウィンウッドの曲、ボーカルでプロデュースしていたら、ハイクォリティなものは出来たとしてもセールスのほうは相当キツかっただろうな。
こうしてアルバムを細かくチェックしていくと、(第1期)トラフィックにおいて、メイスンがいかに重要なポジションを占めていたかが、よく分かると思う。
その後、トラフィックを離れたメイスンは、70年代、米国でヒットを連発、成功を勝ち取るに至る。
それはウィンウッドが80年代半ばに米国のヒット・チャートを賑わすよりもずっと前のことだ。
因縁の対決、メイスンに軍配が上がった、というところか。
もちろん、いい音楽は、チャートの「勝ち」「負け」によって決まるものではない。
ウィンウッドも、遅まきながら80年代にようやく実力を評価されたということ。
メイスン、ウィンウッド、ともにすぐれた音楽性、実力なくしては、この栄誉はなかったはずだ。
アルバム・リリース当時、メイスンは22歳、ウィンウッドはなんと20歳。恐るべき若さである。
早熟の天才たちの、若き日のグレイト・ワークス。
トラフィックのセカンド・アルバムを聴いてしまうと、筆者のような凡才は、彼らにただただ羨望と畏敬の眼差しを送るのみである。
<独断評価>★★★★