第28回宮崎映画祭の観覧記、後篇であります。1月15日(日曜日)は、朝から4作品を立て続けに鑑賞してまいりました。
平凡なサラリーマンである「男」は、ある朝自分の頬に奇妙な金属片が生えているのに気づく。その日を境に、「男」の身体は少しずつ金属によって浸食されていく。すべては、自分の運転する車に轢かれた「やつ」の仕業であることを知った「男」は、廃工場で「やつ」との壮絶な戦いに身を投じていく・・・。
リノベーションする祖母の家の整理にやってきた二人の姉妹。家の中から見つかったおもちゃを手に、童心に帰って遊びに興じたりしていた二人だったが、ふとしたことをきっかけに、二人の間には不穏な影が差していく・・・。
『やくたたず』(2010年 日本)
三宅唱監督の特集、2本目は『THE COCKPIT』。どこかの集合住宅の一室に集まったヒップホップのアーティストたちが、試行錯誤しながらひとつの曲をつくり上げるまでを捉えたドキュメンタリー映画。こちらはけっこう楽しめました。
ヒップホップのことにはほとんど無知なわたしですが、ときおり冗談を飛ばしたりふざけ合ったりしながらも(手書きのボードゲームのようなモノで、曲の方向性を決めようとする場面は傑作)、自分の納得のいく曲を生み出すために、ああでもないこうでもないと苦心する姿には、とても共感できるものがありました。
中でも目を見張ったのが、後半のレコーディング場面です。本作に登場するアーティストの一人である「OMSB」(オムスビ)が、ヒップホップならではの長くて饒舌なリリック(歌詞)を、何度も何度も失敗を重ねながらも見事に歌い上げたくだりには、不思議な感動すら覚えました。
ものをつくることの楽しさと喜びに満ちた、実に素敵な一本でありました。
まず1本目は、前日から続いていた塚本晋也監督の特集上映のラストを飾った『鉄男』であります。
『鉄男』(1989年 日本)
監督・製作・脚本=塚本晋也
撮影=塚本晋也、藤原京
音楽=石川忠
出演=田口トモロヲ、藤原京、叶岡伸、塚本晋也、石橋蓮司
平凡なサラリーマンである「男」は、ある朝自分の頬に奇妙な金属片が生えているのに気づく。その日を境に、「男」の身体は少しずつ金属によって浸食されていく。すべては、自分の運転する車に轢かれた「やつ」の仕業であることを知った「男」は、廃工場で「やつ」との壮絶な戦いに身を投じていく・・・。
身体が徐々に金属によって侵食されていく男の恐怖を描き、海外からも高く評価された、塚本監督の出世作にして代表作です。昨日上映された塚本監督の前作『電柱小僧の冒険』にも顔を出していた田口トモロヲさんが、身体が鉄になっていく主人公を熱演しているほか、石橋蓮司さんも謎の浮浪者役で登場しています。
(ちなみに、今回の映画祭のメインビジュアルのモチーフも『鉄男』であります)
今回、かなり久しぶりに観たのですが、強烈にしてグロテスクでありながらも、独特の美学も感じられる映像の迫力に、あらためて圧倒されっぱなしでした。身体が鉄の塊へと変貌した主人公と、彼を鉄へと変えていく「やつ」(演じているのは塚本監督ご自身)との戦いの果てに迎える驚愕のラストには、なんだか妙な爽快感すら覚えました。やはり人間の肉体と金属(あるいはテクノロジー)との融合をテーマとした作品である、デイヴィッド・クローネンバーグ監督の『ヴィデオドローム』(1983年)とも比肩しうる傑作だと思います。
(ちなみに、今回の映画祭のメインビジュアルのモチーフも『鉄男』であります)
今回、かなり久しぶりに観たのですが、強烈にしてグロテスクでありながらも、独特の美学も感じられる映像の迫力に、あらためて圧倒されっぱなしでした。身体が鉄の塊へと変貌した主人公と、彼を鉄へと変えていく「やつ」(演じているのは塚本監督ご自身)との戦いの果てに迎える驚愕のラストには、なんだか妙な爽快感すら覚えました。やはり人間の肉体と金属(あるいはテクノロジー)との融合をテーマとした作品である、デイヴィッド・クローネンバーグ監督の『ヴィデオドローム』(1983年)とも比肩しうる傑作だと思います。
終映後のトークショーでは、音楽的な側面から本作の面白さが語られました。なるほど、本作の疾走感とパンクな感覚は、たしかにロックミュージックとも相性が良さそうであります。
2本目は、若き俊英である深田隆之監督の『ナナメのろうか』。この回も、深田監督をお招きしてのトークショーがありました。
2本目は、若き俊英である深田隆之監督の『ナナメのろうか』。この回も、深田監督をお招きしてのトークショーがありました。
『ナナメのろうか』(2022年 日本)
監督・脚本=深田隆之
撮影=山田遼
音楽=本田真之
出演=吉見茉莉奈、笠島智
リノベーションする祖母の家の整理にやってきた二人の姉妹。家の中から見つかったおもちゃを手に、童心に帰って遊びに興じたりしていた二人だったが、ふとしたことをきっかけに、二人の間には不穏な影が差していく・・・。
上映時間44分という中篇ですが、一見仲が良いように見えながらも、それぞれがどこか相手に対して含むところがあるという姉妹の微妙な心理が、演じている二人の役者さんの好演と相まって巧みに描写されておりました。そんな二人の心の動きが、映画の雰囲気をガラリと変えてしまうという趣向も面白いものでした。モノクロのスタンダード画面という、古い時代の映画を彷彿とさせるフォーマットで捉えられた映像にも、印象的なカットがさまざまに散りばめられておりました。
深田監督のことは初めて知りましたが、本作によって才能の煌めきを十分感じることができました。上映後のトークショーで、まだ次回作の予定はない、とおっしゃっていましたが、これからさらに活躍してくれることを願いたいところです。
3本目と4本目は、公開中の最新作『ケイコ 目を澄ませて』(2022年)が、毎日映画コンクールで日本映画大賞や監督賞を含む5冠に輝くなど、注目度がうなぎ登りになっている三宅唱監督の特集上映でした。三宅監督の作品も、今回初めての鑑賞であります。
深田監督のことは初めて知りましたが、本作によって才能の煌めきを十分感じることができました。上映後のトークショーで、まだ次回作の予定はない、とおっしゃっていましたが、これからさらに活躍してくれることを願いたいところです。
3本目と4本目は、公開中の最新作『ケイコ 目を澄ませて』(2022年)が、毎日映画コンクールで日本映画大賞や監督賞を含む5冠に輝くなど、注目度がうなぎ登りになっている三宅唱監督の特集上映でした。三宅監督の作品も、今回初めての鑑賞であります。
『やくたたず』(2010年 日本)
監督・脚本・撮影=三宅唱
製作=間瀬英一郎、三宅唱
出演=柴田貴哉、玉井英棋、山段智昭、櫛野剛一、足立智充、南利雄、片方一予、須田紗妃
真冬の札幌。高校卒業を間近にした3人の男子高校生は、先輩が務めるセキュリティ設備の会社に出入りすることに。先輩らの手ほどきで車の運転を覚え、仕事も順調に進んでいくかと思われたのだったが・・・。卒業を控えた3人の主人公の不安と焦燥感を、三宅監督の出身地である北海道を舞台に描いた作品で、三宅監督の長篇デビュー作でもあります。
3人の主人公を軸にした青春映画ではありますが、彼らを取り巻く人びととの関係性がいまいち見えにくかったこともあり、いささか作品に入り込めないところがありました。上映後の三宅監督を迎えてのトークショーによれば、当初の脚本ではそれぞれの登場人物(いささか謎めいた雰囲気をまとった、セキュリティ設備会社の社長や、そこに出入りする若い女性といった人たち)をもっと掘り下げて描くはずだったが、撮りきれないということで変更することになった・・・とのことで、もしそれらが撮れていればかなり面白い映画となったのでは、と惜しまれます。
ですが、主人公たちの心象風景を映すかのような、モノクロによる冬の雪景色の映像は美しく、印象に残るものでありました。
『THE COCKPIT』(2014年 日本)
ですが、主人公たちの心象風景を映すかのような、モノクロによる冬の雪景色の映像は美しく、印象に残るものでありました。
『THE COCKPIT』(2014年 日本)
監督=三宅唱
撮影=鈴木淳哉、三宅唱
出演=OMSB、Bim、Hi’Spec、VaVa、Heiyuu
三宅唱監督の特集、2本目は『THE COCKPIT』。どこかの集合住宅の一室に集まったヒップホップのアーティストたちが、試行錯誤しながらひとつの曲をつくり上げるまでを捉えたドキュメンタリー映画。こちらはけっこう楽しめました。
ヒップホップのことにはほとんど無知なわたしですが、ときおり冗談を飛ばしたりふざけ合ったりしながらも(手書きのボードゲームのようなモノで、曲の方向性を決めようとする場面は傑作)、自分の納得のいく曲を生み出すために、ああでもないこうでもないと苦心する姿には、とても共感できるものがありました。
中でも目を見張ったのが、後半のレコーディング場面です。本作に登場するアーティストの一人である「OMSB」(オムスビ)が、ヒップホップならではの長くて饒舌なリリック(歌詞)を、何度も何度も失敗を重ねながらも見事に歌い上げたくだりには、不思議な感動すら覚えました。
ものをつくることの楽しさと喜びに満ちた、実に素敵な一本でありました。
今回の宮崎映画祭で鑑賞した作品は、全部で7本。ほかにも、ジョン・フォード監督の3作品(とりわけ『周遊する蒸気船』)や台湾のホラー映画『怪怪怪怪物!』、さらに昨年逝去された青山真治監督の『EUREKA ユリイカ』なども観たかったのですが、時間が取れなかったのは残念でありました。
とはいえ、塚本晋也監督に深田隆之監督、そして三宅唱監督と、それぞれに個性のある3人の俊才監督の作品をまとめて観るのは刺激的でしたし、映画の見方を拡げてくれました。そのような得難い経験ができるのも、宮崎映画祭の功徳というものでしょう。
次回の宮崎映画祭を、また楽しみに待つことにしたいと思います。