※劇場「ザ・スズナリ」の飲み屋街「鈴なり横丁」
誰かが近づいて来る足音が聞こえたが……
前回以前の記事で下北沢についていろいろ書いてるうちに、あれこれ昔の記憶が蘇ってきた。学生時代にやったポスター配りのアルバイトには実にいろんな思い出がある。
つまり何かしらの宣伝ポスターを飲み屋なんかの店に置いてもらうバイトだ。
あるとき、下北沢の街はずれにある劇場「ザ・スズナリ」の横の飲み屋街でポスターを配った。確かあの時は演劇の告知ポスターじゃなかったかな?
で、ある店で若い美人ママが独り居た。そこで彼女に主旨を説明してポスターを渡し、店を出た。そしてしばらく歩いていると……後ろから速足で誰かが近づいて来る足音が聞こえる。
なんだろう?
そう思って振り返ると、なんとさっきの美人ママだ。速足で追いついてきたのですっかり上気した顔つきで、彼女は私の耳元に向けてこう囁いた。
「あなた、私の好みよ♪」
そうひと言だけ言い残し、彼女はさっさと店へ帰って行った。
真夏の暑い夜だった。
まだ若かった私は、まるで雷に打たれたようにその場に凍りついた。
いま思えばまるで小説のワンシーンみたいだが、そんな出来事が実際にあったのだ。人生模様いろいろだったなぁ、あのポスター配りは……。