年末年始にかけて行ってきた超個人的映画祭「閑古堂の年またぎ映画祭」、最後の特集は、日本映画界が誇る至宝・黒澤明監督の傑作3本をピックアップいたしました。長い時を経てもなお、色褪せることのない面白さを持った黒澤作品を、2022年を生きるための活力にしたいと思います。
年またぎ映画祭12本め『七人の侍』(1954年 日本)
年またぎ映画祭13本め『用心棒』(1961年 日本)
年またぎ映画祭14本め『椿三十郎』(1962年 日本)
年またぎ映画祭12本め『七人の侍』(1954年 日本)
監督=黒澤明 製作=本木荘二郎 脚本=黒澤明・橋本忍・小國英雄 撮影=中井朝一
音楽=早坂文雄
出演=三船敏郎・志村喬・津島恵子・島崎雪子・藤原釜足・加東大介・木村功・千秋実・宮口精二・小杉義男・左卜全・稲葉義男・土屋嘉男
DVD発売元=東宝
戦国時代。たび重なる野伏せり(野武士)たちの襲撃と蹂躙に耐えかねた小さな集落の村人たちは、村を守ってもらうために七人の浪人たちを雇う。侍たちは農民たちを指揮して少しずつ敵を倒していき、ついに最終決戦へとなだれ込む・・・。
黒澤明監督のみならず、日本映画を代表する作品ともなっている、もはや説明不要の大傑作であります。3時間半という長さにもかかわらず、一気に最後まで引きこまれる無駄のない緊密な構成と、迫力満点のアクションにはただただ「最高!」の一言あるのみです。集落の構造や周囲の地形、敵方の戦力や行動を分析しながら繰り広げられる、巧みな戦いのプロセスにもワクワクさせられました。
そして俳優たちの個性溢れる名演ぶり。志村喬さん演じる勘兵衛が放つ人間的な魅力は、作中の人物たちが「ついていきたい」と思うのも無理はない、と感じさせられる説得力に満ちています。豪放磊落で乱暴者だけどひょうきんで憎めない、三船敏郎さん演じる菊千代のキャラクターもまた最高で、親を失った赤ちゃんを抱き上げて「この子は俺だ!」と号泣するシーンには胸をわしづかみにされました。ニヒルで凄腕の剣豪・久蔵を演じた宮口精二さんも、剣道の経験がまったくなかったというのが信じがたいほどの名演でした。
見終わったあと、また何度でも観たいと思わせてくれる真の名作であり、娯楽アクション映画の最高峰であります。
年またぎ映画祭13本め『用心棒』(1961年 日本)
監督=黒澤明 製作=田中友幸・菊島隆三 脚本=黒澤明・菊島隆三 撮影=宮川一夫 音楽=佐藤勝
出演=三船敏郎・仲代達矢・司葉子・山田五十鈴・加東大介・河津清三郎・志村喬・太刀川寛・夏木陽介・東野英治郎・藤原釜足・山茶花究・土屋嘉男
DVD発売元=東宝
跡目争いで分裂した二つのばくち打ちの組が激しくいがみ合う、上州の宿場町へふらりとやってきた腕利きの素浪人「桑畑三四郎」。彼は互いをけしかけ、殺し合いをさせるよう仕向けるのだが・・・。
黒澤明監督が徹底したエンタテインメントを志向した痛快作で、海外でも『荒野の用心棒』(1964年)という形で(ただし無断で)リメイクされるなど、内外の映画人たちにも多大なる影響を与えた大ヒット作でもあります。
時代劇でありながら、砂埃が立ちこめるゴーストタウンのような宿場町のセットや、三船敏郎さん演じる型破りな主人公の人物造形など、海外の西部劇やハードボイルドを意識した作劇が面白い一本でした。ピストルを武器に持つ、殺気に満ちた敵役の仲代達矢さんや、居酒屋の親爺役の東野英治郎さんの名演ぶりも素晴らしかったなあ。
年またぎ映画祭14本め『椿三十郎』(1962年 日本)
監督=黒澤明 製作=田中友幸・菊島隆三 脚本=菊島隆三・小國英雄・黒澤明 原作=山本周五郎「日々平安」 撮影=小泉福三・斎藤孝雄 音楽=佐藤勝
出演=三船敏郎・仲代達矢・小林桂樹・加山雄三・志村喬・藤原釜足・団令子・入江たか子・清水将夫・伊藤雄之助・久保明・太刀川寛・土屋嘉男・田中邦衛
次席家老たちによる汚職を告発しようとする、正義感と血気にあふれた9人の若侍たちの密談を盗み聞きした三十郎は、行きがかり上彼らの手助けをすることに。どこか危なっかしい若侍たちの行動に手こずらされながらも、三十郎は巧みな知略で敵方を追い詰めていく・・・。『用心棒』のヒットを受け、黒澤明監督が前作同様に三船敏郎さん演じる三十郎を主役にして放った続篇的な作品です。
ラストの三船さんと仲代達矢さん(前作とは異なる役柄で登場)との、血しぶきが勢いよく噴き出す一騎打ちの場面が語り草となっている映画ですが、作品の全篇に軽妙で飄々としたユーモアが流れていて、個人的には前作『用心棒』よりもこちらのほうが好みであります。とりわけ、押し入れを出たり入ったりする羽目となる男のくだりは傑作で、大いに爆笑させられました。入江たか子さん演じる、汚職の濡れ衣を着せられた家老の奥方が語る呑気な話にじれったくなった三十郎が、ふすまに書かれている「や」の字を指でなぞる(しかも2回も)場面もまことに愉快。黒澤監督といえば重厚でいかめしいイメージがありますが、こういう軽妙なユーモアにも冴えを見せていたことに驚かされました。
9人の若侍の一人として出演しているのが、昨年(2021年)惜しまれつつ逝去された田中邦衛さん。いまから60年も前の作品にもかかわらず、見た瞬間に「あー邦衛さんだー!」とわかる存在感は、やはりさすがだなあ・・・と思ったことでありました。
年末年始にかけていろいろな映画を観て、やっぱり映画っていいもんだなあと、どこかの映画評論家のような(笑)感想をもちました。映画って楽しいだけではなく、難儀な世の中を生きていくための知恵や勇気を与えてくれる芸術、娯楽でもあって、その価値は書物に劣らないものがあるように思うのです。
これまで書物のほうにかけていた時間を、今年はもっと映画のほうに振り向けていこうかなあ、と考えております。