『みずとは なんじゃ?』
かこさとし/作、鈴木まもる/絵、小峰書店、2018年
今年5月のはじめに逝去された、絵本作家のかこさとし(加古里子)さんが、亡くなる直前まで精魂を傾け、製作に取り組んでおられた遺作『みずとは なんじゃ?』が、このほど刊行の運びとなりました。
かこさん自らによる原稿やラフスケッチをもとに絵を描いたのは、物語から知識絵本まで幅広く手がけ、鳥の巣研究家でもある鈴木まもるさん。NHKのドキュメンタリー番組『プロフェッショナル 仕事の流儀』でも、お二方による真剣な打ち合わせの様子が捉えられておりましたが、それがこうして形となったのを見ると、やはり感無量です。
顔を洗ったり、料理やお風呂・トイレ・洗濯に使ったり、そのまま飲んだり・・・と、わたしたちの生活になくてはならない水。ふだんは液体ですが、あるときは気体に、さらには固体へと、さまざまに姿を変えていく、水の持つ不思議な性質が、まずはわかりやすく解き明かされます。
次に、水は溶かしこんだ養分を人間や動物、植物の体内で行き渡らせ、代わりにいらなくなったものを乗せて体から出すことで、生きものたちの命を支えてくれていることを説明します。そしてさらに、水は水蒸気となって地表の熱を調節することで、地球が生きものにとって生きやすい環境をつくってくれている・・・という大事なことを伝えてくれます。
わたしたち大人も、ともすれば忘れがちになってしまう、水の持つ不思議な性質と大切なはたらき。本書を読むことで、それをあらためて認識することができました。
本書は、水についての基本的な知見が過不足なく盛り込まれているとともに、巧みな比喩と語り口で楽しく読めるものとなっています。固体・液体・気体と形を変える水の性質を「たくみな しばいの やくしゃ」に喩えたところなどは、鈴木まもるさんの絵と相まってニンマリいたしました。
身近なところから始まって、やがて地球という大きな存在へと視点が広がっていく、かこさんならではの語り口にも、あらためて唸らされました。
かこさんの指名を受けた鈴木さんも、かこさんの意思と熱意にしっかりと応えるような、素敵な絵をお描きになられています。水が水蒸気となって、地表の温度調節をしていることを説明するくだりの絵には、かこさんの代表作である『かわ』や『地球』(ともに福音館書店)を思い起こさせるものがあり、かこさんへの熱いリスペクトが込められているように感じました。
かこさんへのリスペクトといえば・・・本作には、かこさんが生み出した名キャラクター、そしてかこさんの姿もさりげなく、絵の中に描き込まれております。ぜひとも、隅から隅までじっくりとご覧のうえ、見つけていただけたらと思います。
本書には初回発売分のみ、かこさん自筆の原稿やラフスケッチとともに辿った絵本の製作過程や、鈴木さんからのメッセージを掲載した冊子が封入されています。それによれば、本書は幼い子どもたちに向けた科学絵本シリーズの一冊として構想されていたのだとか。もうしばらく、かこさんが御存命であったなら、それらの何冊かを目にすることができたかもしれない・・・と思うと、誠に残念な思いがいたします。
ですが、かくも科学絵本としてクオリティが高く、かつ読みものとしても実に面白い作品を、最後の最後に遺してくださったかこさんは、やはりすごい方だなあ・・・と、あらためて畏敬の念が湧いてまいります。
「子どもたちのために」という信念を生涯貫かれてこられた、かこさんからの最後の「おくりもの」。多くの子どもたちへと届き、末永く読み継がれていくよう、願ってやみません。