11月19日の夜から3日間にわたり、宮崎市の宮崎キネマ館を会場にして開催された、第27回宮崎映画祭。上映された全11作品のうち、わたしは20日夜から翌21日にかけて(3本だけですが・・・)鑑賞してまいりました。
宮崎の熱心な映画ファンの皆さんの尽力により、1995年の第1回から、毎年欠かすことなく開催されてきた宮崎映画祭。ですが、昨年(2020年)はコロナ騒ぎのせいで開催されず、今年の1月に開催できた第26回のときには、「感染者」数の増加を理由にした宮崎県独自の「緊急事態宣言」とやらが出されたことにより、開催こそされたもののごくごく限られた入場者数で終わってしまう結果となってしまいました。
今回の宮崎映画祭は、これまで9日間にわたっていた会期を3日間に絞り、移転してリニューアルした宮崎キネマ館が会場・・・と、まさしく仕切り直しの映画祭となりました。
会期中上映されたのは、以下の11作品です。
『スパイの妻《劇場版》』(2020年 日本)
監督=黒沢清 脚本=濱口竜介・野原位・黒沢清 出演=蒼井優・高橋一生・東出昌大
『蛇の道』(1997年 日本)
監督=黒沢清 脚本=高橋洋 出演=哀川翔・香川照之
『蜘蛛の瞳』(1998年 日本)
監督・脚本=黒沢清 出演=哀川翔・ダンカン・大杉漣
『地獄の警備員 デジタルリマスター版』(1992・2020年 日本)
監督=黒沢清 脚本=富岡邦彦・黒沢清 出演=久野真紀子・松重豊・長谷川初範・大杉漣
『親密さ』(2012年 日本)
監督・脚本=濱口竜介 出演=平野鈴・佐藤亮・伊藤綾子・田山幹雄
『残菊物語』(1939年 日本)
監督=溝口健二 脚本=依田義賢 構成=川口松太郎 出演=花柳章太郎・森赫子・高田浩吉
『雨月物語』(1953年 日本)
監督=溝口健二 脚本=川口松太郎・依田義賢 出演=京マチ子・森雅之・田中絹代
『近松物語』(1954年 日本)
監督=溝口健二 脚本=依田義賢 出演=長谷川一夫・香川京子・南田洋子
『白い肌に狂う鞭』(1963年 イタリア・フランス)
監督=マリオ・バーヴァ(ジョン・M・オールド名義) 脚本=ロベール・ユーゴーほか 出演=クリストファー・リー、ダリア・ラヴィ
『呪いの館』(1966年 イタリア)
監督=マリオ・バーヴァ 脚本=マリオ・バーヴァほか 出演=ジャコモ・ロッシ=スチュワート、エリカ・ブラン
『ウィッカーマン final cut』(1973・2013年 イギリス)
監督=ロビン・ハーディ 脚本=アンソニー・シェーファー 出演=エドワード・ウッドワード、クリストファー・リー
19日夜のプログラムは、世界的にも高い評価を得ている映画監督で、つい最近紫綬褒章も受章された黒沢清監督をお迎えしての「黒沢清の映画塾」第一夜でした。上映されたのは、イタリア怪奇映画の巨匠、マリオ・バーヴァ監督の代表作である『白い肌に狂う鞭』。
残虐な性格ゆえ、城主一族から忌み嫌われている男。彼は何者かに刺し殺されるものの、やがて幽霊となって、かつて愛し合いながらも今は弟の妻となった女のもとに現れ、その肌に鞭をふるう・・・という、恐ろしいゴシックホラーにして妖しいラブストーリー。稀代の怪奇映画役者、クリストファー・リーの名演と、光と影を効果的に使った映像構成で、一気に物語の世界に引き込まれました。
上映後のトークでは、黒沢監督が小学校4年にして(!)この映画の虜となったときの思い出話をはじめ、1960年代の世界的なホラー映画ブームの中におけるこの映画の位置付けなどが語られました。同じ時期に日本で製作された東宝の特撮怪奇映画『マタンゴ』(1963年)についても触れた黒沢監督は、恐怖映画のセオリーに沿った演出に徹した本多猪四郎監督の手腕はもっと評価されるべき、と力説されました。
このお話を聞いたわたしはあらためて『マタンゴ』が観たくなり、後日久しぶりにDVDで再見いたしました。孤立した無人島に閉じ込められ、人間不信になって諍い合いながら、一人また一人、人ならぬキノコ生物と化していくストーリーは、まさにコロナ騒ぎで人心が荒み、壊れていく現在の世の中とも重なって、すごくリアリティを感じました。この作品もまた、いま観直されるべき映画だと言えるでしょう。
黒沢監督のお話は実に興味深く、また愉しく聞くことができました。海外の映画祭でも注目される、現代日本を代表する映画監督でありながら、こういう地方の小規模な映画祭に(それも何度も)足を運んでくださる黒沢監督には、もう敬意と感謝しかございません。
映画が終わったあとは、繁華街にある馴染みのバーに立ち寄り、映画の余韻とこのお店自慢のビーフシチューとともに、ゆっくりグラスを傾けました。
この夜の宮崎市の繁華街は多くの人で賑わっていて、このお店もカウンターいっぱいのお客さんが憩っておられました。良きこと良きこと。
そして21日は午前中から、黒沢清監督の作品を2本、立て続けに鑑賞いたしました。
まずは『地獄の警備員』。兄弟子とその愛人を殺害しながら、精神鑑定で無罪放免となった元力士の警備員が、配属されたばかりの総合商社のビル内で、次々と残虐な殺戮を重ねていく・・・というホラー映画の秀作です。製作したディレクターズ・カンパニーが休眠会社になったことに伴い、長らく「封印」状態だったものの、昨年29年ぶりにデジタルリマスター版として蘇り、再公開されました(今回、入場特典としてポストカードをいただきました)。
殺人鬼の警備員を演じるのは、これが本格的な映画デビューとなった松重豊さん。大きな体にマントを羽織り、のっしのっしと歩きながら無表情かつ無慈悲に、一人また一人と血祭りあげていくさまが大迫力で圧倒されました。また、久野真紀子(現・クノ真紀子)さん演じるヒロインの上司役で登場する大杉漣さんの怪演ぶりも、まことにお見事でありました。
長谷川初範さんの役どころは、会社の実力者然とした人事部の人間。はじめはどことなく嫌味ったらしい感じだったのが、終盤では実にヒロイックな活躍を見せてくれます。さすがは僕らの矢的先生!(←わかる人にはわかりますよね)
そしてもう1本の黒沢監督の作品は『蛇の道』。誘拐され無惨に殺された娘の復讐に取り憑かれた男と、それに手を貸す謎の男が真犯人を追っていく・・・という復讐劇で、大映(現・KADOKAWA)のVシネマとして製作された作品です。
娘の復讐に取り憑かれた男を演じるのは香川照之さん、そしてそれに手を貸す謎の男を演じるのは哀川翔さん。名優お二人の演技と、単純な復讐劇では終わらない意表を突いたストーリーで、大いに楽しみながら観ることができました。
本作と、続いて上映された姉妹篇『蜘蛛の瞳』は、デジタル上映が当たり前となった現在ではほとんど見られなくなってしまった、35ミリフィルムでの上映でした。開映前に映画祭スタッフの計らいで、フィルムのテスト風景を拝見することができました(撮影OKということだったので、しっかり撮らせていただきました)。
フィルム技師は福岡からやって来られた方とのことで、映画祭スタッフの紹介を受けて観客から拍手が上がると、ちょっと照れくさそうにお辞儀をなさっておられました。お疲れ様でした!
映画を観る環境としては決して恵まれているとは言い難いわが宮崎県。そんな中でもこの宮崎映画祭は、普段あまり観ることのないジャンルの作品や、存在は知っていても観る機会がなかった作品と出会える貴重な場となってくれています。
ですが、昨年から今年にかけてはコロナ騒動による混乱もあって、映画祭の開催には何かと困難さも伴ったこととお察しします。そういった困難を乗り越えて、開催を続けてくださっている映画祭スタッフの皆さんにもまた、敬意と感謝の念しかございません。本当にありがとうございます。
次回以降の映画祭にも、時間の許す限り足を運びたいと思っております。