「よれよれ酒宴隊、串間の海に吠える」(第1回)はこちら、(第2回)はこちらです。
今から14年前の2000年5月、親しい呑み仲間とともに、宮崎県最南端の串間市で行ったキャンプの記録「よれよれ酒宴隊、串間の海に吠える」の再録、最終回です。
ここでは、キャンプ2日目のようすが綴られておりますが、キャンプも2日目となるといささかダレ気味で、なんだかひたすら堕落した感じとなっていて恐縮なことでありますが•••。よろしければどうか、最後までお付き合いいただければ幸いです。
終盤に、串間市にある温泉施設「いこいの里」を訪ねた記述がありますが、これは2000年当時のものですので、現在の施設とは細部において異なっているところがあるかもしれない点、あらかじめお断りしておきます。ただ、施設のHPを参照した上で、一部の記述を現在の情報に訂正いたしました。
では、以下に本文を。
翌朝。5時半に目が覚めた。こういうときは朝がはやい。
テントから出る。東の空には今まさに朝日が昇ろうとしていて、オレンジの輝きが東の地平線から海にまでのびてきている。そういえばずいぶん久しく日の出なんて見ていなかったなあ••••••。おれはしばしその輝きに見とれた。
カマタ盆地男がテントから這い出てきて釣りの支度をはじめた。そして、「キスの天ぷらを食おうや」といって出かけていった。
あたりは朝の冷気で肌寒い。おれはゆるゆると焚き火をおこしにかかった。湿気を帯びてなかなか火がつかず往生したがなんとか燃えてくれた。
1時間ほどして盆地男が戻ってきた。「ダーメじゃ、釣れんわ」とすっかりアキラメ顔である。ああやっぱり。志布志湾のサカナどもは手ごわい。
「ふわあああ」イクコかあちゃんも起きてきて、朝メシの支度にかかりはじめた。ゴハンとミソ汁だけのシンプルな朝メシ。ミソ汁の具はありあわせの野菜のみである。余った釣り餌ゴカイの “キタロー” を具に入れたら面白いぞ、とおれは提案したが、イクコかあちゃんは「いやあああ、それだけはダメ」と全身をふるわせつつ却下した。
じつにシンプルかつ質素な朝メシではあるが、こうして野外で食べるとやたらうまいゴチソーに思えるから不思議である。
さて。朝メシは食ったものの、これといってするべきコトもなくおれたちはひたすらノンビリのほほんとしていた。こういうとき野外遊びの達人ならカヌーにスキューバにタコ上げにターザンごっこに••••••とアクティブに遊びまくるのだろうが、あいにくおれたちは達人というほどでもないただの平民である。
「どーれ、トリ肉とイカをつまみに呑み方すっか」
結局、こんなところに落ちつくのであった。
えっ、まだ午前9時半だぞ、とおれは思ったが、ま、こういう時ぐらいはいっかあ、ということで発作的呑み方に突入した。
残しておいたトリ肉とイカを炭火で焼きつつ、ビールと焼酎をのむ。ううむ、朝っぱらから堕落してしまい申し訳ない。申し訳ないけれどやっぱりうまい。やっぱりシヤワセである。堕落は美徳なり。堕落バンザイ!
おれたちが堕落におぼれていると、ウェットスーツを着こんで岩場で貝採りをしていたおじさんが海から上がりこちらのほうに向かってやってきた。どうやら地元のヒトらしい。
「とれますかあ?」盆地男が声をかけた。
「うーん、あんまりとれんなあ」おじさんはいった。陽に焼けて塩気のあるいいカオをしている。
「こんなモンじゃが」おじさんは手に持った網から5~6個ほどの貝を取りだした。トコブシであった。
「やるが」といってくれたので図々しくも頂戴し、さっそく七輪にのせ、ショーユをかけて焼く。すまぬすまぬといいつつ食べた正真正銘とれたてのトコブシは磯の香りたっぷりの絶品であった。••••••ほんと食ってばっかりである。
「よかったら飲んで行きやらんですか?」イクコかあちゃんが焼酎の入った紙コップをおじさんにすすめた。初めはいらない、といっていたおじさんも、やがて腰を下ろして焼酎を口にしはじめた。そして、おれたちはしばらくおじさんと話をした。
「このへんに原発ができたら魚とったり泳いだりできんごつなるじゃろし••••••うーん、あんましいいコトはないなあ」
といった、串間市に持ち上がっていた原発立地問題に対するナマの声や、
「むかしゃ、夜に呑み方したあとにはよう夜這いしよったもんじゃったけど、いまじゃセクハラになるじゃろうし、もうそげな元気もなかもんなあ••••••」
といった、現地の性風俗に関する貴重な証言などを聞くことができ、まことに有益なひとときを過ごすことができた。ありがとう、おじさん。末長く元気でね。トコブシもうまかったよ。
おじさんが去ったあと、おれは酔いがまわり眠くなったのでテントにもぐりこみ横になった。われながら、日の高いうちからだらしねえなあ、と思ったのだが、まあこんな時ぐらいはこういう堕落もいいんでないかい?堕落バンザイ!などとオノレを正当化しつつ眠ってしまった。
テントの外はすっかり初夏を通り越して夏の日差しのようになっていた。蒸しブロ状態になったテントの中で目を覚ますと、盆地男とイクコかあちゃんもスヤスヤ寝ているではないか。かたわらの七輪の上ではつくりかけのカレー鍋がふぬけた湯気を上げていて、炭火がほとんど消えかかっていた。時刻を見るともう昼の1時を過ぎている。
「おいおい、これじゃ昼メシにありつけんぞ」と思い、あわてて火をおこし始めると、あとの二人もおもむろに起き上がり、「ふああああ••••••おおカレーがまだ途中やったが、はよつくろか••••••ふわあああ」といいつつ、つくりかけのカレー鍋をゆるゆるとかき回しだすのであった。
うーむ。せっかくの青少年強化合宿だというのに、2日目はすっかり堕落しきってしまいまことにお恥ずかしいかぎりである。しかし、ふだん朝早くから夜まで仕事にはげむ(とくに3月から4月にかけての時期は休みもほとんどなく、なかなかハードだったりもする)盆地男とイクコかあちゃんにとっては、こういうゆったりとした時を過ごすことも大事なこと、立派なリクリエーションの一環なのである。失業中で毎日が日曜日状態の残る一人はどうなのだ!とのスルドイ追及の声があろうかとは思うが、これについては経済不況や雇用問題等々、さまざまに複雑な問題がからみあっており、慎重な見方が必要と思われる。いずれにせよ、これからの成り行きが注目される。
ようやくカレーができあがったときにはもう2時を過ぎていた。なんか昼メシというより3時のオヤツのほうが近い時間帯である。一同そそくさとカレーを食った。
「うーん!うめえなあこんカレーは!なんでこんなにうめえっちゃろか」と、盆地男がなんてこともない平凡なカレーにえらくカンドーしながらいった。そう、なんてこともない食い物であっても自然の中で食べれば立派なゴチソーなのだ。
おそい昼メシを食べ終えると、鍋洗いとゴミ処理にかかった。燃やせるゴミはすべて焚き火で燃やす。食材の残りクズ、残った焚きつけ、使い終わった紙コップや紙皿••••••宴のあとがつぎつぎと火の中に投げこまれ消えていく。一抹の淋しさがよぎる。キャンプは終わろうとしていた。二日目は堕落気味ではあったが、でもいいキャンプだったなあ。また夏になったらキャンプに行かないとな••••••。
それにしても。キャンプを終えるときにはいろいろと食材が余ったりするものである。
「野菜がけっこう残ったねえ。まあこれは持って帰って使おうかねえ」
「••••••こんコーヒー牛乳はなんじゃろか?」
「ああ、缶コーヒーを買うつもりがソレになったとよ。値引きしてあって安かったし」
「こらもう飲めんなあ、期限も来とるし••••••」
買った本人たちですら、ワケのわからぬまま忘れられるモノまである。買い出しには気をつけよう。
テントをたたみ、焚き火を始末して撤収も終わり、キャンプ地を離れることにした。
荷物を運びながら、あらためて串間の海を眺めた。またいつの日かここに来たいものだ。その時まで、美しいままの串間の海でいてくれい••••••。
「さてと、いまから温泉に行って汗流してから帰ろかあ!」
盆地男がいった。おお、それはいい!キャンプと温泉というのは人生における最強最良の組み合わせではないか。それはぜひ万難を排して行かねばならぬ!止めてくれるなオッカサン!••••••って誰も止めねえよ。
串間の市街地を抜け、国道448号線を都井岬方面に向かうと、低い山に囲まれた真新しい建物が見えてきた。「串間温泉・いこいの里」である。
この温泉は、1996年にオープンした公共の温泉施設である。自然の中に佇む清潔感のある温泉は、地元の人たちにも好評である。
前庭には人口の小川が流れており、鯉や金魚が泳いでいる。その小川が、建物の下に潜り込み玄関ロビーの中をサラサラと流れている。おもしろい趣向だ。
受付で手の甲にスタンプを押される。これは受付カウンターにある機械にかざすと光る特殊なインクで、これが消えない限り好きなだけ繰り返し入浴できますよ、だいたい4~5時間はもちますよ、と係りの人がいった。
「おお、光る光る、まこつ光るわ。こらおもしれえ、ハハハ」同行のカマタ氏が幼な子のごとく喜んでいる。
浴場は「ホタル浴」と「メダカ浴」という、それぞれ趣向の異なる湯とサウナを持つ二つに分かれており、日替わりで男女が入れ替わるシステムになっている。この日は「ホタル」が男、「メダカ」が女となっていた。もう一人の同行人、イクコ嬢がわけのわからぬまま「ホタル」のほうに入ろうとするのを止めて、「メダカ」のほうに行ってもらう。
じつに種類の豊富な湯があった。ゆったりと浸かれる大きな浴槽に寝湯、サウナ、水風呂、泡風呂、打たせ湯、足湯、そして菖蒲の束が浮いた菖蒲湯も。そう、この日は5月5日、こどもの日であった。「美肌の湯」だという、ツルツルした肌ざわりの少ししょっぱい湯。なかなかに気分がいい。
今回は2時間ほどの訪問だったので味わえなかったのだが、地元の海で獲れた魚介類をふんだんに使った各種海鮮料理がここの名物。むろん宿泊もできるので、二つの湯を満喫しつつじっくり味わうといいだろう。
風光明媚な都井岬や志布志にも近い、自然に囲まれたいで湯。ゆっくり滞在しつつ楽しみたい。
串間温泉・いこいの里
入浴料=リフレ館(大浴場)は大人(中学生以上)500円、子ども(小学生)300円、湯ったり館(露天風呂付き)は大人310円、子ども150円
宿泊料=大人1名9150円~11100円
泉質=ナトリウム炭酸水素塩泉
効能=神経痛、筋肉痛、慢性消化器病、冷え症、疲労回復など
休館日=毎月第3水曜日(祝祭日の場合はその翌日)
串間市大字本城987
TEL 0987-75-2000
http://kushima-spa.com/
「あっ、みやげ買っとかんといかんかった」
帰途、イクコかあちゃんがいった。家で待つムスコたちのために、日南市名物の魚肉天ぷらである飫肥天でも買って帰ろう、というのだが、なかなか店が見つからない。盆地男の心当たりの店もすでに閉まっていた。祝日の夜7時過ぎ、ムリもない。結局、コンビニでいくらかの菓子類を買って帰ることにしたのであった。
宮崎市が近づいてきた。帰りはずっと助手席だったおれは心地よいネムケに包まれながら、これから自転車こいで郊外にある自宅まで帰るのはシンドイかもな、と思った。
(終)
ということで、3回にわたって長々とお届けしてきた14年前のバカばなしも、これにて幕であります。最後までお付き合いいただいた皆さま(いるのか?)、どうもありがとうございます。
このとき行動を共にした「盆地男」と「イクコかあちゃん」とは、その後もずっと付き合いは続いていて、今でもたまに飲みに行ったりはしているのですが、なかなか互いの時間を合わせるのが難しくなっていて、残念ながらこのようなキャンプに出かける機会はほとんどなくなってしまっております。
また久しぶりに、どこかにキャンプへ出かけたいなあ。そして焚き火を囲んで激しく、そしてしみじみと飲み食いしたいなあ。
今から14年前の2000年5月、親しい呑み仲間とともに、宮崎県最南端の串間市で行ったキャンプの記録「よれよれ酒宴隊、串間の海に吠える」の再録、最終回です。
ここでは、キャンプ2日目のようすが綴られておりますが、キャンプも2日目となるといささかダレ気味で、なんだかひたすら堕落した感じとなっていて恐縮なことでありますが•••。よろしければどうか、最後までお付き合いいただければ幸いです。
終盤に、串間市にある温泉施設「いこいの里」を訪ねた記述がありますが、これは2000年当時のものですので、現在の施設とは細部において異なっているところがあるかもしれない点、あらかじめお断りしておきます。ただ、施設のHPを参照した上で、一部の記述を現在の情報に訂正いたしました。
では、以下に本文を。
翌朝。5時半に目が覚めた。こういうときは朝がはやい。
テントから出る。東の空には今まさに朝日が昇ろうとしていて、オレンジの輝きが東の地平線から海にまでのびてきている。そういえばずいぶん久しく日の出なんて見ていなかったなあ••••••。おれはしばしその輝きに見とれた。
カマタ盆地男がテントから這い出てきて釣りの支度をはじめた。そして、「キスの天ぷらを食おうや」といって出かけていった。
あたりは朝の冷気で肌寒い。おれはゆるゆると焚き火をおこしにかかった。湿気を帯びてなかなか火がつかず往生したがなんとか燃えてくれた。
1時間ほどして盆地男が戻ってきた。「ダーメじゃ、釣れんわ」とすっかりアキラメ顔である。ああやっぱり。志布志湾のサカナどもは手ごわい。
「ふわあああ」イクコかあちゃんも起きてきて、朝メシの支度にかかりはじめた。ゴハンとミソ汁だけのシンプルな朝メシ。ミソ汁の具はありあわせの野菜のみである。余った釣り餌ゴカイの “キタロー” を具に入れたら面白いぞ、とおれは提案したが、イクコかあちゃんは「いやあああ、それだけはダメ」と全身をふるわせつつ却下した。
じつにシンプルかつ質素な朝メシではあるが、こうして野外で食べるとやたらうまいゴチソーに思えるから不思議である。
さて。朝メシは食ったものの、これといってするべきコトもなくおれたちはひたすらノンビリのほほんとしていた。こういうとき野外遊びの達人ならカヌーにスキューバにタコ上げにターザンごっこに••••••とアクティブに遊びまくるのだろうが、あいにくおれたちは達人というほどでもないただの平民である。
「どーれ、トリ肉とイカをつまみに呑み方すっか」
結局、こんなところに落ちつくのであった。
えっ、まだ午前9時半だぞ、とおれは思ったが、ま、こういう時ぐらいはいっかあ、ということで発作的呑み方に突入した。
残しておいたトリ肉とイカを炭火で焼きつつ、ビールと焼酎をのむ。ううむ、朝っぱらから堕落してしまい申し訳ない。申し訳ないけれどやっぱりうまい。やっぱりシヤワセである。堕落は美徳なり。堕落バンザイ!
おれたちが堕落におぼれていると、ウェットスーツを着こんで岩場で貝採りをしていたおじさんが海から上がりこちらのほうに向かってやってきた。どうやら地元のヒトらしい。
「とれますかあ?」盆地男が声をかけた。
「うーん、あんまりとれんなあ」おじさんはいった。陽に焼けて塩気のあるいいカオをしている。
「こんなモンじゃが」おじさんは手に持った網から5~6個ほどの貝を取りだした。トコブシであった。
「やるが」といってくれたので図々しくも頂戴し、さっそく七輪にのせ、ショーユをかけて焼く。すまぬすまぬといいつつ食べた正真正銘とれたてのトコブシは磯の香りたっぷりの絶品であった。••••••ほんと食ってばっかりである。
「よかったら飲んで行きやらんですか?」イクコかあちゃんが焼酎の入った紙コップをおじさんにすすめた。初めはいらない、といっていたおじさんも、やがて腰を下ろして焼酎を口にしはじめた。そして、おれたちはしばらくおじさんと話をした。
「このへんに原発ができたら魚とったり泳いだりできんごつなるじゃろし••••••うーん、あんましいいコトはないなあ」
といった、串間市に持ち上がっていた原発立地問題に対するナマの声や、
「むかしゃ、夜に呑み方したあとにはよう夜這いしよったもんじゃったけど、いまじゃセクハラになるじゃろうし、もうそげな元気もなかもんなあ••••••」
といった、現地の性風俗に関する貴重な証言などを聞くことができ、まことに有益なひとときを過ごすことができた。ありがとう、おじさん。末長く元気でね。トコブシもうまかったよ。
おじさんが去ったあと、おれは酔いがまわり眠くなったのでテントにもぐりこみ横になった。われながら、日の高いうちからだらしねえなあ、と思ったのだが、まあこんな時ぐらいはこういう堕落もいいんでないかい?堕落バンザイ!などとオノレを正当化しつつ眠ってしまった。
テントの外はすっかり初夏を通り越して夏の日差しのようになっていた。蒸しブロ状態になったテントの中で目を覚ますと、盆地男とイクコかあちゃんもスヤスヤ寝ているではないか。かたわらの七輪の上ではつくりかけのカレー鍋がふぬけた湯気を上げていて、炭火がほとんど消えかかっていた。時刻を見るともう昼の1時を過ぎている。
「おいおい、これじゃ昼メシにありつけんぞ」と思い、あわてて火をおこし始めると、あとの二人もおもむろに起き上がり、「ふああああ••••••おおカレーがまだ途中やったが、はよつくろか••••••ふわあああ」といいつつ、つくりかけのカレー鍋をゆるゆるとかき回しだすのであった。
うーむ。せっかくの青少年強化合宿だというのに、2日目はすっかり堕落しきってしまいまことにお恥ずかしいかぎりである。しかし、ふだん朝早くから夜まで仕事にはげむ(とくに3月から4月にかけての時期は休みもほとんどなく、なかなかハードだったりもする)盆地男とイクコかあちゃんにとっては、こういうゆったりとした時を過ごすことも大事なこと、立派なリクリエーションの一環なのである。失業中で毎日が日曜日状態の残る一人はどうなのだ!とのスルドイ追及の声があろうかとは思うが、これについては経済不況や雇用問題等々、さまざまに複雑な問題がからみあっており、慎重な見方が必要と思われる。いずれにせよ、これからの成り行きが注目される。
ようやくカレーができあがったときにはもう2時を過ぎていた。なんか昼メシというより3時のオヤツのほうが近い時間帯である。一同そそくさとカレーを食った。
「うーん!うめえなあこんカレーは!なんでこんなにうめえっちゃろか」と、盆地男がなんてこともない平凡なカレーにえらくカンドーしながらいった。そう、なんてこともない食い物であっても自然の中で食べれば立派なゴチソーなのだ。
おそい昼メシを食べ終えると、鍋洗いとゴミ処理にかかった。燃やせるゴミはすべて焚き火で燃やす。食材の残りクズ、残った焚きつけ、使い終わった紙コップや紙皿••••••宴のあとがつぎつぎと火の中に投げこまれ消えていく。一抹の淋しさがよぎる。キャンプは終わろうとしていた。二日目は堕落気味ではあったが、でもいいキャンプだったなあ。また夏になったらキャンプに行かないとな••••••。
それにしても。キャンプを終えるときにはいろいろと食材が余ったりするものである。
「野菜がけっこう残ったねえ。まあこれは持って帰って使おうかねえ」
「••••••こんコーヒー牛乳はなんじゃろか?」
「ああ、缶コーヒーを買うつもりがソレになったとよ。値引きしてあって安かったし」
「こらもう飲めんなあ、期限も来とるし••••••」
買った本人たちですら、ワケのわからぬまま忘れられるモノまである。買い出しには気をつけよう。
テントをたたみ、焚き火を始末して撤収も終わり、キャンプ地を離れることにした。
荷物を運びながら、あらためて串間の海を眺めた。またいつの日かここに来たいものだ。その時まで、美しいままの串間の海でいてくれい••••••。
「さてと、いまから温泉に行って汗流してから帰ろかあ!」
盆地男がいった。おお、それはいい!キャンプと温泉というのは人生における最強最良の組み合わせではないか。それはぜひ万難を排して行かねばならぬ!止めてくれるなオッカサン!••••••って誰も止めねえよ。
串間の市街地を抜け、国道448号線を都井岬方面に向かうと、低い山に囲まれた真新しい建物が見えてきた。「串間温泉・いこいの里」である。
この温泉は、1996年にオープンした公共の温泉施設である。自然の中に佇む清潔感のある温泉は、地元の人たちにも好評である。
前庭には人口の小川が流れており、鯉や金魚が泳いでいる。その小川が、建物の下に潜り込み玄関ロビーの中をサラサラと流れている。おもしろい趣向だ。
受付で手の甲にスタンプを押される。これは受付カウンターにある機械にかざすと光る特殊なインクで、これが消えない限り好きなだけ繰り返し入浴できますよ、だいたい4~5時間はもちますよ、と係りの人がいった。
「おお、光る光る、まこつ光るわ。こらおもしれえ、ハハハ」同行のカマタ氏が幼な子のごとく喜んでいる。
浴場は「ホタル浴」と「メダカ浴」という、それぞれ趣向の異なる湯とサウナを持つ二つに分かれており、日替わりで男女が入れ替わるシステムになっている。この日は「ホタル」が男、「メダカ」が女となっていた。もう一人の同行人、イクコ嬢がわけのわからぬまま「ホタル」のほうに入ろうとするのを止めて、「メダカ」のほうに行ってもらう。
じつに種類の豊富な湯があった。ゆったりと浸かれる大きな浴槽に寝湯、サウナ、水風呂、泡風呂、打たせ湯、足湯、そして菖蒲の束が浮いた菖蒲湯も。そう、この日は5月5日、こどもの日であった。「美肌の湯」だという、ツルツルした肌ざわりの少ししょっぱい湯。なかなかに気分がいい。
今回は2時間ほどの訪問だったので味わえなかったのだが、地元の海で獲れた魚介類をふんだんに使った各種海鮮料理がここの名物。むろん宿泊もできるので、二つの湯を満喫しつつじっくり味わうといいだろう。
風光明媚な都井岬や志布志にも近い、自然に囲まれたいで湯。ゆっくり滞在しつつ楽しみたい。
串間温泉・いこいの里
入浴料=リフレ館(大浴場)は大人(中学生以上)500円、子ども(小学生)300円、湯ったり館(露天風呂付き)は大人310円、子ども150円
宿泊料=大人1名9150円~11100円
泉質=ナトリウム炭酸水素塩泉
効能=神経痛、筋肉痛、慢性消化器病、冷え症、疲労回復など
休館日=毎月第3水曜日(祝祭日の場合はその翌日)
串間市大字本城987
TEL 0987-75-2000
http://kushima-spa.com/
「あっ、みやげ買っとかんといかんかった」
帰途、イクコかあちゃんがいった。家で待つムスコたちのために、日南市名物の魚肉天ぷらである飫肥天でも買って帰ろう、というのだが、なかなか店が見つからない。盆地男の心当たりの店もすでに閉まっていた。祝日の夜7時過ぎ、ムリもない。結局、コンビニでいくらかの菓子類を買って帰ることにしたのであった。
宮崎市が近づいてきた。帰りはずっと助手席だったおれは心地よいネムケに包まれながら、これから自転車こいで郊外にある自宅まで帰るのはシンドイかもな、と思った。
(終)
ということで、3回にわたって長々とお届けしてきた14年前のバカばなしも、これにて幕であります。最後までお付き合いいただいた皆さま(いるのか?)、どうもありがとうございます。
このとき行動を共にした「盆地男」と「イクコかあちゃん」とは、その後もずっと付き合いは続いていて、今でもたまに飲みに行ったりはしているのですが、なかなか互いの時間を合わせるのが難しくなっていて、残念ながらこのようなキャンプに出かける機会はほとんどなくなってしまっております。
また久しぶりに、どこかにキャンプへ出かけたいなあ。そして焚き火を囲んで激しく、そしてしみじみと飲み食いしたいなあ。