読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

カタギの人には役に立たないけど、好きモノには実に嬉しい情報と発見が満載の『ゴジラ365日』

2017-07-09 13:29:10 | 映画のお噂

『ゴジラ365日』
野村宏平・冬門稔弐著、洋泉社(映画秘宝コレクション)、2016年


国産のゴジラ映画としては12年ぶりに製作され、昨年公開されるや大ヒットして社会現象にもなった『シン・ゴジラ』。昨日(7月8日)の夜、WOWOWにてテレビ初放送されました。
わたしはBSを視聴できないので昨夜の放送は観なかったのですが、つい最近不祥事により無期限の謹慎となった某俳優(消防隊長役としてちょこっと登場)の出演場面はカットされなかったということで、ちょっとホッとしております。
今年はシリーズ初となる長編アニメーション映画『GODZILLA 怪獣惑星』も公開予定ということで(公式サイトに出ているゴジラのビジュアルも、けっこう期待感をそそってくれます)、キャラクターとしてのゴジラはまだまだ、話題の存在となってくれそうであります。ということで今回は、『シン・ゴジラ』の大ヒットに湧いた昨年の11月に刊行された『ゴジラ365日』という本をご紹介することにいたします。

この本は、第1作目から『シン・ゴジラ』までのゴジラシリーズ(ハリウッド版2作品を含む)とその関連作品の作中の出来事をはじめ、映画の製作日程や公開日、出演者やスタッフの誕生日、ゴジラ関連イベントの開催日や関連出版物の発行日、映像ソフトやゲーム類の発売日など、ゴジラに関するさまざまな事項を1年365日(2月29日も含まれるので実際には366日)ごとに網羅した労作であります。
たとえば、1954(昭和29)年に第1作目の『ゴジラ』が封切られ、「ゴジラの誕生日」とされている11月3日。この日は『シン・ゴジラ』の作中において、巨大不明生物(ゴジラ)が東京湾に出現した日付でもあります。その『シン・ゴジラ』で内閣官房長官を演じた俳優の柄本明さんのお誕生日も、同じく11月3日です。
同日の「トピック」の項を見ると、2014年にゴジラが世田谷区(東宝スタジオのある)から功労表彰状をもらったということが記されています。さらに「出版」の項では、封切られた第1作『ゴジラ』が、新聞各紙から酷評されていたことが記されます。やれ「ゴジラに性格がない」だの「企画だけの面白さ」だの「漫画本よりはマシ」だのと、もうさんざんな言われよう。今では名作として高く評価されている第1作目も、公開当時はホント不遇な扱われ方だったんだなあ。

その他、作中における主だった出来事の日付をいくつか拾うと、インファント島で初代のモスラが誕生したのは2月10日。『ALWAYS 続・三丁目の夕日』(2007年)の冒頭で、ゴジラそっくりの巨大生物(笑)が夕日町三丁目を蹂躙したのは4月22日。ハリウッド版1作目の『GODZILLA(1998)』にてGODZILLAがニューヨークに上陸したのは6月26日。『ゴジラVSキングギドラ』(1991年)にてキングギドラが四日市を襲ったのは、よりによって七夕の7月7日。初代ゴジラが東京初上陸を果たしたのは8月31日。
まあ、それがわかったからといって実生活の役に立つワケでもございませんが、こういうことを知ることで、一見味気ない日常もなんだか楽しく思えてくるのではないでしょうか。

本書には、それぞれの項目に豊富なデータが詰め込まれているので、拾い読みするだけでもけっこう面白い発見があったりいたします。
たとえば「トピック」の項目。3月10日のところでは、この日起こった東京大空襲が取り上げられ、第1作目における被害描写に影響を与えたことが示唆されます。その一方で11月29日は、2004年にゴジラがハリウッド大通りの “ウォーク・オブ・フェイム” に名を刻み、ハリウッド殿堂入りした日であります。アメリカによる空襲や原水爆に影響を受けたゴジラが、逆にアメリカへと影響を及ぼすに至った時代の流れを、あらためて感じました。
4月28日には、作家の三島由紀夫が『ゴジラの逆襲』(1955年)を鑑賞した、とあります。三島はゴジラシリーズをはじめとした東宝特撮SF映画を好んで観ていたそうで、この日も「これからゴジラを見に行く」とふれまわっていたのだとか。ちょっと親近感。

ゴジラに関連したテレビ番組を取り上げた「関連番組」の項目を見ていくと、1月23日はゴジラ第1作目の誕生秘話を取り上げたNHK『プロジェクトX 挑戦者たち』の放送日(2001年)。2月12日は平田昭彦・田中好子のご両人が出演してゴジラと怪獣映画の話ばかりとなったという、日本テレビ系『今夜は最高!』の放送日(1983年のこと。うーむ、これは観たかった・・・)。2月26日は第1作目『ゴジラ』がNHKで地上波初放映された日(1967年)・・・などといった具合。
10月22日のところでは、1966年のこの日にTBS系でTV初放映された『空の大怪獣ラドン』(1956年。ラドンのデビュー作であります)にまつわる面白いエピソードが紹介されております。当初は5月29日に放映が予定されていたのですが、プロ野球中継が雨天中止になったときの代替に放送される「雨傘番組」だったために6回も順延されたあげく、プロ野球シーズンが終了。結局、この日の夜10時からという遅い時間帯に強引に割り込ませて放送されたとか。そうだったのかあ。

なんらかの形でゴジラが引用されたりオマージュされたりしている映画やテレビドラマ、アニメなどをピックアップした「他作品」の項目も、かなり豊富です。
1月16日は「ブジラ」なる怪獣が登場するTVドラマ『やっぱり猫が好き』第59話の放送日(1990年)。4月17日は、巨大ロボと自衛隊が怪獣映画ばりの攻防を繰り広げ、伊福部昭作曲によるゴジラのテーマ曲も鳴り響くアニメ映画『クレヨンしんちゃん 爆発!温泉わくわく大決戦』の公開日(1999年)。5月16日は、シンプソン一家の乗った飛行機がゴジラに襲われるという、アメリカのTVアニメ『ザ・シンプソンズ』第10シーズン第23話のアメリカ放映日(1999年)。5月23日は、サンディエゴに上陸した恐竜T・レックスをゴジラと混同してしまう日本人ビジネスマンが登場した、スティーヴン・スピルバーグ監督の映画『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』の全米公開日(1997年)。9月18日は、ゴジラの着ぐるみを改造したエリ巻き恐竜・ジラースが登場する『ウルトラマン』第10話「謎の恐竜基地」の放映日(1966年)・・・などなどなど。
これら「トピック」や「関連番組」「他作品」の項目をたどっていくと、ゴジラというキャラクターが、日本内外のさまざまなサブカルチャーへいかに強い影響を及ぼしているのかということを、大いに実感することができます。

とりわけ出色なのが、ゴジラ関連の書籍や雑誌の記事を出版日ごとにリスト化し、内容紹介を付した「出版」の項目です。映画やキャラクターそのものを扱った出版物はもちろん、ゴジラをモチーフにした小説や漫画、さらにはゴジラを引き合いにして核問題や社会について論じた評論書も含めて幅広く網羅されております。あとがきによれば300冊強を削除せざるを得なかったというのですが、それでも大変な充実ぶりです。
面白いところでは、食べ過ぎで巨大化した(笑)主人公の両さんこと両津勘吉がゴジラばりに暴れるという、秋本治『こちら葛飾区亀有公園前派出所』のエピソードが掲載された『週刊少年ジャンプ』の発行日(5月6日)なんてのも。よくこういうのまで拾ったもんだなあ。
ゴジラ関連のイベントをピックアップした「イベント」の項目では、ともに宮崎市のみやざきアートセンターで開催された「生賴範義展 THE ILLUSTRATOR」の開幕日(2月8日。拙ブログの紹介記事はこちら)と、「ゴジラと特撮美術の世界展」の開幕日(5月2日。同じく拙ブログの紹介記事はこちらです)をしっかり押さえておいてくれているのが、宮崎の人間としては嬉しいところでありました。

まっとうな生活を営んでおられるカタギの皆さまには、ほとんど何の役にも立たないであろうマニアックな一冊ではありますが、わたしのような好きモノには実に発見に満ちた、資料としても重宝な嬉しい労作であります。

本当に必要な被災地支援とはどうあるべきかを、冷静に考えさせてくれる良記事

2017-07-08 09:59:19 | この記事はいいぞ。
九州北部を襲った記録的な豪雨により、福岡と大分が甚大な被害を受けております。亡くなった方や行方不明の方が出ているほか、これを書いている8日現在も土砂崩れにより孤立状態の地域があり、いまだ被害の全容がつかみきれていないという状況にあります。
熊本と大分を襲った地震から1年あまり、またも九州を襲った自然災害(ことに大分は、地震と豪雨のダブルパンチを受けたかたちです)。つくづく、天を恨めしく思いたくなります。同じ九州に住む人間の一人としても、気持ちが締め付けられる思いがいたします。
被害に遭われたすべての地域にお住まいの皆さまに、心からお見舞いを申し上げるとともに、亡くなられた方々にお悔やみを申し上げます。そして、行方不明となっている方々が一刻も早く見つかるよう、願ってやみません。

甚大な被害の状況が伝えられる中で、被災した地域に何か支援を・・・とお考えの方も多くいらっしゃることとお察しいたします。しかし、たとえ善意からくる支援であっても、それが本当に被災した地域と人びとの役に立つとは限りません。
ファイナンシャル・プランナーでウェブメディアの編集長でもある、中嶋よしふみさんがお書きになった「九州で発生した大雨の災害で、シロウトが被災者支援をすべきではない理由。」(Yahoo!ニュース、7月7日掲載)という記事は、被災した地域と人びとに本当に役立つ支援のあり方はどうあるべきなのかを、冷静に考えさせてくれる良記事です。

中嶋さんは、何かを選ぶことは別の選択肢(とそこから得られるメリット)を捨てること、という経済学における「機会費用」という考え方を紹介し、それを被災地支援に敷衍して論じます。
災害時、輸送インフラが限られてしまっている状況で、必要なのかどうかわからない物資を送ろうとしたり、むやみにボランティアと称して現地へ行こうとすることで、結果的に役に立つ支援を邪魔してしまう可能性がある、と中嶋さんはいい、復興支援においても「機会費用」の考え方が重要であることを強調します。
続けて、メディアやSNSで「◯◯が必要」「◯◯が足りない」といった情報が拡散され、そこで挙げられていた特定の物資ばかりが被災地に集中して届く、といったことが、結果的に他の物資が届くことを邪魔してしまう、と中嶋さんはいい、そのことを工場の生産現場で使われる「ボトルネック」と「リードタイム」の考え方で説明していきます。
全国から集まってくる大量の支援物資を仕分けし、それらを被災地に送り届けることには膨大な手間がかかるため、それが制約=ボトルネックとなってしまいます。そして、現地で必要とされる物資は刻一刻と変わるため、必要な物資の要請を受けてから被災した人びとに届けるまでの時間=リードタイムを考慮せず、数日前の情報に基づいた支援をしようとすることもまた、他の支援物資の輸送の邪魔をしてしまう、と。
中嶋さんは以下のように述べます。

「この記事を書いている時点では、一般人からのボランティアや支援物資の受け入れが出来る状況ではないようだ。善意で何かをしたいという人には不快な話かもしれないが、善意が迷惑になってしまっては不本意だろう。それでも何かをしたい、というのは迷惑を顧みない自己満足に過ぎない。
自衛隊並みに自力で完結するだけの支援能力を持っていないのであれば、節約をしながら募金の開始を待つ、くらいの対応で十分だ」


中嶋さんは最後に、元防衛相の石破茂氏が、災害支援のために常設の防災省を作るべきでは?とコメントしていたことに触れ、次のように述べておられます。

「ここ数か月、国会という希少なリソースを消費して話し合われたことは国民のためになっていたのか。もし、防災省はどう作ればいいのか? 次の災害が起きる前に早く作るべきでは? という建設的な議論がなされていたら、被害の規模はもっと抑えられたのではないか。
おそらく機会費用の考え方を最も理解すべきは国会でスキャンダルを追及し、追及されていた政治家だろう」



この中嶋さんの記事は、被災した地域と人びとのためになるような支援について、あらためていろいろと考えさせてくれる、実に有益なものでした。
メディアから伝わってくる、深刻で悲惨な被害の状況を知るにつけ、とにかくなんとかしなければ、という思いに駆られることはよく理解できますし、わたしもこの数日、何もできないことにもどかしい思いを募らせてもおりました。
しかし、それがいかに善意に基づいたものであったとしても、被災した地域と人びとにとって本当に役立つものとならなければ、やはりそれは「ありがた迷惑」にしかならないということは、肝に銘じておかなければいけないなと思いました。自分のやろうとしていることは、本当に被災地のためになることなのか、それとも単なる自己満足に過ぎないのかという問いかけは、折に触れてなされる必要があるのでしょう。
個人ができることには限りがあるのですから、自分がやれないことは専門のノウハウやスキルを持つ方々や組織に任せながら、自分ができる範囲のささやかな支援(義援金や現地の産品購入など)に徹することが一番なのではないか、そう考えております。
中嶋さんが最後になさっておられた政治に対する問いかけにも、政党の党利党略や、偏狭で視野狭窄なイデオロギーで停滞するいまの政治の不幸を思い、頷きつつ溜息をつくばかりでした。

このような時こそ、被災した地域と人びとを想う「熱い心」と、本当に必要とされる支援とは何なのかを見極める「冷たい頭」を持つことが大切なのだと、中嶋さんの記事を読んで思います。
ぜひとも、多くの方々に読まれて欲しいと切に願います。