『奇跡の母子犬』山下由美著、PHP研究所、2008年
2007年。宮崎県中央動物保護管理所に、4頭の野犬が収容されます。母犬と3頭の子犬。子犬は生まれてから日が浅く、まだ目も開けられない状態でした。
管理所に収容された犬や猫は一定の期間保護されますが、飼い主が見つからなければ殺処分される運命にあります。管理所から生きて出られる確率は、わずか10%。4頭の「命の期限日」は1週間後でした。
しかし、自らを盾にして子犬たちを守ろうとする母犬の姿に打たれた管理所の職員さんは、期限日を半月延長して、飼い主が現れるのを待つことにしました。
母犬は、人間におびえながらの野良生活が長かったためか、極度の人間不信から攻撃的になっていました。人間の足音や声を聞いただけで、子犬を守ろうと威嚇するのです。子犬はもちろん母犬の命を救いたいと、心を通わせようとする職員さんですが、「命の期限日」は刻々と迫ってきます。このまま処分を迎えるしかないのかと思われたとき、「奇跡」が訪れたのです•••。
宮崎市で実際にあった話を、写真と文章とで綴った児童向けノンフィクションです。
実をいえば、自分の地元での話でありながら、本書を読むまでその詳細を知りませんでした。本書を一見したときも、ほのぼの系の感動話かなあ、という程度のイメージでした。しかし一読して強く心を揺さぶられることになりました。
本書には、「犬と人間との心の交流を描いた感動話」という安易なイメージには収まらない、辛く厳しい現実がしっかりと織り込まれていました。
「『処分してくれ』と飼っていた犬を管理所に連れてきて『じゃあな』と頭をなでて平然と帰ったおじさん。「さ~、デパートでお買い物して帰ろうかな」まるで厄介払いできたかのように浮かれて帰るおばさん。何年も一緒に過ごしてきた家族の一員だったはずなのに••••••犬の命はそんなにも軽いものなのでしょうか。」 (「あとがき」より)
いいかげんな姿勢で動物を飼い、身勝手な理由をつけて手放してしまう飼い主たちの存在によって、全国で年間36万頭もの犬や猫が「処分」されている現実。そしてそんな現実に胸を痛めながら、最後まで犬や猫への慈しみを持って職務にあたる管理所の職員さんたち。
「『殺している』のは職員さんではなく、飼育放棄した飼い主なのです」という、著者のことばがとても重く響きます。
いとも容易く動物を捨てるのも人間なら、それを必死になって救おうとするのも人間。そして、自分を盾にしてでも子犬たちを守ろうとする母犬。
大げさかもしれませんが、「人間ってなんなんだろう、人間としてのあり方はどうあるべきなのか」ということまで考えさせるものが、本書にはありました。子どもはもちろん、大人にも読まれて欲しい一冊です。
本書を原案にした映画『ひまわりと子犬の7日間』が、間もなく公開となります。主要なロケを宮崎県内で行い、主演は宮崎市出身の堺雅人さん、セリフの多くも宮崎弁という「宮崎映画」であります。
きょう(3月3日)付けの地元紙・宮崎日日新聞に、監督の平松恵美子さんへのインタビュー記事が掲載されていました。
「ただ動物がかわいいというだけでなく、命を持った一つの「個」として、人間と動物がしっかりと向き合う作品にするのが目標でした」と語る平松監督。モデルとなった管理所職員さんや、本書を書いた山下さんにも取材した上で、脚本を書き上げたとか。「主人公がリアルに宮崎で生活している様子がしっかり表現されないと、(動物の命をめぐる)繊細な問題が上滑りになってしまうから。そうならないよう、細部まで詰めたかった」からだ、と。真摯な姿勢で作品づくりに取り組んだようで、大いに期待が持てるのであります。
映画は3月16日から全国公開となりますが、宮崎県内では1週間早く9日から公開となります。これはなんとしてでも観に行かねば。
【関連オススメ本】
『どうぶつたちへのレクイエム』 児玉小枝著、桜桃書房、2000年(のちに2005年、日本出版社から再刊)
動物収容施設に収容され、命を奪われていった犬や猫たちの姿を捉えた写真集。何かを訴えかけてくるかのような1頭1頭の表情に打ちのめされます。現在は絶版・品切れなのが惜しまれてなりません。ぜひとも復刊して欲しいと切望いたします。
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