時事解説「ディストピア」

ロシア、イラン、中国等の海外ニュースサイトの記事を紹介します。国内政治、メディア批判の記事もあります。

ザ・コーブでは何が訴えられているのか?その1

2015-02-21 23:29:33 | ザ・コーブ
日本のメディアや知識人は、左翼も右翼も海外のクジラ・イルカ保護運動家は
「クジラを殺すのはかわいそう」だから殺すなと言っているのだと説明している。



あたかもクジラやイルカをペットのようにみなす動物愛護団体の奇行であるかのように演出し、
これは日本文化に対する白人の文化戦争なのだと吹聴して回っている。



実際には、海外のクジラ・イルカ保護運動には
Industry」という概念が重要な位置を占めている。



つまり、鯨類保護運動の背景には、
希少な自然生物を高値で売り買いする水族館ビジネスが存在する。


順を追って説明しよう。

本作『ザ・コーブ』では、まず初めに水族館ビジネスの批判から始まる。


水族館にあるイルカは2~3年で死亡することをあなたは知っているだろうか?


野生のイルカは1日に65キロを泳ぐのだが、
これを狭い水槽に閉じ込めることで非常に強い精神的負荷がかかるのである。


イルカが飼育される水槽の付近には必ず胃薬がある。ストレスからくる胃潰瘍だ。
加えて、イルカは聴覚が優れた生物で、観客の歓声はイルカにとって騒音になる。


狭い水槽と騒音でまずストレス障害になり、3年以内には死亡する。
イルカショーはイルカにとっては拷問なのである。



ここでイルカと水族館の歴史を振り返ると、
1964年にはイルカがいる水族館は世界に3つしかなかった。

それがドラマ『フリッパー』の影響もあり、イルカの人気が高まることで、
年々増加し、今では数十億の利益を出す美味しい商売になった。


ショー用のイルカは1頭につき15万ドル、
1ドル=120円と計算すると1800万で売れる。



これは売る側としては非常にボロい商売だ。
イルカを捕まえるのは船とモリ、網さえあればいいのだから。
(比較的低予算で可能な沿岸漁業で莫大な利益が挙げられるのである)


和歌山県太地町がなぜターゲットにされたかというと、
世界最大のショー用イルカの供給地だからだ。


世界中の水族館に太地町の漁師が捕らえたイルカが送られている。

しかも、このショー用イルカを捕獲する際には、
イルカの群れを一挙に捕え、傷のないきれいな若いイルカは水族館に送られ、
その他のイルカは1頭600ドル(7万2000円)で食用として殺害される。


つまり、実際にはショー用イルカを捕獲するついでに
大量のイルカが殺されているのである。



ちなみに、マスコミはイルカを食すのは文化だから云々と言っているが、
漁師たちはペスト・コントロール、つまり、魚を食べる害獣だから殺すのだと説明している。


運動団体のリーダー、リチャード・オバリーはイルカが笑っている像が
ついた船が航行しているのを見て「実に奇妙だ」と感想を述べている。

「まるで共存しているかのようだ」と皮肉をもらす。


私も裏では害獣駆除と言っておきながら、町のいたるところに
可愛いイルカのイラストが描かれている様子を見て、
ちょっとした薄ら寒さを感じたのだが……あなたはどうだろうか?



以上が鯨類保護運動を考える際に絶対に把握しておかなければならない知識だ。
活動家は金儲けのためにイルカが虐待されていることを問題視しているのである。

決して、イルカが可愛いからとか可哀そうだからだといった幼稚な理由ではない。


生物保護運動に限らず、環境問題しかり、労働問題しかり、
海外の社会運動には「Industry」、つまり行き過ぎた金もうけ主義への
批判という一面がある。これを見逃しては彼らの行動を理解することは出来ない。

プチ書評『「辺境」の誇り アメリカ先住民と日本人』(鎌田遵、集英社新書、2015年)

2015-02-21 00:46:07 | ザ・コーブ
なんで書いちゃったかなぁ……というのが正直な感想。


トンデモ本を見分けるコツとして、不必要に「日本」や「日本人」という言葉を
前面に押し出すタイトルかどうかというものがある。


例えば、『福沢諭吉 戦う日本人』とかいうものがあれば、
これはもう危ないとみて差し支えない。



本書『「辺境」の誇り アメリカ先住民と日本人』も、
この手の「日本人は素晴らしい!すごい!」本の1つで、
なんというか、これまで優れた啓蒙書を執筆してきた鎌田氏だけあって、
「なんで、こんな本を書いちゃったの!?」と残念で仕方がない。


鎌田先生は、研究者としては、結構苦労されているようで、
本来ならとっくの昔に準教授になっても問題ない実績を持っているのに、
どういうわけか未だに専任講師の立場に甘んじている。それが背景なのかは
知らないが、右傾化している論壇や出版社に秋波を送るような真似をするほど
切羽づまっているのかと思うと、何とも悲しくなってくる。



さて、この本の何が一番おかしいかというと、
捕鯨問題に関する説明があまりにも単純、ド素人が書いたとしか思えないことである。


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開拓者精神(フロンティアスピリッツ)を
大義とする白人によって土地を追われたアメリカ先住民と、
原発事故により故郷と切り離された福島の人びと。

原子力産業との「共生」を強いられた、青森県下北半島とアメリカの先住民居留地。
そして、欧米の反捕鯨団体による執拗な妨害に耐えてイルカ漁を続ける和歌山県太地町
かつて、そこはアメリカへの移民が多数輩出した町だった……。

国家をはじめとする巨大な「権力」や暴力的な「正義」に抵抗し
「辺境」に生きる人びとを、アメリカと日本に追った渾身のノンフィクション。

http://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/0773-n/
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上の紹介文からも明らかだが、鎌田先生は捕鯨問題に関して、
反捕鯨=白人文化、捕鯨=非白人文化とみなして、
前者が後者を駆逐する歴史として捕鯨問題を論じている。


そのため、「文化の破壊」という捕鯨論者のお決まりの文句を
繰り返し、反イルカ漁映画『ザ・コーブ』を歪んだ思想集団による
プロパガンダ映画として一切評価しようとしない。

というより、水産庁や町の言い分をそのまま書き写したような文章で、
きちんと先行研究を読んだものではない。


加えて、
先住民族同士、アイヌとインディアンを比較するというのならまだ納得がいくが、
被征服者であるインディアンと、アイヌや琉球を駆逐した
征服者である大和民族を同列に置くのも学問的に見てもかなり無理がある。


なるほど、北海道産の米と新潟産の米を比較するのはわかる。
だが、鎌田先生がやっているのは、
北海道産のジャガイモと新潟県産のコシヒカリを比較して
どちらが上手いかを論じているようなものだ。



牽強付会。一言でいえば、それに尽きる。


素直にアメリカ先住民の苦境だけ書けばいいものを、
無理に専門外のことを書いてしまって滑っているような印象を受ける。



ボロ糞に叩いているが、本当にしょーもない本なのである。


清く正しい日本人が西洋的価値観に毒された白人によって
自分たちの伝統文化を破壊されそうになっている。こういう物語をでっちあげている。


つまり、インディアンと日本人を同等のものとみなすことで、
後者の加害性が前者の被害性によって見事に隠ぺいされているのである。


少なくとも、捕鯨やイルカ漁の問題については、日本は被害者ではなく加害者だ。
イルカ漁というのは、何も肉を食うだけのものじゃない。


世界各国の水族館にバンドウイルカを輸出している商売でもあり、
営利を目的に希少な動物を乱獲、虐待する行為について、訴えているのである。
(少なくとも、『ザ・コーブ』においては)

鎌田先生の『ザ・コーブ』論は捕鯨やイルカの問題を
文化闘争であるかのようにみなしているが、そんな単純な話ではないのだ。


というわけで、次回、『ザ・コーブ』の内容を解説しながら、
鎌田氏のおかしな部分についてツッコミを入れていきたいと思う。