すちゃらかな日常 松岡美樹

サッカーとネット、音楽、社会問題をすちゃらかな視点で見ます。

【手倉森ジャパン】点差と時間帯に応じて速攻と遅攻を使い分けろ

2016-03-28 11:47:37 | サッカー日本代表
時にはポゼッションも必要だ

 ポルトガルに遠征中の手倉森ジャパンは2日前、2012年ロンドン五輪金メダルの強豪、U-23メキシコ代表を2-1で撃破したばかり。だが押し込まれた後半の内容を分析すると、いくつかの課題が浮かび上がってきた。では今夜行われるポルトガル1部のスポルティング戦では、どこをどう修正すべきなのか? 順を追って見て行こう。

 まずメキシコ戦を見る限り、ニュー手倉森ジャパン最大の問題は、点差や時間帯など状況に応じた試合運びができてない点だ。具体的には、マイボールになると何でもかんでもタテへ、タテへと速攻をかけてしまう。せっかくマイボールにしても、ボールをすぐに失うリスクをかけた攻め方オンリーになっている。

 特に押し込まれたメキシコ戦の後半などは、2-0でリードしているのだから速攻が無理な局面ならば遅攻に切り替え、もっと時間をうまく使うべきだった。にもかかわらずボールを取ったら遮二無二タテへ攻め急ぎ、結果、簡単にボールを失いまた猛攻にさらされる。その繰り返しだった。

 金持ち、ケンカせず。勝っているのだから、そんな意味のないリスクを犯す必要はない。もっと局面に応じて安全にボールを横につないだり、ときにはバックパスも織り交ぜながらじっくりポゼッションするべきだ。

 手倉森ジャパンは、そんな緩急の使い分けができていない。

「世界」を目指す、したたかな試合運びを

 もちろんアジア最終予選の戦いぶりを見れば、もともと彼らはポゼッション率にこだわらない速攻カウンターのチームであることはわかる。ゆえに技術的に、また「サッカー脳」的に突然、ポゼッションからの遅攻ができるようになるとは思わない。

 だがリオ五輪で「世界」を目指す以上、点差や時間帯を考えながら、またその局面での敵味方のポジショニングに応じた速攻と遅攻の使い分けは絶対に避けて通れない。真ッ正直にタテへばかり急ぐのでなく、もっとしたたかな試合運びが必要だ。

 むろんこれは「90分間ポゼッション・スタイルのサッカーをしろ」という意味ではない。あくまでタテに速いカウンター速攻スタイルをベースにしながら、ただし局面によっては(それが必要なら)適宜ポゼッションするべきだ、という意味である。

 手倉森ジャパンはまだ荒削りで未完成だが、潜在能力が高い。伸びしろが大きい。そんな彼らが状況を読みながら戦う試合巧者になれば、放っておいても「世界」は向こうから寄ってくるだろう。

プレッシングの使い分けはどうするか?

 第二の問題は、局面に応じたプレッシングの使い分けだ。メキシコ戦、日本は4-2-3-1のシステムでスタートしたが、守備時には形を変えた。例えば試合の立ち上がり、ボールをキープする相手の最終ラインに対し、南野と中島、久保の3枚が最前列でフラットになりプレスをかけるスタイルがよく機能していた。前半2分早々に先制点を取れたのも、このハイプレスゆえだ。

 だが90分間、あのプレスのかけ方を続けるのは厳しい。事実、日本の選手は次第に消耗し、特に後半になると運動量が落ちた。それとともに敵ボールホルダーに対する寄せが甘くなり、余裕を持ってプレイさせてしまうシーンも増えた。

 そして日本がシステムを4-3-3に変えた後半にはブロックが低くなり、前がかりになったメキシコの猛攻をモロに被る形になった(そのため後半9分に4-4-2へ変更)。こんなふうに日本は後半、(テストのため)システムと選手を変えたせいで自分からバランスを崩してしまった。そのせいもあるので割り引いて考える必要はあるが、前からプレスに行けないあの時間帯にどう対応するかは問題だ。

「厳しいプレッシングが90分間続かない」

 もちろんこれは今に始まった議論ではなく、サッカーにおける永遠のテーマといえる。

 対応策としては、例えば時間帯によっては相手ボールになったらある程度リトリートしてあらかじめ守備ブロックを作って待ち受けたり、個人戦術としてはひとつひとつの球際の間合いを詰めて寄せを厳しく、相手を自由にプレイさせないことが重要になる。

 アジア最終予選のときからそうだったが、このチームは特にSHの守備の意識にムラがある。自陣に火がついているのにSHが攻め残ってしまう傾向がある。メキシコ戦ではある程度修正されていたが、やはり時として最終ラインと中盤の選手で形成する4-4の守備ブロックを作れていない。そのためボランチの両脇がガラ空きになり、そのスペースを自由に使われる場面が見られた。SHはプレスバックが必要なときは怠らず、基本に忠実にプレイしてほしい。

 もっとも個人的には、前半の立ち上がりに見せたあの超アグレッシヴなハイプレスを90分間続けるガッツと体力、メンタルを備えた「完成形」を見てみたいが……まあこれは監督が判断する案件だから、希望は希望としてそっと呟いておこう。

決定力は伸びしろ込みで杞憂なし

 あとはやはり決定力だ。メキシコ戦では前半26分に中島がどフリーのシュートをはずした。その1分後には今度は久保が、左SB亀川からのクロスボールをフリーの体勢でヘディング・シュートし宇宙開発した。あの2本の決定的なチャンスを決めていれば、メキシコ戦は前半で完全に終わっていたはずだ。

 ただしA代表とちがいこのチームに関しては、決定力はそう心配していない。なぜならチームの一体感やメンタルの強さのせいで、彼らは自然に「勝負の流れ」を呼び込めるからだ。で、このチームは技術や戦術ではなく「勢いや爆発力」でドカンと試合を決めてしまう(A代表にはこの種のオカルト的な「強さ」がまったくない)。手倉森ジャパンのサッカーは実にスペクタクルであり、兄貴分とはダイナミズムがまるでちがう。

 また今回メキシコ戦では新システムの4-2-3-1を試したが、よく機能していた。特に前でスペースをたっぷり持ったトップ下の中島が気持ちよさそうにプレイした。あのシステムなら、セカンド・ストライカーにもなれる中島の前への飛び出しがいっそう生きる。ワントップの久保とのコンビネーションも抜群だった。

 その久保は攻撃だけでなく、身を削るような粘り強い守備ができるインテンシティの塊のような選手だ。両翼に入った南野と豊川も切れていた。また中央ではチームの心臓であるボランチの遠藤が、左右へのボールの振り分けや要所での鋭い縦パス、逆に相手のパスカットなど中盤の核としてよく利いていた。そんなわけで得点力に関しては、伸びしろ込みで杞憂はない。

守備陣がビルドアップに参加し始めた

 一方、守備陣に関しては、アジア最終予選で乱発したアバウトなロングボールの放り込みをめっきり封印した。相手の攻めをただ弾き返しクリアするだけでなく、奪ったボールを前へ正確に繋ごうとする意識が生まれている。おそらく監督からの指示だろうが、ビルドアップの第一歩になるパスを出そうという意欲が見えるようになってきた。

 最終ラインからのビルドアップに関してはまだ道半ばだが、それを意識するようになった時点で大きな進歩だ。今後に期待したい。かたやDF陣の守備についてはCBの植田、岩波を筆頭に頼もしい強さと高さがある。GKの中村航輔も後半にファインセーブを連発していた。もともと守りはこのチーム最大のストロング・ポイントであり、細かい修正点以外は心配ないだろう。

 唯一、寄せが甘くゾーンの感覚に乏しい新戦力のSBファン・ウェルメスケルケン・際は、ゾーンディフェンスの基礎からやり直す必要がありそうだ。だがそのほかの選手についてはそう大きな穴はない。というよりむしろまだ土の中から掘り出したばかりのダイヤモンドの原石のように、フレッシュで将来性豊かなキラキラした魅力にあふれる選手たちばかりだ。

 さて今夜行われるスポルティングとの強化試合では、ぜひターンオーバーで鎌田と関根、金森を使ってほしい。彼らは押し込まれていたメキシコ戦の後半に途中出場したため見せ場は少なかったが、それでも光るものはあった。ぜひ今度はスタメンで見てみたい。(と、これもそっと呟いておこう)

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