時空を歪めた久保のチャンスメイク
ラ・リーガ第5節が9月17日(日本時間18日)に行われ、レアル・マドリードとレアル・ソシエダが対戦した。ソシエダが開始早々の前半5分に先制したが、後半にマドリーが2点を取って辛くも逆転勝ちした。特に前半は、4-3-3の右ウィングでスタメン出場した久保建英の「ワザのデパート」が鋭意開店した。
もはや久保を止めるには通常の手段ではムリなようだ。マドリーの例に習えば、わざわざマーカーを2人つけるか、あとはファウルくらいしかない。どちらも正々堂々なる日本人的な価値観とは縁遠いが。
だが白い巨人はそのすべを知っていた。いい見本を、久保に股抜きされて辱めを受けた元ドイツ代表MFトニ・クロースが見せた。抜かれて肘ブロックしたクロースのファウルには黄色いカードが出た。久保とマッチアップしていた彼はさんざんやられてイラ立っていたのだ。
前半終了間際。このとき久保はたったワンモーションで、左足の裏でボールを一度引き、すぐ前に押し出す必殺ワザを繰り出して簡単に股抜きした。当該シーンが象徴的だが、それだけこの日の久保は危険な香りを漂わせていた。
ソシエダの先制ゴールを演出した
久保のショーは試合開始5分にすぐ開演した。このときボールはソシエダの最終ラインを右から左へと経由していた。そして左サイドの中盤からアンデル・バレネチェアが横方向に持ち出す。で、右にいたブライス・メンデスにボールを渡す。
右サイドに開いた久保に彼から斜めのボールが出た。久保はまず右足でトラップし、動きながら1つ、2つ、ボールを小突いて中の状況を観察する。で、ゴールに向けてカットイン。そして力まずほんの軽い感じで、左足を小さく後ろに振り上げ鋭く前へ振った。
インフロントで瞬時に低いクロスが入る。強くて速いボールがゴール方向へ飛んだ。これにバレネチェアがワンタッチで合わせたが、GKケパ・アリサバラガがストップした。
だがボールはこぼれ、バレネチェアが2〜3度プッシュしてゴールへ押し込んだ。マドリーの出鼻を挫く先制弾だ。彼は今シーズン3点目。2試合連続である。
取り消された幻のゴラッソ
続く11分。世界は衝撃的なシーンを目の当たりにする。
中盤の中央でブライス・メンデスから交差する形でボールを受けたミケル・オヤルサバルが、右サイドへボールを振る。これを敵ボックス右角で受けた久保は右足でトラップし、ドリブルでカットインする。
いったんわずかにエリア内へ入った。だが敵DFが寄せてきたため、細かい複数のボールタッチでゴールから小さく遠ざかる。で、マーカーをかわす。その一瞬後だ。ゴールから逃げ、まさかシュートするなんて周囲に認知させない絶妙なタイミングだった。ペナルティアーク右手前から強く左足を振り抜いたのだ。
ダイアゴナルな美しい軌道を描く弾丸シュートが、ゴール左スミのサイドネットに突き刺さった。凄まじいゴールだった。と、だがオフサイドの位置にいたオヤルサバルの背中に、なんとシュートしたボールがわずかにかすっていたというのだ。
なんてことだろう。さっきのあのゴラッソはオフサイドで取り消されてしまった。幻のミドル弾。ありえない損失だ。これは文化財保護法に違反しているのではないか?
ボックスからボックスへと長駆ドリブル
29分のプレイも鳥肌モノだった。マドリーの攻撃を弾き返したあと、右サイドの低い位置でSBトラオレが保持したボールを右前にいた久保が受けたシーンだ。
このとき久保は一度ボールをもらいに下がる動きでマーカーとの距離を空け、一瞬で前方へ急ターン。今度はサイドに開いてトラオレからの角度を作って球出しを誘う。危険を察知したマーカーが久保との距離を詰めようとしたその瞬間だった。
久保はトラオレから引き出した縦パスに左足でワンタッチして前へと角度をつけ、マーカーが絶対に触れない前方のコースにボールを弾いて転がした。ボールは勢いよく無人の前方スペースへ抜けて行く。そのあとを走る久保は、2人のマーカーを完璧に振り切ってボールを支配下に置いた。
そして60メートル近くをドリブルしてカットイン。敵ボックス内へ侵入し、左に切り返して左足を強振した。このシュートはGKケパが倒れながら辛うじて弾いたが、もし決まっていたら歴史に残るだろう。
最初のワンタッチでマーカー2人を置き去りに
それにしてもすごい攻撃だった。このときボールは自陣のボックス近くから、敵陣のボックス内までえんえん動いた。久保ひとりでこのカウンターを実現したのだ。
しかもSBトラオレからパスを受けたときの久保は、たった一度しかボールに触ってない。なのにそのワンモーションでマーカー2人を完全に置き去りにした。あのワンタッチ・コントロールだけで、ご飯がおいしく3杯食べられる。
そして直後の31分には敵陣でまたトラオレからパスを受け、彼は右からボックス内へ侵入した。敵DFと正対し、左足で低い浮き球のピンポイントなクロスを入れる。マーカーなんていないも同然だ。
そこへジャストのタイミングでゴール前に飛び込んできたミケル・メリーノが、倒れながら痛烈なヘディングシュートを見舞った。GKケパが横っ飛びでセーブしたが、これも決定的なシーンだった。
久保の前に立ちはだかる新たな課題とは?
ただし久保は後半になるとガス欠で運動量が落ち、残念ながら消えてしまった。先日スタメン出場した日本代表のトルコ戦と同じ展開だ。
守備もするようになった日本のメッシは、そのぶん新たなテーマとしてスタミナ(運動量の維持)が課題になる。挑んでほしい。
後半は久保の運動量が低下するにつれ、相対的にマドリーのポゼッションする力が増して行った。攻撃こそ最大の防御なり。つまり彼の攻撃力が敵を自陣に張り付けにし、裏を返せばそのままソシエダの防御力にもなっているわけだ。
かくて後半、アンチェロッティのチームが2点を取って逆転勝ちした。ただし本題はそこではなく、あくまで久保という「文化財保護」の観点から記憶に残るゲームだった。
ラ・リーガ第5節が9月17日(日本時間18日)に行われ、レアル・マドリードとレアル・ソシエダが対戦した。ソシエダが開始早々の前半5分に先制したが、後半にマドリーが2点を取って辛くも逆転勝ちした。特に前半は、4-3-3の右ウィングでスタメン出場した久保建英の「ワザのデパート」が鋭意開店した。
もはや久保を止めるには通常の手段ではムリなようだ。マドリーの例に習えば、わざわざマーカーを2人つけるか、あとはファウルくらいしかない。どちらも正々堂々なる日本人的な価値観とは縁遠いが。
だが白い巨人はそのすべを知っていた。いい見本を、久保に股抜きされて辱めを受けた元ドイツ代表MFトニ・クロースが見せた。抜かれて肘ブロックしたクロースのファウルには黄色いカードが出た。久保とマッチアップしていた彼はさんざんやられてイラ立っていたのだ。
前半終了間際。このとき久保はたったワンモーションで、左足の裏でボールを一度引き、すぐ前に押し出す必殺ワザを繰り出して簡単に股抜きした。当該シーンが象徴的だが、それだけこの日の久保は危険な香りを漂わせていた。
ソシエダの先制ゴールを演出した
久保のショーは試合開始5分にすぐ開演した。このときボールはソシエダの最終ラインを右から左へと経由していた。そして左サイドの中盤からアンデル・バレネチェアが横方向に持ち出す。で、右にいたブライス・メンデスにボールを渡す。
右サイドに開いた久保に彼から斜めのボールが出た。久保はまず右足でトラップし、動きながら1つ、2つ、ボールを小突いて中の状況を観察する。で、ゴールに向けてカットイン。そして力まずほんの軽い感じで、左足を小さく後ろに振り上げ鋭く前へ振った。
インフロントで瞬時に低いクロスが入る。強くて速いボールがゴール方向へ飛んだ。これにバレネチェアがワンタッチで合わせたが、GKケパ・アリサバラガがストップした。
だがボールはこぼれ、バレネチェアが2〜3度プッシュしてゴールへ押し込んだ。マドリーの出鼻を挫く先制弾だ。彼は今シーズン3点目。2試合連続である。
取り消された幻のゴラッソ
続く11分。世界は衝撃的なシーンを目の当たりにする。
中盤の中央でブライス・メンデスから交差する形でボールを受けたミケル・オヤルサバルが、右サイドへボールを振る。これを敵ボックス右角で受けた久保は右足でトラップし、ドリブルでカットインする。
いったんわずかにエリア内へ入った。だが敵DFが寄せてきたため、細かい複数のボールタッチでゴールから小さく遠ざかる。で、マーカーをかわす。その一瞬後だ。ゴールから逃げ、まさかシュートするなんて周囲に認知させない絶妙なタイミングだった。ペナルティアーク右手前から強く左足を振り抜いたのだ。
ダイアゴナルな美しい軌道を描く弾丸シュートが、ゴール左スミのサイドネットに突き刺さった。凄まじいゴールだった。と、だがオフサイドの位置にいたオヤルサバルの背中に、なんとシュートしたボールがわずかにかすっていたというのだ。
なんてことだろう。さっきのあのゴラッソはオフサイドで取り消されてしまった。幻のミドル弾。ありえない損失だ。これは文化財保護法に違反しているのではないか?
ボックスからボックスへと長駆ドリブル
29分のプレイも鳥肌モノだった。マドリーの攻撃を弾き返したあと、右サイドの低い位置でSBトラオレが保持したボールを右前にいた久保が受けたシーンだ。
このとき久保は一度ボールをもらいに下がる動きでマーカーとの距離を空け、一瞬で前方へ急ターン。今度はサイドに開いてトラオレからの角度を作って球出しを誘う。危険を察知したマーカーが久保との距離を詰めようとしたその瞬間だった。
久保はトラオレから引き出した縦パスに左足でワンタッチして前へと角度をつけ、マーカーが絶対に触れない前方のコースにボールを弾いて転がした。ボールは勢いよく無人の前方スペースへ抜けて行く。そのあとを走る久保は、2人のマーカーを完璧に振り切ってボールを支配下に置いた。
そして60メートル近くをドリブルしてカットイン。敵ボックス内へ侵入し、左に切り返して左足を強振した。このシュートはGKケパが倒れながら辛うじて弾いたが、もし決まっていたら歴史に残るだろう。
最初のワンタッチでマーカー2人を置き去りに
それにしてもすごい攻撃だった。このときボールは自陣のボックス近くから、敵陣のボックス内までえんえん動いた。久保ひとりでこのカウンターを実現したのだ。
しかもSBトラオレからパスを受けたときの久保は、たった一度しかボールに触ってない。なのにそのワンモーションでマーカー2人を完全に置き去りにした。あのワンタッチ・コントロールだけで、ご飯がおいしく3杯食べられる。
そして直後の31分には敵陣でまたトラオレからパスを受け、彼は右からボックス内へ侵入した。敵DFと正対し、左足で低い浮き球のピンポイントなクロスを入れる。マーカーなんていないも同然だ。
そこへジャストのタイミングでゴール前に飛び込んできたミケル・メリーノが、倒れながら痛烈なヘディングシュートを見舞った。GKケパが横っ飛びでセーブしたが、これも決定的なシーンだった。
久保の前に立ちはだかる新たな課題とは?
ただし久保は後半になるとガス欠で運動量が落ち、残念ながら消えてしまった。先日スタメン出場した日本代表のトルコ戦と同じ展開だ。
守備もするようになった日本のメッシは、そのぶん新たなテーマとしてスタミナ(運動量の維持)が課題になる。挑んでほしい。
後半は久保の運動量が低下するにつれ、相対的にマドリーのポゼッションする力が増して行った。攻撃こそ最大の防御なり。つまり彼の攻撃力が敵を自陣に張り付けにし、裏を返せばそのままソシエダの防御力にもなっているわけだ。
かくて後半、アンチェロッティのチームが2点を取って逆転勝ちした。ただし本題はそこではなく、あくまで久保という「文化財保護」の観点から記憶に残るゲームだった。