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『ふらり旅 いい酒いい肴 1』
太田和彦著、主婦の友社、2014年
かっちりした本を読む合間などに「箸休め」的に読んだ本をご紹介する「今週の箸休め本」。•••なのですが、ここしばらくは年末に伴うバタバタなどで心身ともに余裕がなく、かっちりした本を読むこともままなりませんでした。よって、今回ご紹介する『ふらり旅 いい酒いい肴 1』は、忙しい日々の「箸休め」のような感じでつまみ読みした一冊であります。
先月(12月)、初めて新書のかたちで出版した『居酒屋を極める』(新潮新書。拙ブログで取り上げた記事はこちらです)に続く、わが酒と酒場の師(と勝手に慕っている)太田和彦さんの新刊であります。
太田さんが日本各地をじっくり訪ね歩いては、その土地に根づいた名酒場を紹介していくという、BS11で放送中の同名旅番組を、番組には入れられなかった情報を加えて書籍化したものです。第1弾となる本書に収録されているのは、倉敷、尾道、伊勢、小田原、鎌倉、勝浦、高知、松山、会津、松本、鹿児島、熊本、八丈島、浅草、秋田、鶴岡、神戸の17ヶ所。
酒と酒場の達人である太田さんが目と舌で味わう、その土地ならではの名酒と逸品料理にも、もちろんココロ惹かれるものがあるのですが、それ以上にいいなあと感じたのが、実は旅の達人でもある太田さんが提案する旅のスタイルでした。
「中高年の旅は駆け足よりも、気に入った所をゆっくり歩く、夜は地元の店でじっくり酒と料理」という「国内旅のモデルケースを見せる」のが、番組を始めた狙いだったという太田さん。いわゆる「観光名所」を、クルマなどの交通機関に乗ってせかせか回るのではなく、自分の足で歩ける狭い範囲をじっくりと歩いては、「その町の住人になったつもりで1日を過ごす」旅を実践し、提案するのです。
尾道では、昔からの個人商店が並ぶアーケード街をぶらぶら歩いては、手押し車で海産物を売る行商「ばんより」から「でべらがれい」という干物(名品らしいです)を買い、勝浦では海に生きる漁師たちに尊ばれている寺をめぐる。城下町・会津では武家屋敷とは違った魅力を発する大正モダンな建築の数々を見て歩き、熊本では賑やかな「新市街」を少し外れた「旧市街」を歩いて往時をしのぶ•••。
鎌倉で、観光客皆無ながら味わいのあるお店がいくつかあるという地元の商店街を歩いたくだりでの、この一節が印象的でした。
「表の観光地ではないこの通りは、下校した学童が帰ってゆくのがいい。観光地ではない日常の町を歩くのは旅の達人だ。」
太田さんは、いい酒といい肴だけではなく、その土地に生きる人たちとの交流も大切にし、キラリと光る「いい人」を見出します。中でも、鶴岡で亡夫のバーを継いで現役バーテンダーを続けておられる御年77歳の女性は、ストライプシャツに蝶ネクタイ姿も様になっていて、まことにいい感じです。
本書には、太田さんが訪ねた名所や名店が、アクセスなどのデータや地図とともに紹介されておりますので、実用的なガイドとしても使えそうです。とはいえ、太田さんも言うように「見るものも、味も、すべて個人の好み」でありますから、これをヒントにしつつも自分だけの名所や名店を見つけるというのが一番でしょう。
また、番組からのシーンや太田さん自写による写真も、オールカラーで多数掲載されていますので、すぐには出かけられないという方も、居ながらにして旅気分を味わうことができるのではないでしょうか。
じっくり町を歩いては、いい酒といい肴、そしていい人に出会う旅への誘いである本書を読んで、近々出かける予定の旅がさらに待ち遠しくなってきました。わたくしもじっくりたっぷり、歩く旅を満喫してきたいものだなあ。