時事解説「ディストピア」

ロシア、イラン、中国等の海外ニュースサイトの記事を紹介します。国内政治、メディア批判の記事もあります。

サウジアラビアに沈黙してきた日本の中東研究者たち

2015-02-09 00:45:09 | リビア・ウクライナ・南米・中東
先日、アメリカによって、9.11同時多発テロにサウジアラビアが関与し、
テロ組織への金銭的な支援を行っていたことが暴露された。


これ自体は特に驚くべきことではない。
そもそも、サウジはテロ支援国家として有名である。

しかしながら、この件を考えるに、
やはり、日本の中東研究者がこれまで全くサウジアラビアのテロ支援について
言及してこなかった責任というものはあるだろうと思われる。


サウジは、ここ数カ月の間にも、国王への抗議運動を全面禁止する法律を制定したり、
治安部隊がシーア派居住区を銃撃し、多数の死者、負傷者を出させている国だ。


(参考ページ。
 http://japanese.irib.ir/news/latest-news/item/51219
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 http://japanese.irib.ir/news/latest-news/item/51057
 -%E3%82%B5%E3%82%A6%E3%82%B8%E3%82%A2%E3%83%A9%E3%83
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 1%8C%E5%8B%95%E3%81%8C%E5%85%A8%E9%9D%A2%E7%9A%84%E3%81%AB%E7%A6%81%E6%AD%A2)


そればかりでなく、カタールと一緒に
シリアにテロリストを送り込んでいるテロ支援国家でもある。
http://japanese.irib.ir/news/latest-news/item/50975
 -%E3%82%B5%E3%82%A6%E3%82%B8%E3%82%A2%E3%83%A9%E3%83
 %93%E3%82%A2%E3%80%81%E5%9C%B0%E5%9F%9F%E6%9C%80%E5%A
 4%A7%E3%81%AE%E3%83%86%E3%83%AD%E6%94%AF%E6%8F%B4%E5%9B%BD

 http://japanese.irib.ir/component/k2/item/48591
 -%E3%83%86%E3%83%AD%E7%B5%84%E7%B9%94%EF%BD%89%EF
 %BD%93%EF%BD%89%EF%BD%93%E3%81%AB%E5%AF%BE%E3%81%
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この件については、イランラジオに秀逸な記事があった。
一部を抜粋する。


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2014/01/06(月曜) 23:18
西側政府による過激派の悪用


013年、一部のイスラム諸国が流血の衝突や犯罪行為の舞台となってきました。
シリア、イラク、パキスタン、レバノン、アフガニスタンのような
国における過激主義や暴力は、頂点に達しています。

イスラム教の名の下に暴力に訴える人々や、
サウジアラビアの情報機関の傘下にある
タクフィーリー派と呼ばれる過激派組織は、
あらゆる犯罪行為に手を染めています。

~(中略)~


もしアメリカとイギリスの情報・政治的な支援と、
サウジアラビアやアメリカの同盟国の一部による資金面、軍事面での援助がなければ、
テロ組織アルカイダやその他の一部のテログループは結成されなかったでしょう。


現在シリアやイラクで活動を拡大し、
どのような犯罪行為も惜しまないワッハーブ派のテログループは、
現在、西側諸国やサウジアラビアから直接的な軍事・資金面での支援を受けています。



これらの政府は、こうしたテロ集団の全ての犯罪行為を黙認しているのです。


彼らは、民主主義や自由の要求の名の下に、
イスラム教徒と名のつく多くの暴力的な人物やタクフィーリー主義者を、
世界各地からシリアに集めています。


これらの人物は、自分たちが支配下に置いた地域で、
アフガニスタンのタリバン政権や、
それ以上に悪質な組織を連想させる行動をとっています。
彼らの狂信的な思想は、イスラム教と何の関係もありません。

彼らはシリアで子どもでさえも、
シーア派イスラム教徒の家庭から生まれたとして、殺害しているのです。

http://japanese.irib.ir/programs/%E4%
B8%96%E7%95%8C%E3%81%AE%E6%83%85%E5%8B%
A2/item/42492-%E8%A5%BF%E5%81%B4%E6%94%
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ここで問題。

上の記事で語られているワッハーブ派のテロ組織の正式名称は?




そう、イスラム国(ISIS)だ。


つまり、イランラジオは日本でイスラム国が騒がれる数か月前には
すでに、彼らの凶行を非難していたのである。



そして、この元凶、イスラム国のイデオロギーは
サウジのスンニ派の宗派(ワッハーブ派)が影響されており、
加えて、これら組織に経済支援を行っているのがサウジだとも指摘している。


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テロ組織ISIS、ヌスラ戦線、タリバン、アルカイダなどは、
過激なタクフィーリー派や狂信的なワッハーブ派から生まれたものであり、
アメリカやその同盟国は完全にこのことを知り尽くしています。


しかし、彼らはサウジアラビアを支配する
ワッハーブ派の思想に対抗しようとはしませんでした。


なぜなら、サウジアラビアは世界最大の石油の埋蔵国、生産国であり、
また西側にとっては武器の大市場であるとともに、
中東地域におけるアメリカの政策の実行役だからです。


パキスタンのペシャワールにおいて、このワッハーブ派は、
これまでタリバンやアルカイダにイデオロギーを与え、
資金的、軍事的な援助を行い、現在もこれを行なっています。


ワッハーブ派はまた、
現在もほとんどのイスラム諸国や西側諸国で活動しています。



http://japanese.irib.ir/component/k2/item/4859
1-%E3%83%86%E3%83%AD%E7%B5%84%E7%B9%94%EF%BD%89
%EF%BD%93%EF%BD%89%EF%BD%93%E3%81%AB%E5%AF%BE%E
3%81%99%E3%82%8B%E9%80%A3%E5%90%88%E7%B5%90%E6%88%90

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つまり、近年のムスリムのテロについて言及するにおいて、
ワッハーブ派への言及およびサウジアラビアのテロ支援は避けて通れないはずだ。



ところが、この国に対する批判というのは、
中東研究者はあまり(あるいは全く)していない。





http://www.newsweekjapan.jp/column/sakai/2014/06/post-846.php

http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2011072700624.html

http://iwj.co.jp/wj/open/archives/147377

http://cruel.org/other/koukenikeuchiisis.html

まず、酒井啓子氏は
「政治参加の術(すべ)のない怒れる若者たちは、
 国外に出て世界に刃(やいば)を突きつけるのだ。」と、
あたかもサウジ政権とテロが無関係であるかのようにコメントしている。


次に、内藤正典氏はサウジの支援を一部の豪族が個人的に行っているかのように語る。
だが、イランラジオは言うに及ばず、王族(というより政府)が関与しているのは
明白だ。今回の9.11テロへの関与はその好例である。


最後に、池内恵氏だが、この方に至っては
ワッハーブ派やタクフィーリー派の言及すらない。



いずれにせよ、現在、イスラム国についての書籍で
ベスト・セラー、大きな売り上げを上げている人たちが
こぞって、全く同じ態度を示してきたわけだ。


で、こういう人たちの語ることだから、
当然、これら書籍でもアメリカの批判はすれど、サウジの批判はない



要するに、非常に巧妙な手段で、歪んだ認識を我らに提供しているわけだ。
サウジは日本にとって石油輸入国の筆頭であり、中東最大の親米国でもある。


そのせいかどうかは知らないが、
意図的とも云えるほど、サウジに言及しない、しようとしない。


ここで彼らのこれまでの行為を翻ると、
イラク戦争直前までのサダム・フセインへの非難や
アラブの春の礼賛、そして今回のイスラム国へのそれと、
なぜかアメリカや日本に都合のよい意見ばかり唱えている


イラク戦争だけ、なぜか批判的に検討されているが、
それを除けば、日米の安全保障政策に支障をきたさない範囲内の発言に留めている。


こうしてみると、軍拡の道への影の支持者は中東研究者なんじゃないかとさえ思えてくる。

もっとも、こういうのは目立つ連中だけの話であり、
早尾貴紀氏をはじめとする中堅の研究者は、ここまで非道くはない。


だが、彼らの言葉は得てして文字にならないのだ。
新聞もテレビも、雑誌も単行本も、前者の言葉は掲載するが、後者に関しては……


そういうことである。口をパクパク動かすだけの自由。
それが民主主義国家の自由なのかもしれない。


私たちに出来ることは、海外のニュースサイトを中心として
日本ではない視点から書かれた情報を集め、分析することだけなのだろう。


2015年7月30日追記


岩波の『イスラーム国の脅威とイラク』では、
サウジやカタール等の周辺諸国の支援でイスラム国が台頭したという
記述があるらしいが、同時に同組織にアメリカは支援していないということが
書いているらしく、どの道、それはどうよという説明がされているらしい。