『チャック全開! チャック・ノリス「最強」伝説』
チャック・ノリス著、柳亨英訳、新潮社、2013年(原書は2009年)
映画『地獄のヒーロー』シリーズ(1984~1995年)や『デルタ・フォース』(1986年)、テレビシリーズ『炎のテキサス・レンジャー』(1993~2001年)など、数々の娯楽アクションもので人気を博した俳優、チャック・ノリス。自分の流派を率いる武道家でもあり、社会事業家としての顔も持っています。
そのチャックがスクリーンに登場しなくなっていた2005年頃から、ネット上にて盛り上がりを見せているのが「チャック・ノリス・ファクト」。チャックの強さやタフガイぶりを、誇張した表現でネタにし、ジョークに仕立て上げたものです。わたくしはツイッターにてそれら「ファクト」の存在を知り、あたかも後頭部にチャックの回し蹴りを食らったかのような笑撃を受けました。
世界中から続々と寄せられているというそれら「ファクト」から、チャック本人がお気に入りという101本を選び、それぞれに短いエッセイを付したチャック公認の傑作「ファクト」集が、本書であります。
本書に収められた破壊力バツグンの「ファクト」は、例えばこんな感じ。
チャック・ノリスはコブラに噛まれ、5日間苦しんだ末••••••コブラが死んだ。
(コレ、チャックが久々にスクリーンに復帰した、スタローンやシュワルツェネッガー他との共演作『エクスペンダブルズ2』でのチャック登場シーンで使用されたとか)
チャック・ノリスは自分自身が素手で建てた丸太小屋で生まれた。
ダイナマイトはもともと消化不良を治すために、チャック・ノリスが開発した。
アインシュタインの相対性理論によると、チャック・ノリスは昨日のあなたに回し蹴りができる。
•••とまあ、どれをとっても「んなアホな(笑)」と言いたくなるような奇想天外な誇張っぷり。あらためて、「ファクト」一つ一つの面白さに大笑いしつつ、そのバカバカしいまでの発想力にほとほと感心したのであります。
加えてこの書名ですよ、『チャック全開!』。初めて見かけたときには書名だけで笑いの発作を抑えられませんでした。『The Official Chuck Norris Fact Book』というごくごく普通の書名がついている原書の日本語版に、こういう書名をつけた新潮社、やるのう。
破壊力バツグンの「ファクト」に比して、それらに付されているエッセイはとても生真面目。これまで歩んできた人生や、撮影における印象的なエピソードなどが語られていきます。
出演作や「ファクト」の中では、強くて超人的なキャラクターが定着しているチャックも、かつては人前で話すことが苦手で、格闘技の試験のときには緊張からしくじったりもしていた、ごく普通の人間だったといいます。しかし、彼は少しずつ自らの殻を破りながら成長していき、成功をおさめていったのです。
その原動力となったのが、前向きな人生観と向上心。チャックが「人生の指針」にしているという12のルールにも、それが雄弁に現れています。このうちのいくつかが実にいいのですよ、ほんと。
3 私は常に前向きな気持ちでいる。そして会う人すべてにこの気持ちを伝える。
5 全ての人の良い面を見つけ、価値ある存在であるよう気づかせるようにする。
7 自分自身を向上させるためにほとんどの時間を費やすので、他人を批判する時間などはない(人の悪口や批判は言わない)。
12 常に目的意識を持って人生を貫くことを誓う。なぜならそのような前向きな態度が私の家族、国家、そして私自身を助けるからだ。
実にシンプルにして力強い指針の数々は、チャックのような「超人」のみならず、われわれにとっても大いに力になるようなものではないか、と思いましたね。
そんな人生観や、これまで歩んできた生き方から導き出されたことばにも、いいものがいろいろありました。2つだけ引いておきます。
「人は自分をよりよくするための努力を怠ってはならないし、その成果を社会に提供するべきだ」
「格闘家として、不可能な事態や、より大きな相手と戦うためには内なる強さも鍛えなければならないと気づいた。(中略)だが、人生においては、引き下がることを学ぶのが最大の助けになるのかもしれない。争いを避けることが最大の強さになるだろう」
本書には、「国を愛し、神を信じる、ひとりの保守派のアメリカ人」(「訳者あとがき」より)としての意見表明も散見されていて、それらには共感・賛同できることもあれば、できないこともあります。ですが、チャックから学ぶべき最大のポイントは、やはり前向きで向上心に溢れた姿勢なのではないか、とつくづく思います。
奇想天外、抱腹絶倒な「ファクト」の数々と、チャックの前向きな人生観で、読んだこちらの元気も「全開!」になった一冊でありました。
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