時事解説「ディストピア」

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ザ・コーブでは何が訴えられているのか?その6

2015-02-23 00:39:32 | ザ・コーブ
『ザ・コーブ』は鯨類捕獲についての問題点を色々と指摘してくれる作品であり、
 それだけに各賞を受賞したのは納得のいくものだと思われる。


これについて、同作を非難する声を拾うと、
「日本が」「日本人が」「日本の文化が」とひたすらJapanを強調したものばかりで、
申し訳ないが、建設的な意見とは、とてもじゃないが思えない。


捕鯨についてあまり賛意していないはずの勝川俊雄教授まで
次のような見解を示している(以下、引用元は全てhttp://katukawa.com/?p=3667)。



かわいいイルカちゃんを殺す悪い奴らと闘う、僕ら正義の保護団体」というシンプルなメッセージ。
「悪い奴は明らか、問題も明らか。あとは実力行使でやめさせるだけ」、ということだ。

~中略~

エンターテイメントとしても、一級だ。

世界一のビルを上る男とか、ジオラマ作成専門家とか、
いろいろな特技を持った人間が協力してミッションを行うストーリーは単純明快でアメリカン。

悪者にされた日本人にしてみれば、かなり不愉快な映画であります。
この映画によって、日本人のイメージは確実に悪くなりますね。
The Coveの内容についてはこちらのサイトが詳しいです。

~引用終わり~
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ザ・コーブでは何が訴えられているのか?その5

この映画で何が語られているのかは上の記事にまとめている。
より詳しい内容はカテゴリー「ザ・コーブ」をクリックしてほしい。


さて、勝川教授は、本作が基本的に水族館ビジネスへの反対運動が
基軸となっていることを無視して、イルカ漁の部分のみに言及している。

ザ・コーブでは何が訴えられているのか?その1

これまで述べたように、この撮影の企画者であるリック・オバリー氏は
イルカの食肉よりも、2~3年でストレス死するのを承知で
数10億の利益のためにイルカショーを開催およびイルカを売買するビジネスに反対している。


この点を無視すると、「イルカを食べるのは可哀そう」と言っている連中だと
ミスリードさせることになる。実際はそうではない。次の記事を読んでほしい。



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(太地のイルカ漁に反対する活動家のコメント)

As the annual dolphin-killing season begins at the cove at Taiji, Japan,
毎年、日本の太地町の入り江でイルカが殺される時期になると
the focus will be on the slaughter.
問題の関心は大量虐殺に向けられる。

Far less attention will be paid, however,
だが、あまり注意が向けられていないのだが、
to the fate of dolphins captured and
捕獲されたイルカは殺される一方で、世界中の
sold to marine-mammal entertainment parks worldwide.
海洋哺乳類娯楽パーク(つまり水族館)に売り飛ばされてもいるのだ。

But some activists are bringing their fight to facilities
幾人かの活動家は、生きたイルカを要求する原因となっている
that fuel demand for live dolphins.
これら施設に対する戦いを行っている。

Live dolphins are far more lucrative than dead ones.
生きたイルカは死んだイルカよりもはるかに儲かる。

Taiji fishermen can earn $150,000 or more from selling a single live animal,
太地の両氏は一匹売るたびに15万以上のドルを稼ぐ。
while one butchered for meat fetches only $500 to $600,
(食用にされたものは500ドルから600ドルぐらいしかしないのに)

an economic reality that keeps the drives in business, opponents say.
経済的現実こそ、漁を続行させているのだと反対者は言う。
(意訳:レジャー施設への販売こそイルカ漁を継続する真の目的なのだ
    と抗議者は述べている)

http://www.takepart.com/article/2014/09/12/map-shows-
where-dolphins-captured-cove-2013-were-sold

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確かに映画自体は入り江での追い込み漁を撮影したものだから、
勝川教授のように理解するのが一般的な反応だろうが、
本編をもう少し真面目に読み、活動家の言葉に耳を傾ければ、
彼らが何に対して反対しているのかを誤解しないで済んだだろうと思う。




教授は一応、日本人への攻撃ではないとフォロー(?)しているが、
それはフォローというよりは、彼らが環境テロなのだと強調するためのものになっている。



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保護団体は、日本人を差別して、日本のみを攻撃しているわけではないです。
彼らは、自国の様々な活動も、過激に攻撃してきました。

たとえば、自国の動物実験も、激しく攻撃しています。
カナダの大学では、環境テロリストの攻撃対象になるということで、
動物実験をする建物は、大学の地図に載せていませんでした。

15年も前の話です。当時学生だった、私は、恐ろしい人たちがいるものだと驚きました。


我々の感覚からすると、太地のように、わざわざ、見えづらいところで殺しているのを、
わざわざ盗撮しにくるのはどうかと思います。

でも、そういう理論が通じる相手ではないのです。


新薬を開発するための動物実験は、明らかに人類の福祉につながります。
実験動物は、実験のために育てられており、実験は大学の研究室のような密室で行われる。

それでも、動物の権利を侵害するのは許し難いというのが彼らの理論です。
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残念ながら、勝川教授は普段、ほかならぬ自分が批判している
マグロビジネスに対する日本政府のスタンスと同じ形を取っている。


マグロの漁獲において一番問題があるのは日本の乱獲なのだが、
メディアがあれやこれやと空気を読んで、日本は全く悪くないと報道している。


クロマグロの国際交渉を分析:日本のジャイアン外交が韓国とメキシコを力でねじ伏せた

この件について、具体的なデータをもって論証したのが上の勝川教授の記事だ。
(誤解のないように述べておくが、私は勝川教授の支持者でもある)

これと同じことがイルカ漁にも当てはまる。


それを活動家は問題視しているのだが、
彼らを環境テロとレッテルを貼り、日本への攻撃とみなすのはいかがなものか?


環境問題を口実に、施設を爆破したり、関係者への暴行・殺害を企てるなら確かにテロだ。
だが、彼らはせいぜい網を切るぐらいで暴力を振るったりはしない。

近年、自国に都合のよい組織は活動団体、市民団体と表記し、
そうでない組織はテロと書く風潮があるが、鯨類保護問題も同様である。


皮肉なことだが、マグロ漁への規制を「日本の食文化への攻撃」と称して
一切の批判を許さない頑迷な論者と大差ないレベルの意見を氏は述べている。


このカテゴリーの初めにも書いたが、鯨類保護運動を考察する上で大事なのは、
彼らが「Industry(産業)」に対して批判しているのだという認識である。



かわいそうだとか、日本への敵意だとかそういうのではなく、
膨大な利益を貪るために海洋生物を乱獲するビジネスに反対しているのだ。


確かに「牛や豚を殺すことには文句を言わないのに~」と言いたいのはわかるが、
これは反核団体に対して「銃規制は主張しないくせに~」と言っているようなものだ。
女性差別改善運動に対して「なぜ黒人差別を取り上げない!」と叱っているようなものだ。


元々イルカに愛着をもっていた人間が反対運動に加わっているのは確かだが、
それが本質ではないということを、各組織の主張から読み取ってほしいと思う。


上の勝川氏のそれでもわかるが、日本の識者は向こうの意見をよく読まずに
環境テロとレッテルを貼り、言説を歪めて伝え、日本を被害者に仕立て上げる傾向がある。


正直、教授が映画を最初から最後までよく観たのか、怪しいものである。
(映画では、一般の日本人は政府のメディアコントロールによって
 事実を知らされていないと主張されている。

 大体、日本政府&一部自治体の批判がなぜに日本人の批判になるのか?

 いつから日本政府=日本人、日本政府の批判=日本人の批判になったのか?

 その論法では勝川教授が普段述べているマグロ漁の規制も反日行為になるではないか)

確かな批判なら歓迎するが、内容を歪めて何でもかんでも反日認定するのは
近年の歴史改ざん・人種差別団体と同様の愚かな行為ではないだろうか。


・追記
 なお、勝川教授の記事は2010年のものであり、
 現在、氏が同じ見解かどうかは定かではない。

ザ・コーブでは何が訴えられているのか?その5

2015-02-23 00:14:08 | ザ・コーブ
以上、ザ・コーブについて語ってきたが、まとめると


1・水族館ビジネスへの批判
  (イルカを2~3年でストレス死させるのを承知で売りさばくショービジネス
   および年間数十億ドルもの利益を得る水族館産業への批判。
   太地町は全世界にショー用のイルカを輸出する大供給地)

2・近年のイルカの乱獲
  (50年~70年代のハンドウイルカの平均捕獲数は976頭。
   現在(撮影時)は2万3千頭にまで急増。別種のイシイルカは80年代末、
   日本近海に生存する3分の1を捕獲したため、急きょ規制がされている。

   なお、捕獲数は毎年変動するが、少なくとも1万頭以上は確実に捕獲されている)

3・警察の監視および地元民の度が過ぎた暴力的な姿勢
  (常時、監視体制。車での尾行。
   入り江近辺の立ち入り禁止←合法的な追い込み漁の撮影が不可能に)

4・日本政府の買収行為
  (カリブ諸国を買収、漁場基地を無償供与、IWCの年会費を肩代わり)


ざっと挙げるだけで、これだけのことを述べている。

これら諸事実を無視して、捕鯨は日本の伝統的な文化だ、
捕鯨に反対するのは日本の伝統的な文化を攻撃するものだ、
だから捕鯨に反対する集団は反日なのだ、白人主義者なのだと叫ぶこと。


それがどれだけバカバカしいことか……よく考えてほしい。
上で掲げた問題を捕鯨支持者が取り上げたことがあっただろうか?

彼らは「捕鯨は正義だ、だからこのままでいいのだ」としか言っていないのではないか?

捕鯨やイルカ漁を続けるためにも、現実の問題点を指摘することは重要だ。
だが、現在の研究費が水族館ビジネスや捕鯨ビジネスで利益を得る政府や
産業によって賄われている今、これらに意見することがタブー視されているのである。

だからこそ、在野の人間が代わりに現行体制の欠点を指摘しなければならないのだが、
鎌田遵氏は何を血迷ったのか、インディアン問題だけ解説すればいいものを、
無理やり捕鯨とインディアンを関連付け、いずれも白人による侵略行為とみなしてしまった。


これは同氏の今後のキャリアを思っても、研究者としての信用を無くすだけだと思う。
(まぁ、それを言えばこの件に関する御用学者全員が信用を落としているわけだが)

ザ・コーブでは何が訴えられているのか?その4

2015-02-23 00:11:15 | ザ・コーブ
国際捕鯨委員会(IWC)にはカリブ海の小国も参加しているが、
彼らは皆、日本の捕鯨維持・商業捕鯨再開に好意的な姿勢をとっている。


『ザ・コーブ』では、いずれのカリブ海諸国も
 日本によって漁場基地が無償提供されていること、
 加えてIWCの会費を日本が肩代わりしていることに触れ、
 賛成国が弱国を買収し、意のままに操っているのだと主張する。


これら漁場基地は現地にとって不要な施設であり、
映像では、なぜか鶏の飼育小屋(?)として利用されていた。


日本のODAが現地のためでなく日本の利益のために行っていることは
東南アジア研究者である故・村井吉敬&鶴見吉行氏をはじめ、
多くの識者によって指摘されているが、これもまたその一例なのだろう。


『ザ・コーブ』は、商業捕鯨が禁止され、需要もないのにも関わらず、
日本が執拗に鯨類を捕獲し、くじら肉(イルカ肉)を市場に売り捌く背景として
日本の帝国主義が関係しているのではないかと述べる。


確かに、捕鯨を語るにおいて、日本の右傾化の指摘は避けて通れないだろう。


手元にある反捕鯨本の発刊年度を見ると、
1990年代前半、つまり環境運動が注目されていた時代、
生物保護運動の本は特にバッシングされることがなかった。


出版社最大手の講談社から反捕鯨・イルカ本が売られていたなど、
今ではとても考えられないと思う。


なお、捕鯨・イルカを正当化する言説は、
岩波書店(岩波新書・現代文庫)に多くあり、
あの水産庁の元役人、小松正之が水産資源について語っていたりする。


鯨類研究所が水産庁の天下り先になっているのはよく知られた話だが、
その中でも小松は最も暴れている番犬の一人だ。


そういう人物に、乱獲について語らせるというのは、
なかなかのチャレンジャーではないだろうか?


他にも、ジャーナリストとして名高い鎌田慧氏も
太地町を訪れ、日本文化に傷をつけようとする外国勢力に憤りを覚えているが、
これなども、日本の左翼の限界を知る好例なのかもしれない。


これまでに述べたように、捕鯨やイルカ漁に反対するのは、
文化に反対しているわけでなく、捕り過ぎに反対しているのであり、
営利目的で鯨類を虐待する水族館ビジネスに反対しているのである。


むしろ、「水族館」という近代西洋文化(自然を囲み、人間の管理下に置くシステム)
の自然への侵略・征服に加担しているのは、太地町を含めた日本の行政府のほうなのだが、
この点に関して反・反イルカ漁論者はこれといって何も言わない。それが問題なのだ。


岩波は左派系出版社ではあるが、実際にはこの程度の左であり、
国家主義(国益に反する意見は基本的には言わない)から抜け出していない。


他方、斎藤貴男氏の反捕鯨論を掲載していたりする面もあり、
率直に評価すれば、あっちにフラフラ、こっちにフラフラ、立ち位置がしっかりしない


別にこれは岩波に限った話ではなく、
日本のメジャーな戦後左翼、つまり反共左翼は
現在、あっちにフラフラ、こっちにフラフラ、右なのか左なのかハッキリせず、
自身を「中道」あるいは「リベラル」と美的表現で粉飾しながら迷走の一途を辿っている。



捕鯨問題は日本の左翼の情けなさを示すリトマス試験紙なのかもしれない。