読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

【閑古堂の気まぐれ名画座・特別篇】閑古堂の夏休み映画祭(その2)〝漂流映画〟3本立て!『ゼロ・グラビティ』『アポロ13』『キャスト・アウェイ』

2022-08-17 22:15:00 | 映画のお噂
お盆休みにやっている個人的映画祭で観た作品のご紹介、2回目となる今回は〝漂流モノ映画〟3本です。漂流する場所は無人島だったり、無重力の宇宙空間だったりするわけなのですが、いずれも困難な状況の中で生き抜こうとする、登場人物の知恵と勇気に励まされる秀作ばかりであります。


夏休み映画祭4本目『ゼロ・グラビティ』GRAVITY (2013年 イギリス・アメリカ)

監督=アルフォンソ・キュアロン
製作=アルフォンソ・キュアロン、デイヴィッド・ヘイマン
脚本=アルフォンソ・キュアロン、ホナス・キュアロン
撮影=エマニュエル・ルベツキ 音楽=スティーブン・プライス
出演=サンドラ・ブロック、ジョージ・クルーニー、エド・ハリス
Blu-ray発売元=ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

宇宙空間で、ハッブル宇宙望遠鏡を修理するミッションについていたスペースシャトルのクルーに緊急連絡が入る。ロシアが自国の人工衛星を破壊して生じた破片が、他の人工衛星を連鎖的に破壊していき、それらが宇宙ゴミとなって高速で迫ってきているというのだ。クルーはミッションを中断し退避しようとしたものの、猛烈なスピードでやってきた膨大な量の宇宙ゴミに襲われ、シャトルが破壊された上にクルーの1人が死んでしまう。医療技師のライアンと、クルーの指揮をとっていたマットの2人は辛うじて命拾いし、互いをロープで結びつけてISS(国際宇宙ステーション)へとたどり着くが、ライアンの足にワイヤーが絡みついて危機的な状況に。マットは、ライアンだけでも助かるようにとロープを切り離し、虚空の中へと消えていってしまう。かくて、ただ1人宇宙空間に残されたライアンは、生還するために決死の闘いを始めるのだった・・・。

メキシコ出身の俊英、アルフォンソ・キュアロン監督による、宇宙SFパニック映画の大傑作です。アカデミー賞では監督賞を含めて7部門で受賞するなど、非常に高い評価を受けています。今回初めてBlu-rayで観たのですが、90分ちょっとというコンパクトな時間の中で展開される濃密なスリルとサスペンスに、もう夢中になってしまいました。
なにより驚かされるのは、あまりにもリアルな無重力空間の表現でした。映画が始まってすぐ、青く輝く地球をバックにしながら宇宙遊泳をするシャトルのクルーたちの映像は、観るものを一気に宇宙空間へと誘ってくれます。ワイヤーや特殊な装置を駆使しての操演と、VFX(視覚効果)を組み合わせての無重力空間の表現は、違和感をまったく感じさせない見事な出来栄えです。
生還に向けての闘いに臨むライアンを演じ切った、サンドラ・ブロックの熱演も素晴らしいものがありました。孤独で絶望的な状況を前に挫けそうになりながらも、生きる力を振り絞って生還に向かおうとする姿は、観るものに勇気と感動を与えてくれます。
なんとか地上と交信しようとするライアンが、「アニンガ」と名乗る言葉の通じない男性とやりとりする場面も印象的です。映画本篇では声だけの存在である、この「アニンガ」というイヌイットの男性を主人公にしたスピンオフの短篇『アニンガ:地球との交信』も、映像特典として観ることができます(監督はキュアロン監督の息子で、映画本篇では共同脚本も手がけたホナス・キュアロン)。こちらも、短いながらも印象に残る一篇であります。


夏休み映画祭5本目『アポロ13』APOLLO 13 (1995年 アメリカ)

監督=ロン・ハワード
製作=ブライアン・グレイザー 製作総指揮=トッド・ハロウェル
脚本=ウィリアム・ブロイルス Jr.、アル・レイナート
原作=ジム・ラヴェル、ジェフリー・クルーガー
撮影=ディーン・カンディ 音楽=ジェームズ・ホーナー
出演=トム・ハンクス、ケヴィン・ベーコン、ビル・パクストン、ゲイリー・シニーズ、エド・ハリス、キャサリン・クインラン
Blu-ray発売元=NBCユニバーサル・エンターテイメント

1969年7月、アポロ11号による人類初の月面着陸という輝かしい成功を受け、アポロ13号による3度目の月面着陸計画が進められる。1970年4月、ジム・ラヴェル船長をはじめとする3人の乗組員を乗せたアポロ13号の打ち上げは成功し、月までもう少しのところまで近づいたとき、酸素タンクが突如爆発を起こしてしまう。酸素と電力が低下していく中、危機的な状況に置かれていく3人をなんとか帰還させるべく、地上のクルーたちは全力を傾けるのだった・・・。

アメリカの宇宙開発史の中でも、最大級のアクシデントとなったアポロ13号の爆発事故と、そこからの奇跡の生還劇を、『バックドラフト』(1991年)や『ビューティフル・マインド』(2001年)、『ダ・ヴィンチ・コード』シリーズ(2006年〜)などのヒット作を手がけたロン・ハワード監督が映画化した大作です。当事者であるアポロ13号の船長、ジム・ラヴェルらによるノンフィクションがもとになっており、ラヴェルは映画にもテクニカル・コンサルタントとして参加したほか、生還した3人を出迎える捜索船の艦長役として出演もしております。
本作は久しぶりに観直したのですが、リアルな映像の迫力と(デジタル・ドメイン社のVFXによる打ち上げシーンの出来映えは、あらためて観ても素晴らしいものでした)、充実したキャスト陣の共演にはぐいぐいと引き込まれました。
アポロ13号のリーダーであり、良き家庭人でもあるラヴェルを演じたトム・ハンクスは実にハマり役ですし、『フットルース』(1984年)などにおける青春スターから個性的な演技派を志向していたケヴィン・ベーコンや、『エイリアン2』(1986年)などで活躍していたビル・パクストン、『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994年)などのゲイリー・シニーズ、ラヴェルの妻・マリリン役のキャサリン・クインランといった、キャストの面々によるアンサンブルは実に見事です。
キャスト陣の中でもとりわけ素晴らしかったのは、ヒューストンのコントロール・ルームの主席管制官、ジーン・クランツを演じたエド・ハリス。いかなる困難な状況に直面しても、何がなんでも3人を帰還させるとの信念を曲げることなく、毅然としてスタッフたちを引っ張っていく彼の演技は、こうあって欲しいと思える理想的なリーダーの姿を体現しきっておりました。それだけに、3人の生還を確認したあとにクランツが思わず涙ぐむシーンには、こちらまでもらい泣きしてしまいます。
(ちなみに、Blu-rayの映像特典にはジーン・クランツ本人もインタビュー出演しておりましたが、当時のことを回想しながら声を詰まらせて涙ぐんだりするところが、映画で描かれていた通りの人物なんだなあという感じがして、これまた感動いたしました)
アポロ13号の打ち上げに対しては、すっかり冷め切っていて関心も示さなかったマスコミが、いざ事故で非常事態ということになるや、一転してラヴェルの自宅に押しかけるという場面も、非常事態や人の不幸が大好きなマスコミの生態は昔も今も変わらんなあ・・・という感じがして、妙に印象的でした。


夏休み映画祭6本目『キャスト・アウェイ』CAST AWAY (2000年 アメリカ)

監督=ロバート・ゼメキス
製作=スティーブ・スターキー、トム・ハンクス、ロバート・ゼメキス、ジャック・ラプケ
製作総指揮=ジョアン・ブラッドショー 脚本=ウィリアム・ブロイルス Jr.
撮影=ドン・バージェス 音楽=アラン・シルヴェストリ
出演=トム・ハンクス、ヘレン・ハント、ニック・サーシー
Blu-ray発売元=NBCユニバーサル・エンターテイメント

世界的な航空宅配便企業でシステム・エンジニアとして働いているチャック・ノーランドは、時間をムダにすることは大罪だ、という信念のもと、配送の生産性向上に邁進し、従業員を叱咤激励する日々を送っていた。ある日、チャックはトラブル解決のためにマレーシアへと向かうが、乗っていた飛行機が悪天候の中で遭難し、太平洋で墜落してしまう。命からがら脱出に成功し、救命ボートに乗り込んだチャックは、漂流の末に小さな無人島にたどり着く。こうして、文明から遠く離れた何もない島で生き抜こうとする、チャックの孤独で過酷な、そして長い闘いが始まったのだった・・・。

上記の『アポロ13』と並ぶ、トム・ハンクス主演によるもう一本の漂流サバイバル映画であります。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズ(1985〜1990年)などを手がけたヒットメーカー、ロバート・ゼメキス監督が、『フォレスト・ガンプ/一期一会』から6年ぶりにトム・ハンクスと組んだ佳作です。脚本を手がけたのは、『アポロ13』でも共同脚本を手がけたウィリアム・ブロイルス Jr.であります。実に理想的な組み合わせだねえ。
映画のおよそ半分近くは、誰もいない無人島でのチャックの孤独なサバイバル生活の克明な描写に充てられているわけですが、トム・ハンクスの達者な〝一人芝居〟と相まって、それらひとつひとつの描写が実に興味深いのです。固いココナツの実に尖った石で切れ目を入れてノドを潤したり、流れ着いた飛行機の荷物から使えるモノを活用したり、何度も失敗を繰り返した末に火を起こすことに成功したり、さらには自らイカダを組んで島からの脱出を図ったり・・・。作家・椎名誠さんの影響で、漂流サバイバルの本を読むことが好きだったりするわたしとしては、本作はとても面白く観ることができました。
飛行機から流れ着いたバレーボールを「ウィルソン」と呼び、孤独なサバイバル生活の〝相棒〟にしているくだりも印象的でした。そうすることで、長きにわたる孤独なサバイバル生活の中で、なんとか精神のバランスを保ち続けることができたのかなあ・・・と。
「安心」「安全」「便利」であることを「当たり前」だと疑うことなく思い込み、生物としてはいささか脆弱な存在となってしまっている(目下のコロナ騒ぎで、そのことをイヤというほど思い知らされたわけですが・・・)われわれ現代人に、「生きる力」を取り戻すことの大切さを教えてくれる映画であります。


【閑古堂の気まぐれ名画座・特別篇】閑古堂の夏休み映画祭(その1)『アンタッチャブル』『イレイザーヘッド』『セブン』

2022-08-14 15:56:00 | 映画のお噂
8月中旬。お盆の時期ということで、お盆休みの真っ最中という方も多いことでしょう。
わたしも、先週の11日から断続的にではありますが、お盆休みをいただいております。せっかくなのでどこかへ出かけてもいいのですが、なんせ暑いのが大の苦手ときていますので、外に出ようという気になれません。
(実は、ここしばらくブログの更新が止まっていたのも、連日のうだるような暑さで心身がへたばっていたためだったりするのですが・・・)
そこで、ここしばらく買い集めていたBlu-rayやDVD(新品もありますが、中古で安く仕入れたのも多い)がだいぶ溜まってまいりましたので、お盆休みを使って個人的映画祭をやることにいたしました。どの作品をチョイスするかは、その時その時の気分次第の出たとこ勝負ですが、それでもなるべく幅広いラインナップになればなあ・・・などと考えつつ、すでに7本の作品を鑑賞いたしました。
ということで、この個人的夏休み映画祭で観た作品を、これから何回かに分けてご紹介していきたいと思います。

夏休み映画祭1本目『アンタッチャブル』THE UNTOUCHABLES(1987年 アメリカ)

監督=ブライアン・デ・パルマ 
製作=アート・リンソン 脚本=デイヴィッド・マメット 
原作=オスカー・フレイリー、エリオット・ネス、ポール・ロブスキー
撮影=スティーブン・H・ブラム 音楽=エンニオ・モリコーネ
出演=ケビン・コスナー、ショーン・コネリー、アンディ・ガルシア、チャールズ・マーティン・スミス、ロバート・デ・ニーロ
Blu-ray発売元=NBCユニバーサル・エンターテイメント

禁酒法時代のシカゴ。ギャングの親玉であるアル・カポネは酒の密造・密輸によって莫大な利益をあげ、警察や裁判所さえも手玉にとって、暴力でシカゴを支配していた。そんなシカゴに派遣された財務省の捜査官エリオット・ネスは、老警官マローンと新人警官のストーン、会計係のウォーレスとチームをつくり、敢然とカポネとの戦いに立ち上がるのだった・・・。

かつてテレビドラマ化もされて人気を博した、エリオット・ネス本人の自伝をもとにしたブライアン・デ・パルマ監督の大傑作です。30数年ぶりに観たのですが、その圧倒的な迫力と面白さに、あらためてぐいぐいと惹きつけられました。
なにより魅力的なのが役者陣。とりわけ、本作でアカデミー助演男優賞を受賞したマローン役、ショーン・コネリーの円熟味たっぷりの存在感は格別です。コネリーが画面に登場すると、まるで年代もののウイスキーをじっくりと味わっている時のような(といっても、そういう機会にはなかなか恵まれないのですが)、陶酔した気分にすらなりました。
そして、まさに正義感がアルマーニのスーツを身に纏ったかのようなエリオット・ネスを、颯爽と演じきったケビン・コスナー。新米警官ながらも凄腕の射撃の名手であるストーンを演じた、アンディ・ガルシアのカッコよさ。慣れない銃に戸惑いながらも、だんだん張り切って戦いに臨んでいくウォーレスを、コミカルに演じたチャールズ・マーティン・スミス・・・。名優4人による、個性豊かな顔ぶれのメンバーが力を合わせて、巨悪に立ち向かっていくストーリー展開は、まさに王道ともいえる痛快さです。
彼らの敵となるギャングの頭目、アル・カポネを演じたロバート・デ・ニーロも貫禄充分。別の映画への出演を控えていたために体は太らせなかったようですが、それでも顔だけはしっかり丸くして演技に臨んだのはさすがであります。白づくめの殺し屋・ニッティを演じたビリー・ドラゴの禍々しい雰囲気も印象的です。

洗練された映像センスで知られるデ・パルマ監督は、語り草となっているクライマックスの駅構内での銃撃戦シーン(銃撃戦が繰り広げられている中、赤ちゃんが乗った乳母車が階段を落下していくさまをスローモーションで捉えていく)をはじめとした、見応えのある映像をたっぷりと魅せてくれます。その映像づくりに貢献した撮影監督、スティーブン・H・ブラムの仕事も素晴らしいですし、数多くの映画音楽を手がけた巨匠、エンニオ・モリコーネのスコアも、作品を大いに盛り上げてくれます。
脚本のデイヴィッド・マメットによる、名セリフの数々も見逃せません。なかでもお気に入りなのが、捜査への協力者を探そうとするネスに対して、マローンがアドバイスとして語った、このセリフ(字幕より)。

「腐ったリンゴがイヤなら、樽の中を探すな。木からもげ」


夏休み映画祭2本目『イレイザーヘッド』ERASERHEAD (1977年 アメリカ)

監督・製作・脚本=デイヴィッド・リンチ
撮影=フレデリック・エルムス、ハーバート・カードウェル
出演=ジョン(ジャック)・ナンス、シャーロット・スチュアート、アレン・ジョセフ、ジーン・ベイツ、ジュディス・アナ・ロバーツ、ローレル・ニア
DVD発売元=KADOKAWA

荒れ果てた工業都市のような街に住むヘンリーは、ある日ガールフレンドのメアリーが赤ちゃんを産んだということを知らされる。その赤ちゃんは、人間とも動物ともつかない異様な姿をした未熟児であった。ヘンリーはメアリーと赤ちゃんとともに暮らしはじめるが、絶え間なく続く赤ちゃんの泣き声に耐えかねたメアリーは出ていってしまう。かくて、ヘンリーは一人で赤ちゃんを育てることにするのだったが・・・。

『エレファント・マン』(1980年)や『ブルー・ベルベット』(1986年)、『ワイルド・アット・ハート』(1990年)、そしてテレビシリーズ『ツイン・ピークス』(1990年〜)などの作品で根強い支持を受けているデイヴィッド・リンチ監督の長篇デビュー作であり、いわゆる「カルト映画」を代表する一本となっている作品です。
上に記したように、一応の「ストーリー」らしきものはあるものの、その内容はシュールで不気味、そして不可解なイメージの連続からなっています。夕食の席で皿に盛られたチキンが、血を吹き出しながら脚をバタつかせたり、ラジエーターの中にいるリスのように膨らんだ頬を持った女が、上から次々に落ちてくる虫のような生き物を踏みつぶしたり・・・。とりわけ、異様な姿をした赤ちゃん(そのリアルな特殊効果はリンチ監督自身によるもの)が出てくるくだりは実にショッキングであり、正直なところ観る人を選ぶ映画ともいえるでしょう。

本作の異様なイメージはモノクロの映像でありながら、というよりモノクロであるからこそ、より一層不気味さが際立っていて、まさにダークな悪夢を見ているような気持ちにさせられます。映画のほぼ全篇で響いているさまざまなノイズが、さらに不安感を掻き立てます。
本作を観るのもかなり久しぶりのことでしたが、不気味でわけのわからない映画、という印象に変わりはありませんでした。それにもかかわらず、本作における数々の悪夢的なイメージには、なぜか強く気持ちを惹きつけるものがあります。それらのイメージが、われわれの無意識下に確実にある「なにか」を引きずり出し、可視化したものであるからなのかもしれません。
誰かれとなく「オススメ」することには躊躇してしまうものの、一度は観ておいていいと思える作品であります。


夏休み映画祭3本目『セブン』SE7EN (1995年 アメリカ)

監督=デイヴィッド・フィンチャー
製作=アーノルド・コペルソン、フィリス・カーライル
製作総指揮=ジャンニ・ヌナリ、ダン・コルソード、アン・コペルソン
脚本=アンドリュー・ケビン・ウォーカー 撮影=ダリウス・コンジ
音楽=ハワード・ショア
出演=ブラッド・ピット、モーガン・フリーマン、グウィネス・パルトロー、R・リー・アーメイ、ケヴィン・スペイシー
Blu-ray発売元=ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

退職を1週間後に控えたベテラン刑事のサマセットと、彼のもとにやってきた新人刑事のミルズは、極度の肥満体の男がスパゲティに顔を埋めた姿で死んでいる現場に急行する。その部屋にあった冷蔵庫の裏には「GLUTTONY(暴食)」という文字が残されていた。それに続いて、荒稼ぎをしていた弁護士が殺害される事件が起き、その部屋には「GREED(強欲)」という文字が。それぞれの現場に残されていた言葉から、犯人がキリスト教でいう「七つの大罪」(あとの5つは「怠惰」「憤怒」「高慢」「肉欲」「嫉妬」)に基づいて殺人を続けていると知ったサマセットは、ミルズとともに謎の犯人を追うことに・・・。

『ファイト・クラブ』(1999年)や『ソーシャル・ネットワーク』(2010年)などの作品における、卓越した映像センスに定評のあるデイヴィッド・フィンチャー監督が、ブラッド・ピットとモーガン・フリーマンの2大スターを主演に据えたサイコスリラーの大ヒット作です。実は恥ずかしながら、今回Blu-rayで初めて観たのですが、その出来の良さにぶっ飛んでしまいました。これはもっと早く観ておくべきでした。
「七つの大罪」に絡めての、おぞましい殺人の数々(犠牲者の特殊メイクを手がけたのは、多くの作品で活躍した特殊メイクアーティストのロブ・ボッティン)と、あまりにもヘビーなクライマックスに戦慄させられながらも、そのダークな世界観には強く惹かれるものがありました。
特に印象に残ったのは、クライマックス直前のやりとりでした。自首して逮捕された連続殺人犯「ジョン・ドウ」(ケヴィン・スペイシーの怪演が光ります)が、主人公2人とともに車で移動しているとき、「お前は罪のない人たちを殺した」と迫るミルズに対し、ジョンは自らの「正当性」を縷々主張したあと、こう続けるのです(以下、字幕をもとに句読点を補いました)

「問題は、もっと普通にある人々の罪だ。我々は、それを許してる。それが日常で、些細なことだから。朝から晩まで許してる。だが、もう許されぬ」

残忍な連続殺人犯の、いささか誇大妄想的な自己正当化ともとれるのですが、それでもこのセリフには重い問いかけがあるように、わたしには思えてなりませんでした。一見「普通」に思える「罪のない」人たちも、実は何らかの「罪」や「悪」とは無縁ではないのではないのか?それらが日常の些細なことであるがゆえに許され、意識されることすらないだけで・・・。
戦慄の物語に込められた、「罪」についての重く、挑戦的な問いかけ。その意味においても、『セブン』は単なるサイコスリラーとは一線を画する傑作だと思いました。