読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

子どもはもちろん、大人にも役に立つ知識と情報が満載の『本屋さんのすべてがわかる本』全4巻(後半)

2014-04-16 23:15:32 | 書店と出版業界のお噂

『本屋さんのすべてがわかる本』
3「見てみよう!本屋さんの仕事」
4「もっと知りたい!本屋さんの秘密」
秋田喜代美・監修、稲葉茂勝・文、ミネルヴァ書房、2014年

主に子どもたちに向けて、本屋の歴史や活用のしかたなどを解説した全4巻のシリーズ『本屋さんのすべてがわかる本』。
世界や日本の本屋の歴史や概説などが、興味深い写真とともに記された前半2冊に続き、後半の2冊は本屋の仕事や活用法が詳しく具体的に解説されていきます。

第3巻は「見てみよう!本屋さんの仕事」。前半ではまず、本屋の店内でどのように雑誌や書籍が分類され、陳列されているのかが、実際の書店の店内風景とともに解説されていきます。
本の陳列法のところでは、「平積み」「面出し」「たな差し」のそれぞれにどのような意味と効果があるのかが説明されます。またディスプレイのところでは、ビニールハウスをイメージした飾りつけがなされた「農業・園芸書フェア」などのユニークな工夫も紹介されています。
現在の本屋の店頭ではすっかりお馴染みとなっているのが、本の内容のポイントやキャッチコピーを記したPOP(ポップ)。POPについて取り上げているページでは、2001年に『白い犬とワルツを』(テリー・ケイ著、新潮文庫)が書店員による手書きPOPがきっかけとなってベストセラーとなり、そのことで書店員の手書きPOPが広がっていったことが紹介されています。
さらに、東京都町田市で開かれた、地元中学校の生徒たちが自分の好きな小説を手書きのPOPで紹介するというフェアのことも取り上げられています。若い世代に読書に興味を持ってもらうべく、地元の本屋と協力してPOPづくりを行っている学校は、全国的に増えているのだとか。こういうのはなかなか、面白い試みだなあと思いますね。
本屋に並んでいる本や雑誌は、もちろんそれら自体が情報なのですが、陳列やディスプレイにもさまざまな情報が含まれています。それを踏まえて本屋の店頭を見れば、さらに世の中についての幅広い情報を得ることができる、ということが、解説を読んでいくことで理解されていくことでしょう。

後半は、開店前の荷開け作業からバックヤードでの仕事まで、本屋の仕事がけっこう具体的に紹介されていきます。
ちょっと驚かされたのは、本につけるブックカバーの折りかたや、付録を挟み込んだ雑誌を紐でしばる方法が、写真や図とともに順を追って説明されていたことでした。また、本の裏表紙に記されているISBNコードが、本屋の仕事においてどのように活用されているのかについても、かなり詳細に解説されています。
もし本屋で働きたいという方がいたら、迷わずこれを読むように勧めたくなるくらい、第3巻は本屋の仕事が具体的、かつわかりやすくまとめられた巻となっておりました。

このシリーズの大きなコンセプトは、本屋を読書推進のみならず、キャリア教育や国際理解教育、メディアリテラシーなどにも活用していこうという点にあります。最終巻となる第4巻「もっと知りたい!本屋さんの秘密」は、それらのコンセプトをよりしっかりと伝えていきます。
新聞・テレビの情報と本の情報との違いについて述べたページでは、「フロー型」(毎日あらたに伝えられてすぐに消えていく)の情報である新聞やテレビに対し、本の情報は「ストック型」(保存して、いつでも参照できる)であるという説明がなされます。
速報性では新聞やテレビ、ネットには劣るものの、じっくりと参照できる本だからこそ、社会の仕組みや世界のこと、メディアリテラシーなどについて、しっかりと考え、理解することができるというわけなのです。
キャリア教育についてのページでは、愛知県岡崎市の中学生による職場体験のようすが詳しく紹介されます。本の補充やお客さんへの対応、子どもたちへの絵本の読み聞かせなどを体験した中学生たちは、「本の移動など、お客さんの迷惑にならないように仕事をすることのたいせつさがわかった」などの感想をもったとか。

後半では、全国各地のユニークで個性的な本屋さんが20軒ほど紹介されます。
屋上に観覧車がある「宮脇書店総本店」(香川県)や、まるで絵本に出てくるような洋館の中にある「こどもの本の店・童話館」(長崎県)、鉄道の本はなんでも揃うという「書泉グランデ」(東京都)などなど、どの本屋さんも面白そうです。やはり、本屋というのは一様ではなく、それぞれに面白さを持った存在なんだなあということを、あらためて感じさせられました。
「本でまちづくりをする本屋さん」というページでは、小さいながらも独自の視点の棚づくりで定評のある、東京都文京区の「往来堂書店」と、東日本大震災による津波で本屋がなくなってしまった岩手県大槌町で、本屋経験がないご夫婦により開業された「一頁堂書店」が紹介されています。

ネットや電子書籍が台頭する中で、しきりに退潮がささやかれている本屋という業界ですが、その役割と意義はまだまだ健在であることを、このシリーズはしっかりと伝えてくれています。
実のところ、社会の仕組みや国際情勢をじっくりと理解したり、メディアリテラシーで情報を読み解き、その真偽を判断するということは、ネットの海を泳いでいく上でもとても必要なことであったりします。それらを身につけるためにも、本を読むことの重要性というものはいまだ有効なのだと思うのです。
そのためにも、どうかこのシリーズを道しるべにしながら、本屋を使い倒していただけたら、と願います。
わたくしたち本屋の人間(といっても、わたくしの勤務先は店舗のない外商専業のところなのですが)も、皆さまのよき情報源となれるように頑張っていかないとな。

子どもはもちろん、大人にも役に立つ知識と情報が満載の『本屋さんのすべてがわかる本』全4巻(前半)

2014-04-13 11:43:05 | 書店と出版業界のお噂

『本屋さんのすべてがわかる本』
1「調べよう!世界の本屋さん」
2「調べよう!日本の本屋さん」
秋田喜代美・監修、稲葉茂勝・文、ミネルヴァ書房、2013年


「教育の宝庫」という視点から本屋という場所を捉え、その歴史や活用法を子どもたちに向けて解説していくというシリーズが、『本屋さんのすべてがわかる本』。昨年11月に刊行が始まり、今年の2月で全4巻が完結しました。
子ども向けのシリーズ、しかも30ページほどで一冊2000円(本体価格)ということで、最初は買うことを躊躇っておりました。ですが、やはりちょっと見てみようかなと思いつつ第1巻を購入してみたところ、想像していた以上に充実した内容で驚かされました。
オールカラーで収録された豊富な写真や図版に加え、盛り込まれたトピックも「えっ?こんなことまで!」と言いたくなるくらい多岐にわたっておりました。書店づとめが20年近くになるわたくしですが、恥ずかしながら初めて知ったこともけっこうありました。
そんなわけで、これは続巻もすべて購入しておかねば!ということになり、今月初めに全巻が手元に揃えました。通読してみてあらためて、その内容の充実ぶりに満足した次第です。
子どもはもちろん、大人にも役に立つところが多いこのシリーズを、2回にわけてご紹介したいと思います。まずは前半の2冊を。

第1巻は「調べよう!世界の本屋さん」。まず、紀元前の古代ギリシャ時代に始まったという本の売り買いから、欧米で近代的な本屋のしくみが確立されるまでの歴史が綴られます。
詩人や演説家による演説が書きとめられ、その写しを販売することから始まった本の売り買い。やがて、印刷技術の発明と発達によって、「本屋」の基礎が出来上がっていきました。そして19世紀になって印刷・出版と問屋、小売の分業が進んでいき、今に至る出版流通のしくみが確立した、というわけです。
現在、出版流通において大きな役割を果たしている、全世界共通のISBNコード(国際標準図書番号。本の裏表紙にバーコードとともに記されている、あの番号のことです)。これを発明したのが、世界初となる本屋のチェーン店でもある、イギリスの「W・H・スミス」であることを初めて知りました。ここでは、ISBNコードの数字が持つ意味としくみも詳しく解説されています。

続いて、ヨーロッパやオセアニア、イスラム圏、アジアの主要な国々の代表的な本屋が、豊富な写真によって紹介されていきます。
2008年にイギリスのガーディアン紙によって選出された「世界の本屋さんトップ10」。1位となったイギリス「ハッチャーズ」に続いて2位となった、オランダの「セレクシス・ドミニカネン」は、ゴシック建築の教会を修復して生まれた本屋さん。その外観といい内部といい、実に重厚でいい感じで、これはなんだか行ってみたくなりました。
ちなみに10位には、日本から恵文社一乗寺店(京都)が選ばれております。ここも魅力的なところのようですね。

各地の本屋さんを紹介した写真と文章からは、それぞれのお国柄もちょっと見えてきそうで楽しいものがありました。
とりわけ印象的だったのが、「古本の村」として知られているという、ベルギーのルデュ村の話でした。
人口がわずか20人にまで減ってしまい、地図からも消えようとしていたルデュ村でしたが、古本の収集が趣味という実業家がこの地に古本店を開業。さらに「古本祭り」を開催したことがきっかけとなって、空き家を改装してさまざまなジャンルの古本専門店が50店以上もできていき、今ではヨーロッパ中から人びとが押し寄せているのだとか。この話、もっと詳細を知りたいなあ。
「『一党独裁国家』の本屋さん」という項目もあり、ここでは中国や北朝鮮の本屋を紹介。中国でもネット書店の伸長により、本屋の倒産が相次いでいるとか。また、秦の始皇帝やナチスなどによる「焚書」や、エジプトとイギリスで起こった本屋の放火といった、時の権力者に都合の悪い本が焼かれてしまう事例についても言及されています。

第2巻は「調べよう!日本の本屋さん」。この巻では、日本における出版活動と本屋の歴史が語られていきます。
鎌倉時代から室町時代にかけて、寺院により行われた仏教書の開版(出版)から始まった日本の出版活動は、江戸時代に入って寺院が多かった京都を中心にして発展していきました。
この頃誕生した本屋さんには、現在でも販売や出版を手がけている老舗がいくつか存在します。現存する最古の本屋である永田文昌堂や、仏教書の出版でもよく知られている法藏館などがそうです。法藏館にある、江戸時代当時の版木の保管室も写真で紹介されていて驚きました。昔の版木をまだ保管していたとは!
やがて、徳川家康による学問の奨励により本屋と出版活動はますます盛んとなっていき、その中心は京都から江戸へと移っていきました。
そして、明治の文明開化による学習意欲の高まりを背景にして、さらに出版活動は盛んとなり、今も営業を続けている本屋や出版社が次々と誕生。印刷・出版と小売の仲立ちをする取次(問屋)も設立され、現在の出版流通システムが確立されていったのです。

本巻では、日本最古の書物『法華義疏』(ほっけぎしょ)をはじめとした古文書も、数多く写真で紹介されています。
中でも、漢詩をつくる際の参考書として寺院から開版された『聚分韻略』(しゅうぶんいんりゃく)や、江戸末期に「日本の活版印刷の父」こと本木昌造によって印刷・出版された、商人のための英会話表現集『和英商賈(しょうこ)対話集』などは、存在自体を知りませんでしたので大変興味深いものがありました。
初めて知ったことといえば、日本で最大の教科書出版元・東京書籍や、アンパンマンの版元として有名なフレーベル館は、印刷大手の凸版印刷のグループ会社であることも本巻で知りました。もしかしたら、ギョーカイでは常識に類することなのかもしれないのですが•••(汗)。

他には、本がまだまだ高価だった時代に、庶民へ読書を広める役割を果たした貸本屋のことや、神田神保町の古本屋街の成り立ちについても言及されています。
また、現在の出版流通システムを支えている「委託販売制度」(新刊本を預かって販売し、売れなかった本は返品できる販売制度)と「定価販売制度」(新刊本は全国どこの本屋でも同じ定価で売らなければならないという制度。「再販制度」ともよばれる)についても解説されていて、その長所と短所も挙げられております。

2冊を通読すると、知ってるつもりだったけれども実はよくわかっていなかった、ということがたくさんあって、ギョーカイの端くれにいるわたくしにとっても、大変勉強になりました。
まして、ギョーカイの外におられる皆さんにとっては、収められている写真を見るだけでも、けっこう興味深く面白いものがあるのではないかと思います。

後半の2冊は第3巻「見てみよう!本屋さんの仕事」と第4巻「もっと知りたい!本屋さんの秘密」ですが、この2冊については次回ご紹介させていただくことにいたします。

【読了本】『離島の本屋』 本と本屋の可能性と力を再確認させてくれた、宝物のような一冊

2013-09-24 22:09:53 | 書店と出版業界のお噂

『離島の本屋 22の島で「本屋」の灯りをともす人たち』
朴順梨著、ころから、2013年


地方によっては発売日から1~2日程度のタイムラグがあるとはいえ、出版された本や雑誌がほぼ確実に、しかも豊富に手に入ることができる日本の本土。そこに住んでいると、海を隔てた離島の人びとがどのように本を手に入れ、触れているのか、なかなか見えにくいところがあります。
本書『離島の本屋』は、物流などで大きなハンデを抱えつつも、島の人びとに本を手渡すべく奮闘する本屋さんを訪ね歩いたルポルタージュです。NPO法人本屋大賞実行委員会が発行するフリーペーパー『LOVE書店!』に現在も続いている連載から、約8年分がまとめられています。

訪ね歩いたのは、最北の島である北海道・礼文島から、最西端の島である沖縄県・与那国島まで、全部で22の島々。著者の朴さんは、それぞれの島の風土と、そこで頑張る本屋さんの佇まいと仕事ぶりを、まことに丁寧に掬い取っています。島の息吹を伝える写真の数々も、実にいい感じです。
登場する本屋さんが、またそれぞれに魅力的。本はもちろん、日本酒や焼酎、ワインといった酒類の品揃えにもこだわりを見せているという、長崎県中通島の本屋さん。日本最北端の北海道・礼文島にある、図書館と一緒になっている町営の本屋さん。同じ島から輩出された民俗学者・宮本常一のコレクションの充実ぶりに全国から注文が来るという山口県周防大島の本屋さん、などなど。
それぞれの本屋さんからは、その島の風土とともに、そこに住む人たちの暮らしぶりが浮かんでくるようで、楽しくまた興味深いものがありました。
また、本屋さんがない島で、島の人たちに本を手渡すべく頑張る方々も取り上げられています。小笠原諸島の父島と母島の図書館で働く方々(その多くが島外からの移住&異動組)。日本最西端の沖縄県与那国島で、自宅を利用して子どもたちに本の楽しさを伝えていた私設図書館•••。これらの人たちの存在にもまた、嬉しい気持ちになりました。

とはいえ本書は、楽しく嬉しいだけのものになっているわけではありません。
長らく続く出版業界と書店業界の苦境という現実は、残念ながら島の本屋さんにも無縁ではありません。加えて、人口の減少や高齢化などといった離島特有の現実にもさらされる中、島の本屋さんを取り巻く環境には厳しいところもあるのです。
現に、本書に取り上げられた書店の中にも、諸事情により店を閉めてしまったところがありました。そんな現実に触れているところでは胸が詰まるものがありました。

しかし、本屋さん、そして本の将来に対する希望も、また本書にはちりばめられています。
『千の風になって』(新井満著、講談社)を口コミの力で島内ベストセラーにしたという、愛媛県弓削島の本屋さん。お客さんに本を教え、時には逆に教えられながら成り立つ、東京都新島でただ1軒の本屋さん。野菜を携えてやってくる人や、自転車の修理を頼みにやって来る人がいたりと、島の人たちの交流場所のようになっている八丈島の本屋さん•••。
八丈島の章で、著者はこのように書いています。

「話をしたり、困り事を解決したり••••••。離島の本屋は、本を買う場所だけにあらず。人と人とが交わり、支え合うためのプラットフォームの役割も果たしているのかもしれない。」

思えばこれは、本屋という場所が本来持っていた原点としての姿だったのではないでしょうか。それが、離島の本屋さんにはしっかりと生きている、ということに、何やら感慨深いものを覚えました。本屋が持っていた原点には、まだまだ可能性が残されているのではないか、と。

さらに感慨深かったのは、沖縄本島から300㎞以上離れている北大東島に、那覇市からやってくる「出張本屋」を取材した章でした。
本屋のない人口500人ちょっとの島に、年1回やってくる出張本屋さん。それをお祭りのように楽しみにし、夢中になって本選びに興じる子どもたち、そして大人たち•••。その様子を綴った文章を読むと、知らず知らず目頭が熱くなるのを覚えました。
本は、そして本屋には、まだまだ力があるはずだ•••。北大東島の章を読み、そんな思いが湧き上がってきました。
わたくし自身、書店づとめ(といっても外商専業の書店なのですが•••)をしている中で、自分のやっていることの意義を忘れそうになることが、正直あります。
本書はそんなわたくしに、本と本屋の可能性と力を再確認させてくれました。

本と本屋さんはもちろん、島を愛する皆さんすべてにオススメしたい、宝物のような一冊であります。
いつか、本書に出ている本屋さんを訪ねながらの島旅ができたらいいなあ•••。

百田尚樹さんの人気の理由がわかった気がした、昨夜の『情熱大陸』

2013-06-10 22:02:50 | 書店と出版業界のお噂
『情熱大陸』「作家・百田尚樹」
初回放送=6月9日(日)午後11:00~11:30、MBS発TBS系


昨夜の『情熱大陸』が取り上げていたのは、作家の百田尚樹さん。
『永遠の0』(太田出版、講談社文庫)や『モンスター』(幻冬舎文庫)が映画化されたり、『海賊とよばれた男』(講談社)が今年の本屋大賞を受賞したりと、目下快進撃を続けている方であります。番組は、その百田さんの1ヶ月に密着します。

「作家は人気商売だからといって、言いたいことが言えないのは情けない」と、本屋大賞受賞のときに直木賞をクサしたりもした百田さん。書店員にフランクに話しかけたり、週刊誌の新連載の話に「何も考えてなかった•••」とローバイしたり、講演の最中、思わず感極まって声を詰まらせたり•••。その飾らない人柄がすごく魅力的でしたね。

テレビの放送作家からキャリアをスタートさせた百田さん。現在も、人気番組『探偵!ナイトスクープ』(朝日放送)の構成作家を続けています。放送作家としての仕事を続けたことで、物語を紡ぐことの基本を身につけることができた、といいます。

番組の中では、「百田流ベストセラーの生み出し方」として、百田さんの仕事の流儀を紹介していました。
まずは「ネタのアンテナはどこにでも張っておく」。『海賊とよばれた男』も、同業の放送作家のボツネタから拾ったそうな。

2つめは「文章を短くしてテンポをよくする」。これも、放送作家のナレーションの仕事で培ったことだといいます。テンポの悪いナレーションがつくと、番組自体もつまらなくなる、とか。小説においても、センテンスの短さが読みやすさを生むというわけです。

3つめは「家族の意見はよく聞く」。出来上がったら妻と2人の子どもに読ませ、3人のうち2人が面白くないと言ったら、自分が面白いと思っていても書き直すとか。まずは自分の身近にいる人から忌憚のない意見を聞くことが、他者に届く作品への第一歩、なのですね。

4つめは「売れている本はジャンルを問わず読む」。とにかく好奇心が旺盛なんですね。ちなみに、最近読んで面白かった本として挙げておられたのが、大宅壮一ノンフィクション賞などを受賞した『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』(増田俊也著、新潮社)。•••これ、わたくしも気になる本であります。

5つめは「売れなければダメだと自分に言い聞かせる」。売れるからこそ、多くの人たちに届くことができるのだ、というわけなのです。幻冬舎の見城徹社長との会話では「売れなくていいんだったらブログにでも書いてりゃいい」って発言もありましたっけ。

6つめは「納得するまで自分で資料を集める」。新作の構想を練るために、大宅文庫から大量の雑誌のコピーをとってきて、仕事場で読み込む百田さんの姿がありました。

7つめが「一人で書店に営業に行く」、8つめが「小さい書店も大事にする」。デビュー間もない頃、自ら本を抱えて書店回りをやり、その中で小さな書店も大事にする姿勢を身につけたとか。ベストセラー作家と呼ばれる人で、こういう姿勢の方は珍しいように思います。書店人の端くれとして、敬意を抱くばかりです。

そして最後は「小説の基本は“愛”」。「人間の美しい部分を書いていきたい。醜い部分を伝えるのはニュースだけでたくさん」と、自らの創作姿勢を語った百田さん。
そうか、なるほどな。そういう姿勢で作品を書くからこそ、百田さんは多くの人たちから支持されるんだな•••。
百田さんの人気の理由が、この番組を観たことでいくらかわかったように思いました。
同時に、さまざまなことにアンテナと好奇心を向けている姿勢にも、大いに学ぶべきものがあるのではないか、と感じました。おそらくそれは、作家以外においても大切な資質なのではないでしょうか。仕事に限らず、人生を楽しく生きるためにも。

最近はすっかり「ノンフィクション男子」(笑)と化して、ほとんど小説を読まなくなってしまっているわたくしですが、ちょっと百田さんの著書が読みたくなってきました。•••まずは『海賊とよばれた男』を押さえとこうかな。

「本と人をつなぐ」存在としての書店であり続けるために。

2013-01-30 23:04:21 | 書店と出版業界のお噂
先週の23日。朝日新聞の「耕論」というページに、編集工学者の松岡正剛さんと、ブックコーディネーターの内沼晋太郎さんのインタビューが出ていました。テーマは「本屋サバイバル」。
出版不況にネット書店や電子書籍の台頭•••と苦境にある既存の書店に、再生の道はあるのか、という趣旨の企画でありました。



松岡さんは、これまでの書店は本を種類別やジャンルごとに「機械的に並べるだけ」であり、「本の魅力は十分に伝わらない」として、ファッション業界のようなセレクトショップ的な発想により、2009年からの3年間にわたって、東京丸の内にある丸善の店内にて、書店内書店「松丸本舗」を開設しました。
そこでは従来の分類を廃して、本を一つの「文脈」に沿って「編集」し、組み合わせていくことで、それぞれの本が持つ新たな魅力をお客さんに提示していきました。また店舗には、お客さんの好みに合う本を提案できるような「本の目利き」を置きました。
その3年にわたる試みは、松岡さんの著書『松丸本舗主義 奇蹟の本屋、3年間の挑戦。』(青幻舎)にまとめられています。

そのときの経験を踏まえつつ、松岡さんは言います。

「ネット書店と電子書籍があれば、紙の本や町の書店は不要になる、との極論も聞きます。だが、本と人との間をつなぐには、人の存在が不可欠です。(中略)読書を苦手に思っている人々も、本の選択や読み方について書店側がちょっとした提案をするだけで、読書の快楽に引き込めるはず。(中略)本と人をつなぐことに貪欲になれば、書店はまだまだいける。そう確信しています。」

そして内沼さんは、書店や出版社のコンサルティングを務めるかたわら、昨年7月に「B&B」という書店を世田谷区にオープン。
「本の売り上げだけで経営が成り立つとは考えていません」という内沼さん。「B&B」では本だけではなく、ビールやソフトドリンクを販売して、それを店内で飲みながら本選びができるようにしています。また、中古家具店とのタイアップで本棚や椅子なども販売。さらには、著者や編集者を招いてのトークイベントを開催し、チケット+1ドリンクによる売り上げを確保したり。
内沼さんは、「ネットの世界に本が解き放たれ」、テキストデータとなった本を巡るコミュニケーションの可能性に言及しつつも、「書店や紙の本に存在価値はあります」と言います。

「紙の本には雑貨のような『モノ』としての魅力がある。(中略)手にとって本を選びたい人、好きな本に囲まれて過ごす喜びを求める人々は、これからも決して絶えないでしょう。もう一つの存在意義は、本を好きになるきっかけをつくること。」

これまでの書店のあり方からの脱却を目指した、松岡さんと内沼さんの取り組み。
それぞれの方法論こそ違うものの、「本と人をつなぐ」ことを模索しようとする意味では同じように思います。
ただ本や雑誌を並べただけで売れていくような時代は過ぎているのではないか、ということは、わたくしも書店づとめを重ねる中で痛感しておりました。
それだけに、松岡さんや内沼さんの試みは大変意義深いと思いますし、魅力的にも映ります。ことに松岡さんがいう「編集」によって新たな本の魅力を提示していく考え方には共鳴するところ大です。

一方で、最近こういう書店の存在を知りました。
大阪にある「隆祥館書店」。創業60年、15坪の小さなお店です。
多くの書店と同様に、隆祥館も売り上げが下がり苦境にありました。
そんな中で、経営者である二村知子さんは、お客さんとのコミュニケーションを大切にしながら、相手のニーズにきめ細かく応えるようにしたといいます。
お客さんの顔と購入した本や雑誌を覚えては、次に来店した時に同じ雑誌の最新号を勧めたり、その人の好みに合いそうな本を仕入れてお勧めしたり。
それを地道に積み重ねていったことで、お客さんとの繋がりを強めていった、と。
(以上については、隆祥館書店について触れた、アナウンサーの村上信夫さんのブログ記事を参照しました。「村上信夫オフィシャルブログ『ことばの種まき』」当該記事「大阪にある嬉しい本屋さん」→ http://s.ameblo.jp/nobu630/entry-11452162062.html )

奇をてらうようなこともなく、「街の小さな本屋さん」の原点を再確認しているかのような、隆祥館書店の取り組み。これもまた、「本と人をつなぐ」ための大切な取り組みだと感じます。

「本と人をつなぐ」ための取り組みに、「これが正解」といえるような万能な解決策はないのでしょう。それぞれの書店と、そこに勤める人たちが、それぞれに合わせた模索を続けていくしかありません。
しかし、そうやって地道に「本と人をつなぐ」ための取り組みを続けていく限り、書店の存在価値が失われることは絶対にない、と、わたくしは思います。



翻って、わたくし自身はどうなのか。
現在、外商の仕事をする中で、「本と人をつなぐ」ための取り組みをどれだけやれているのか。存在価値のある仕事ができているのだろうか。

残念ながら、まだまだ自分の取り組みは不十分に過ぎると感じています。
外商の仕事をする中で、「本と人をつなぐ」ために何をすべきなのか。これもまた、すぐに答えが出すことができません。
そのことを「宿題」として抱え込みながら、自分なりの模索をしていかねば、と思っております。