『めんぼうズ』
かねこまき作、アリス館、2021年
書店での仕事(といっても、外商専業で売場を持たない、特殊な形態の書店ではございますが・・・)を長いこと続けていると、お得意先から受けたご注文によって、それまで知らなかった面白い本の存在を教えていただくことが、少なからずあったりいたします。今回ご紹介する『めんぼうズ』という絵本も、まさにお得意先からのご注文を通して出会うこととなった一冊であります。
洗面台の片隅にある円筒形のケースの中に、きれいに収まっている顔のある綿棒たち。満月の夜、その綿棒たちがケースから抜け出し、列をなして「ぴょんこ ぴょんこ ぴょんこ」と外へ飛び出していく。ほかの家からも同じように、たくさんの綿棒たちが抜け出してきて、一団となって町外れに向かって行進していく。そして湖にたどり着いた綿棒たちは、いっせいに湖の中へ飛びこんでいく。すると・・・。
・・・という、なんともフシギでシュールな楽しさがいっぱいのお話であります。ケースから抜け出していく、顔のある綿棒たちが描かれた表紙だけでも、わたしの気持ちをわしづかみにするのに十分でしたが、意表を突く展開を見せていくお話の面白さに大ウケして、いっぺんでどハマりしてしまいました。読み終わったあともまた本を開き、ニヤニヤしつつ読むことを繰り返したりしております。いやほんと、こういうすごくシュールでちょっとヘンテコなテイスト、好き過ぎですよわたしは。
一本一本に無表情な顔が描かれた綿棒が、夜の闇の中でゾロゾロと動き出していく絵面は、見ようによってはちょいとブキミにも思えてしまいそう。ですが、そこにはどこか飄々とした愛嬌とユーモアが感じられて、みんな一緒になって目的の場所を目指す綿棒たちが、なんだか健気で愛おしく思えてくるのです。
そして、オドロキの展開を見せてくれたあとのラストには、とてもほっこりした気分を味わうことができました。動き出していく綿棒たちを、おっかなびっくりな感じで見ているネコがまた、いい脇役ぶりを見せてくれております。
ユニークな感性あふれるこの『めんぼうズ』によって、はじめてその存在を知ることになった、作者のかねこまきさん。本書に記されているプロフィールによれば、絵画教室で美術を教えるかたわら、ご自身も絵本の創作を学び、2019年に『ちゃのまのおざぶとん』(アリス館)で絵本作家としてデビュー。本作『めんぼうズ』は2作目の絵本だそうで、2016年から制作している彫刻作品を絵本として展開させたもの、とのこと。本書のカバー袖には、その彫刻版「めんぼうズ」の写真も載っております。なかなか、面白いことをなさっておられる方のようであります。
絵本デビュー作である『ちゃのまのおざぶとん』もなんだか面白そう。今後の活躍にも注目したくなる作家さんであります。
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