本部長の独り言

車は低速で進んでいきます。真っ暗な車内はエアコンが効いて正に快適睡眠の環境です。
お酒と疲れが重なって佐川本部長はすやすやとお休みになっていました。
隣りの赤井さんは私の死角になっていて判りませんが多分同じような状態でしょうね。
私は後部座席から前方へと視線を移しました…
『あれっ！』
前方に移した視線を後部座席に戻しました。
暗闇でよくは判りませんが佐川本部長のコートが動いたような気がしたからです。
佐川本部長は座席の真ん中で真直ぐに眠っていらっしゃいます。
赤井さんは少しドア側に持たれ込んでいるようです。
…気のせいかな？ コートは静かに積まれていました。『…』
おかしいなあ…
何かが違うのですよ。
私は前方を見ながら考えました。
前方には画面いっぱいに大型トラックのお尻がありました。
走り慣れた道路で今さら標識なんか見なくても大丈夫(笑)ですが 右の追い越し車線は相変わらずカーチェイスをしています(笑)
前を走る大型トラックが少しぶれました。居眠りにしては…ぶれがちいさいなぁ…
いつの間にか私はすっかりこの低速に馴染んでいました。
『！』ピンときましたよ
そうか！コートがなかったよ。
確か走り始めにはコートは横に置いていた筈だ！
私はルームミラーを見ました。
キャメル色のコートは暗闇の中でも大型トラックの尾灯を受けてボンヤリと光っています。赤井さんは相変わらず死角に入って見られませんが、左肩辺りが膨らんでいて真ん中に沿ってコートに潜り込んでいました。
佐川本部長の右側もコートにかぶさっています。
これって…ひょっとして…
透し眼鏡は…(笑) あるわけないでしょうが(笑)
あればあのコートの中で一体なにが起こっているのか分かるのに…(笑) 私には確信がありました。
そうです！絶対にあのコートの中で二人の指が絡み合っているに違いありません(怒)
う～ん！さっきの夫婦論議は何だったんよ(怒)
激怒！激怒～
唖然！唖然～

複雑な心境が入り交じった私はそれでも冷静に対処しなくてはなりません(笑)
まず運転に集中すること。
雑念は事故の元であります。
幸いにも右側の追い越し車線が空いていました。
これをきっかけに車を静かに右車線に出すとアクセルを踏み込みました。
スピードはグングン上がります(笑) さっきまで付き合っていた大型トラックは後方に取り残されていきます。
まあぶっちゃけ、こんな話はいくらでもありますよ。 平常心。平常心
まじないを唱えてハンドルを軽く握り直していました。。。