暗闇だからこそ成立する親密さの魅力がある。
どっちが壁の方向でどこに段差があるかも分からず
身を寄せ合い、体を動かすことが困難になり
物理的な空間と自分の体の結びつきも不確かで
よちよち歩きつつ光に捉えられることもなく
体も失い自分が透明人間になった感覚になる。
けれど透明人間でないことを証明してくれるのが
魂同士の会話のように応えてくれる声であったり
盲目の世界でサーチライトの役目をするのが
感覚器官の目より全身を運んでいる運動器官の足で
触感は疑いつつ受け入れ同時に確認し安心し
適切な向きと強さの情報を読むことをし
全身の平衛感覚は常に鍛えられて目の見える人より姿勢がよくなる。
盲目な恋はこれほどにも豊かな情報を差し出すので
あばたもえくぼに見える。
東山紀之「Automatic」