読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

食べて応援!!うんまいもの天国・東北の美味い魚とお菓子で幸せ気分♪

2016-03-24 19:49:27 | 美味しいお酒と食べもの、そして食文化本のお噂
先月(2月)から始めた、co-opの共同購入。以前から職場の同僚数人(全員女性なんだけど)がやっていたのですが、そのうちの一人から「お酒の肴にぴったりなのもいろいろありますよ♪」という聞き捨てならない(笑)ことを言われたことがきっかけとなり、始めてみることにしたという次第であります。
注文した商品とともに届けられるカタログには、確かにお酒のお供にうってつけの品がいろいろと。ほかにも生鮮食料品からパン、スイーツ、飲料に至るまで、豊富なアイテムの商品が載っていて、けっこう重宝しております。・・・あれやこれやと欲しくなって迷った挙句、ついつい注文し過ぎてしまうこともあるのが悩ましいところなのですが(苦笑)。

で、そのco-opの共同購入カタログに載っていたのを見て、これはぜひ味わってみたい!ということで注文していたのが、福島県郡山市のお菓子屋さん「かんのや」のくるみ&ごまゆべしでした。それが一昨日(22日)職場に届き、さっそく持ち帰って晩酌および晩ごはんのあとにゆっくり、頂いてみました。



上品で優しい甘さの餅生地に、香ばしい歯ざわりと風味のくるみがよく合っていて実に美味しく、晩酌と晩ごはんで満たされていたはずのお腹に、心地良くしみじみと収まっていきました。まさしく「銘菓」という言葉にふさわしいゆべしの味にすっかり魅せられ、幸せな気持ちになりました。
製造販売元は1860年、すなわち江戸時代の末からゆべし作りで名を馳せている老舗の菓子店「かんのや」さん。お店のホームページによれば、創業の地は「日本三大桜」の一つとして名高い樹齢千年のベニシダレザクラ「滝桜」のある三春町なんだとか。
同封されていた「商品のご案内」やホームページには、ゆべしの他にもお煎餅やサブレーなど、美味しそうなお菓子がいろいろと。中でも、三春町の「滝桜」をイメージしたリーフパイは今の時期にぴったりという感じで、惹かれるものがありますねえ。電話やファックス、ネットで注文すると全国発送もしてくださるとのことなので、これから時々注文してみようかなあ。
福島県をはじめとする東北には、まだまだ美味そうなお菓子があるようですし、そういうのもいろいろと味わってみたいものですね。
素敵なお菓子との出会いをつくってくれたco-opさんには、もう称賛の拍手パチパチパチパチ、なのであります。

今月の前半には、三陸獲れの美味しい魚(というかサバなのですが・・・)も賞味することができました。
わたしが住んでいる地域にあるスーパーマーケットで、「食べて応援!東日本応援フェア」というコーナーが目に止まったので、引き寄せられるように覗いてみました。そこには主に宮城県産の海産物がいろいろと並んでいて、見ているうちにあれこれ欲しくなってきました。とはいえビンボー人ゆえ(泣)、片っ端から買って帰るというわけにもいきません。
しばし悩んだ末に、宮城県塩釜産のサバ干物を買って帰りました(大のサバ好きなもので・・・)。



地元宮崎の芋焼酎とともに晩酌で頂いてみると、旨味たっぷり、程よい塩加減でサバ好きには極楽の美味しさでありました。そして何より、その大きいことといったら。真ん中から切り分けてその日に半分食べ、もう半分は翌日頂きました。いやー、堪能しました。三陸獲れのサバ、ほんと美味すぎますよ。
製造販売元は、「間宮塩蔵」ブランドで無添加手作りの干物を作り続けているという、創業40年以上になる塩釜市の「間宮商店」さん。お店のホームページを覗くと、サバのほかにもサンマやイワシなどの干物がズラリ。こちらも、電話やファックス、ネットでの注文ができるようですので、取り寄せてまた食べようかなと思っております。

「間宮塩蔵」のサバ干物を買った数日後。再び同じスーパーの「東日本応援フェア」コーナーに立ち寄りました。間宮さんのサンマやイワシの干物など、ほかにもお酒が進みそうなものがいろいろとあってまたも迷いましたが・・・結局は最初見たときにも惹きつけられていた炙りしめサバを買って帰り、晩酌のおともにしたのでした。ええ、繰り返しますが大のサバ好きなもので・・・。こちらも宮城県産ですが、販売元は東京の会社のようでした。



まあ、言うまでもなく炙りたてが一番いいのでしょうが、それでもなかなかの美味さでありました。とりわけ、腹の部分を噛みしめると脂がじわじわと染みてきてもうこたえられません。これもお酒が進みましたなあ。
やっぱり、三陸獲れのサバは最高じゃのう。いつかは機会をつくって、現地で炙りたてを食してみたいものです。
山形屋ストアさん(やはり称賛の意味を込めて、ここに名前を記させていただきます)、いいフェア企画ありがとうございます!今度は、岩手や福島の産品も含めて開催してくださいませ。

今月で、東日本大震災から5年の節目を迎えました。3月11日の前後1週間、メディアはこぞって震災のことを取り上げましたが、それが過ぎると再び、震災のことはメディアから遠ざかっているように思えます。
しかし、節目の前も後も、被災した地域とそこに生きる方々の日常は続いています。震災の風化が言われるようになっている昨今、節目にかかわらず被災した地域と人びとの営みに目を向け続けていくことは、とても大切なことのように思うのです。
一方で、被災した地域、とりわけ福島県の産品などに対して、偏ったおかしな思い込みを振り回して誹謗中傷するような向きがいまだにいるのが現実だったりします。それも、小説家などの「文化人」に、そのような振る舞いを見せる向きがいたりするのですから。怒りを通り越して、ただただ情けなさを覚えるばかりです。あれから5年が経ち、わかっていることも進んでいるところも少なくないというのに。

被害の大きかった東日本の各地へは、まことにささやかではありますが、自分のできることで支援をし続けていきたいと思っております。
離れた場所に住む自分たちにできることは、まずはご当地の産品を買って、食べて、飲んで応援すること、です。偏ったおかしな思い込みを振り回すような向きはもう放っておいて、これからもうんまいもの天国である東北の味覚をいろいろと楽しんでいきたい、と思っております。
そうそう。岩手や宮城、福島は酒どころでもあるんだよな。これからは、東北のうまいお酒もいろいろと呑んでみたいなあ。

宮崎県総合博物館の「岩合光昭写真展 ねこ」を観に行く

2016-03-21 22:30:24 | 宮崎のお噂
今月(3月)の3日から、宮崎県総合博物館にて開催中の「岩合光昭写真展 ねこ」、連休最終日であった本日(21日)観に行ってきました(会期は4月14日まで)。


野生動物の生態を腰を据えて記録した優れたお仕事と並んで、日本全国と世界の猫たちを取材した写真をライフワークとしておられる動物写真家・岩合光昭さん。今回の写真展は、岩合さんがこれまで撮り続けてきた猫写真の集大成ともいえる展覧会です。
犬も好きではありますが、どちらか一つだけに決めなさい!と迫られたら躊躇することなく猫のほうを選ぶくらい(←どんな状況だか)猫好きのわたし。開幕以来ずーっと、行きたい行きたいと思っておりましたので、わくわくしながら会場へと赴きました。
午前9時の開館からまもない時間に入館して観覧したのですが、初めは幾分か空いていた展示スペースも、観覧しているうちにいつの間にか人がいっぱいに。やはり、なかなかの人気ぶりでありました。連休でしたしね。昨日(20日)には岩合さんご本人が来場されてギャラリートークなどを行い、けっこう盛況だったようです。


会場には、地中海沿いの国々、そして日本各地の町や村で撮影された、約200点の猫写真が展示されておりました。
ゴロンと寝っ転がって呑気そうに目を閉じ、あーあと伸びをしている猫。真剣な表情で見事にジャンプを決める猫。干してある布団にぶら下がってじゃれている猫。真っ白な壁が美しい地中海の町にある家の窓から顔を出している猫。犬やニワトリと仲良く並んで写っている猫。赤とんぼやカエルにビビっている風情の猫。おばちゃんの背中におぶさって気持ち良さげな猫・・・などなどなど。
挙げていったらキリがなくなるくらい、バラエティ豊かな表情や動作の猫たちの写真一枚一枚に、猫好きのわたしの頬は始終ゆるみっぱなしでした。会場のあちこちからも、観覧客の発する「カワイイ~~♡」という声が。
中でもちょっと目を見張らされたのは、トルコの湖を泳いでいる猫を撮影した一枚でした。前をしっかり見据えながら泳ぐ姿が、実に堂々としていて見事なものでした。猫も泳ぐときには上手に泳ぐもんなんだなあ。ちなみに、その猫が泳いでいる湖の名前は「ワン湖」だとか(笑)。いいなあ。
猫の姿もさることながら、背景に写り込んでいる各地の風景や風物にも魅せられるものが多々ありました。富士山をバックに茶畑からヒョイと顔を出す静岡県の猫。伊万里焼でできた招き猫にマーキングしている佐賀県の猫。雪だらけになりながら動き回っている青森県の猫・・・。
猫たちもそれぞれの地方の風土の中で、たくましくしたたかに生きているんだなあ、ということが、観ていてしみじみと伝わってくるように思いました。
わが宮崎市や日南市で撮影された写真も、5点展示されておりました。懐かしさが残る県南部の町、油津(日南市)を歩く猫の写真なども、なかなかいいものでした。

岩合さんと妻の日出子さんが、かつて一緒に暮らしていたメス猫「海(かい)ちゃん」を撮影した一連の写真もありました。まだ子猫だったときに岩合家にやってきた海ちゃんは、生涯に6回の出産でたくさんの子どもを残すとともに、岩合さんたちにさまざまなことを教え、影響を与えた存在でもありました。
わたしが海ちゃんのことを知るきっかけとなったのは、以前出されていた岩合さん夫妻の写真文集『海ちゃん ある猫の物語』(新潮文庫、1996年刊。現在は品切れ)でした。


今回の写真展でも、16年間にわたって記録された海ちゃんの一生が、凝縮された形で展示されておりました。
子猫だった頃の愛くるしい姿から、子どもたちを産んで母らしいキリッとした表情をした姿まで。愛情と尊敬を込めて撮影されたそれらの写真を観ていると、あらためてジンとくるものがありました。

さらには、島民よりも猫の数のほうがずっと多いということで知られている、宮城県の田代島を取材した写真もありました。しっぽのあたりにハートの形の模様がある猫とその仲間たち。口にくわえた魚を引っ張り合っている2匹のオス猫。嬉しそうな表情で猫を抱っこしている地元の漁師さん・・・。
別の本で知ったことなのですが、東日本大震災による大津波はこの島にも襲いかかったものの、多くの猫は島の中心に建っている、その名も「猫神社」へと逃げて助かることができたのだとか(ムック『珍島巡礼』イカロス出版より)。田代島の猫たちと人たちとの穏やかな共存が、これから先も末長く続いていくことを願うばかりです。

最後に立ち寄った物販コーナー。何か写真集でもあれば買っていこうかなあ、ということで選んだのが、今回の写真展と同じ『ねこ』というタイトルの写真集(クレヴィス)です。


今回の写真展のベースとなったのがこの写真集のようで、展示されていた写真の多くがここに収録されていて、写真展の「図録」といってもいいものとなっています。内容が同じながら手頃な値段の文庫版もあり、どちらにしようか迷ったものの、やはり写真が大きくて見やすいほうがいいか、ということで、奮発して大きいサイズのほうを買いました。
そんなわけで、今夜はこの写真集と、かなり久しぶりに書棚から引っ張り出してきた『海ちゃん』のページをゆっくりめくりながら過ごしているわたしなのであります。ああ、やっぱり和むなあ。

『たべもの起源事典』『物語 食の文化』『飲食事典』 食を深く知り、楽しむための座右の食文化事典3点

2016-03-07 22:33:52 | 美味しいお酒と食べもの、そして食文化本のお噂

『たべもの起源事典』(日本編・世界編)
岡田哲著、筑摩書房(ちくま学芸文庫)、日本編2013年、世界編2014年
(元本は2003年と2005年に東京堂出版より刊行)

先月(2月)、版元に注文して取り寄せた『たべもの起源事典』の日本編と世界編。届いた当日にさっそく買って帰り、その後ときおり紐解いては拾い読みしております。
食文化史研究家として、食文化についての著書を数多く上梓している著者が、食卓でもおなじみの食べものから各地の郷土料理、さらには食の周辺についての事項などを網羅した日本編と、日本人にも馴染み深い料理や食材を中心に、あまり耳慣れない珍しい料理も紹介する世界編。あわせて2500項目もの大部な食文化事典を、膨大な量の参考文献をもとにしながらたった一人で書き上げた著者・岡田さんの力量には、驚嘆と畏敬の念が湧いてまいります。

まずは日本編を拾い読みしてみると、よく知っている食べものの初めて知る来歴や、まったく知らなかった過去の食べもののことなどを知ることができて、興味の尽きない面白さがありました。
たとえば、わたしの好物の一つである「竜田揚げ」。これまでずっと、「竜田」が何を意味しているのかわからないままだったのですが、本書の「竜田揚げ」の項目を見ると、次のごとく記されております。

「竜田揚げの命名は、仕上がりの赤い色合いから、奈良県生駒郡を流れる龍田川に因み、秋の紅葉の美しさを連想し命名されたもの。在原業平の歌に『ちはやふる神代もきかず龍田川からくれないに水くくるとは』とある」

なるほどなあ。そういう風流な由来があったんだなあ、「竜田揚げ」の名前には。
また、「お好み焼き」の項目には、安土桃山期に千利休が茶懐石用に創作した「麩の焼き」が、お好み焼きの祖型といわれていることが記されていて、それも初めて知ることとなりました。本書は、そういったお馴染みの食べものの思いがけない由来をいろいろ知ることができて、実に面白いものがあります。
また、「ラーメン」の項目には約4ページが、「カレーライス」には約3ページが費やされていて、この二つはれっきとした「日本料理」なんだということを、あらためてしみじみと感じたりいたしました。
そうかと思えば、今ではほとんど知られることのなくなった昔の食べものにも興味を惹かれたりいたします。「つけやきパン」の項目をみると、薄切りにした下等なパンを斜めに切り、片面に砂糖蜜を塗り、焼いて竹串に刺したという明治時代に大流行したパンのことが記されておりました。ふーん、そういうのがあったのか。

本書には、全国各地の郷土料理や特産品、名物菓子が豊富に収録されていて、それもまた興味をそそるものがあります。
わが宮崎県に関する項目を見ても、「冷汁」や「日向夏みかん」、「日向南京」(いわゆる日向カボチャ)はもちろんのこと、「飫肥天」「鯨ようかん」「延岡茶」、さらにはわたしの住む宮崎市の老舗菓子店が製造販売している郷土菓子「つきいれ餅」までもが立項されていたりして、ちょっと驚きました。宮崎ではそれなりに知名度がありながらも、県外ではさほど知られていないであろうローカルな菓子まで取り上げているとは。すごいなあ。
もちろん、他の都道府県の郷土料理や名物菓子にも美味しそうなのがいろいろと見出されたりいたしますので、どこかへ旅行する際に現地の食べものについて予習するのにも役立ちそうです。

世界編はまだそこまでは目を通していないのですが、こちらにもところどころに興味をそそる記述が。
スペインのバレンシア地方が発祥の炊き込みご飯「パエリャ」の項目には、パエリャの起源と歴史、使われる具材の種類(思いのほか多彩です)が記されたあと、

「日本のチャーハンと間違えて、慌てて食べると胸につかえる。オリーブ油が多く、ベチャベチャしているためである」

なんて書かれていたりします。実はまだパエリャを食したことのないわたし、いつかパエリャを食べる機会が訪れたら慌てずにゆっくり食べないとな、と思った次第であります。
日本編と世界編ともども、食をより豊かに楽しむための座右の書として活用していきたいと思います。

わたしの手元にある食と食文化についての座右の事典本、『たべもの起源事典』のほかにもあと2点ございます。それらも併せてご紹介することにいたしましょう。


『物語 食の文化 美味い話、味な知識』
北岡正三郎著、中央公論新社(中公新書)、2011年

『物語 食の文化』は、米や小麦といった穀類や、魚介類、肉や卵や乳、野菜や果物、菓子、茶とコーヒー、酒といったさまざまな食べものや、調味料、食べるための道具といった食にまつわる事項について、日本と中国、西洋を比較しながら概観し、体系的に述べている本です。
もちろん通読しても面白いのですが、気になる項目を拾い読みしても何かしらの発見があり、食文化についての小事典としても重宝する一冊です。新書一巻本でありながら内容はけっこう幅広くて充実しておりますし、図版が豊富に載っているのも魅力です。
食について興味関心があるという方は、まずはこの本をお手元に置くことをオススメいたします。


『飲食事典』上・下
本山荻舟(てきしゅう)著、平凡社(平凡社ライブラリー)、2012年
(元本は1958年に平凡社より刊行)

大正から昭和にかけて活躍した小説家にして料理研究家でもあった著者が、日本の食文化史にかかわる料理や食材、祭礼行事、人名などの事項を網羅してまとめたのが『飲食事典』です。
初刊が1958年ということもあり、記述に多少古めかしい言い回しが散見されるのは否めませんが、約6000項目にもおよぶ大著を一人で書き上げた著者の熱意と博学ぶりに、やはり驚嘆と畏敬の念を覚えます。
日本の食文化を語る上で欠かせない事項には、かなり分厚く紙幅が費やされていて、とりわけ「鰻」「飢饉」「米」「酒」「鮭」「食」「すし」「茶」「漬物」「豆腐」「海苔」「備前焼」「河豚(ふぐ)」といった項目にみる、微に入り細に入りの詳細な解説ぶりには圧倒させられます。
また「山椒魚」の項目をみると、「肉は純白で脂肪に富み、煮ても炙っても美味といわれて原始的な調理法を伝えられる」といった具合に、かつてはサンショウウオが食用として用いられていたことが記されています。『飲食事典』は、このように今では失われた、過去の日本の食文化を窺い知るための貴重な資料としても価値があるように思います。
日本の食文化史をより深く知りたい向きは、こちらも座右にどうぞ。

【雑誌閲読】『月刊たくさんのふしぎ』2016年3月号「家をせおって歩く」

2016-03-06 16:41:38 | 雑誌のお噂

『月刊たくさんのふしぎ』2016年3月号「家をせおって歩く」
村上慧著、福音館書店、2016年


いや~~、これはマジでやられたわ。面白すぎる!

『こどものとも』シリーズをはじめとした、福音館書店から出ている月刊絵本雑誌の数々。その中の一つが、『たくさんのふしぎ』です。
先月(3月)に発売されていた、その『たくさんのふしぎ』3月号がやたら面白い!と熱っぽく教えてくれたのは、わが勤務先である書店の同僚でした。なんでも、作者であるアーティスト、村上慧さんを取り上げたラジオ番組もあったんだとか。それを聞いたわたしは、ふーん、と軽い気持ちでパラ読みしてみました。
村上さんが、発泡スチロールなどで自作した一人用の「家」をかついで、東京から東北各県を回り、日本海側から関西を経由してフェリーで九州に渡り、大分県やわが宮崎県にまで至る・・・という、2014年4月から1年間にわたった旅のことを、写真とイラストで綴っていくという内容でした。むむむ、確かにコレはかなり面白そうじゃないか!ということで即買いし、帰宅して晩酌かたがた読みました。じっくり読んでみると、パラ読みしたときに感じた以上の圧倒的に面白い内容で、すっかり引き込まれました。
小さな「家」を背負って各地を回るという行動自体も実に面白いのですが、何より面白かったのは、「家」の構造から持ち物、「家」を据える場所を確保する過程、食事、睡眠などなど、「家」とともに歩く旅(村上さんいわく「移住」)のディテールが事細かに伝えられているところでした。

発泡スチロールをベースに、骨組みとなる角材などで組み立てられた「家」には、郵便受けつきのドアや窓があり、屋根には瓦が乗っかっていたりしていて、小さいながらもなかなか本格的なつくりです。中で寝ることができるよう、マットと寝袋も据え付けられています。
とはいえ、好き勝手な場所に「家」を置いて寝るわけにはいきません。お寺や神社、お店などを訪ねては、土地の一部を借りて「家」を置いていいかどうか交渉します。もちろん断られることもありますが、どの町にも協力してくれる人がいて、中には「我が家へ立ち寄りませんか?」とメールで連絡してくれた人もいたのだとか。
場所を確保することができたら、トイレを借りることができる場所やお風呂(銭湯)の場所を描き込んだ「間取り図」をつくります。その場所がある町全体を大きな「家」と考える、というわけなのです。
本書には、1年間に「家」を置くことができた場所180カ所の写真が(写真を撮り忘れた1カ所を除き)ズラリと掲載されております。民家の庭やカーポート、集合住宅の階段の下、お寺の本堂の一角などなど。そうかと思えば橋の下や、周りに何もない空き地のような場所にぽつんと置かれていたり・・・といろんな場所があって、1カ所1カ所の写真を実に面白く見ることができました。

食事は基本的に、コンビニで調達したカップラーメンや飲料ですが、道ばたで農家の人から野菜や果物をもらったり、土地を貸してくれた人が食事に呼んでくれたりすることもあったそうで、その一部も写真で紹介されています。
そこにはのっけから、わたしの地元である宮崎県宮崎市の家庭での食事も出ていて、食卓の上には宮崎発祥のチキン南蛮と、南九州で食べられている「ガネ」とよばれるサツマイモとニンジンのかき揚げが。いかにも宮崎って感じの取り合わせで嬉しいですな。また、大阪の家庭でご馳走になったという、たこ焼き器で作るアヒージョも面白かったなあ。
ほかにも、接近してきた台風から「家」を守ったという話や、神戸から大分へ渡るフェリーでは「家」は手荷物扱いとなり追加料金は要らない、と言われたという話・・・など、綴られている内容にいちいち「ほほ~~」と感心したり、はたまた大笑いさせられたりして、読んでいてまことに楽しかったですね。

各地を移動し、「家」を置くための土地を借りる交渉を重ねる過程で、村上さんは地域の中に入り込んで、普段は知り合えない人たちと出会うことになります。
大阪で出会ったのは、村上さんの活動に刺激を受けて、自分が背負えるような「家」をこしらえたという小学2年生の男の子。まだその中で寝たことがない、という男の子に、村上さんは一晩その中で寝てみることを勧めます。
東日本大震災で大きな被害を受けた岩手県大船渡市越喜来(おきらい)では、派手な外観の建物に出くわします。津波で流されてしまった家の柱や梁、窓、小学校の非常階段などで組み立てられ、滑り台やブランコを備えたこの建物。それは津波で遊ぶ場を失ってしまった子どもたちのために、地元で建設業を営む男性が自力で作り上げたものでした・・・。
そんな、旅先で出会った人々とのエピソードも、また実に印象的であります。

勤務先が福音館書店の特約店ということもあり、これまで商品としては馴染み深いものではあった月刊絵本雑誌。ですが、中身をちゃんとチェックしていたわけでもなかったので、この『たくさんのふしぎ』もまったくノーマークでした。
それだけに、こんな面白い題材を取り上げていたこともまったく知りませんでした。いやほんと、やられましたわ。これは子ども以上に、オトナが面白く楽しめる内容だと思いました。
これからしっかりチェックしとかなきゃいかんなあ、『たくさんのふしぎ』。ちなみに、発売されたばかりの4月号の題材は「昆虫の体重測定」。これもなんか面白そうだなあ。