毎年夏休みシーズンに、NHKラジオ第1で放送されている名物番組「夏休み子ども科学電話相談」。
子どもたちから電話で寄せられる、科学にまつわるさまざまな疑問質問に、各界の専門家の方々が答えていくというこの番組。オトナ顔負けの鋭い質問を発してくる子どもたちと、四苦八苦しつつもなんとかわかりやすく答えようとする専門家とのやりとりが実に面白く、子どもたちはもとよりオトナにも、根強いファンがおられます。最近は仕事の都合で思うように聴けないのですが、わたしも大好きな番組であります。
今シーズンも7月24日から放送が始まりましたが(番組サイトはこちらです。ちなみに高校野球の期間はお休みです)、それを前に番組ファンには見逃せない本が2冊、新書として刊行されました。今回はその2冊をまとめてご紹介することにいたしましょう。
『大人もおどろく「夏休み子ども科学電話相談」 鋭い質問、かわいい疑問、難問奇問に各界の個性あふれる専門家が回答!』
NHKラジオセンター「夏休み子ども科学電話相談」制作班編著、SBクリエイティブ(サイエンス・アイ新書)、2017年
昨年(2016年)のシーズンに番組に寄せられた数々の質問から50本を選び、番組中でのやりとりを抜粋、再現しながら補足コラムも加えて書籍化したのが『大人もおどろく「夏休み子ども科学電話相談」』であります。
「スイカは果物みたいなのにどうして野菜なのですか?」という質問における、野菜と果物の区分けについてのお話や、「ワニのしっぽは切れないのにトカゲのしっぽが切れるのはなぜ?」という質問に対して説明される、トカゲのしっぽが切れるメカニズムなどなど、わたしたちオトナも知らないようなお話の数々に、読みながら「そうだったのか!」の連続。
中には「空は、どの高さから空なのですか?」や「人の心はどこにあるのですか?」といった実に奥の深い質問もあったりして、子どもたちの着眼点の鋭さにあらためて感心させられたりいたします。
番組でのやりとりを再現した紙面から、回答者それぞれの人となりが生き生きと立ち上がってくるのも楽しいところです。
「雑草は、どうして次から次に生えてくるのですか?」の項における、番組ではお馴染みの植物学者・田中修先生の回答からは、飄々とした京都ことばでの語りっぷりが頭に浮かんで、読みながらカオがほころんでまいりました。
(田中先生)「栽培している植物は、人間がタネをまいたり、苗を植えたりしているの。でも、雑草がエライのは、自分でタネをまいてるところなの!タネもまかないのに次々と生えてくるのが不思議なんだよね?」
(質問した子ども)「はい」
(田中先生)「そやねぇ。雑草っていうのは、『も、の、す、ご、く』、たくさんのタネを作るの。そして、それを飛ばしたり、人にくっつけたりして撒き散らしてるのね」
また、「ハート形や星型のシャボン玉は作れないの?」という質問に回答した、法政大学教授の藤田貢崇先生。シャボン玉には、表面積を小さくしようとする「表面張力」が働くので、たとえハート形や星型の枠であっても球形にしかならない、という回答に、ちょっとガッカリした様子の質問者の子ども。そこで藤田先生は話題を変えて、洗濯のりや砂糖、ハチミツを混ぜることで丈夫なシャボン玉を作ることができることを教えるのです。
時には質問からさらに話題を広げて興味を掻き立てようとする、回答者の先生方の巧みな話の運びかたも、本書ではじっくりと味わうことができます。
テキストの形で再現された、専門家の方々のお話を読んで気づかされたのは、単に科学的な知識を説明するだけにとどまらず、科学的なものの見方と考え方とはどういうことなのかをしっかりと伝えている、ということでした。
本書に収められた質問中、おそらく最大の難問といえそうな「人の心はどこにあるのですか?」という質問に回答した脳科学者・篠原菊紀先生は、心がどこにあるのかということについてはさまざまな考え方がある、ということを説明したあと、このように話を結びます。
「科学って、だいたいわかんないことを、こうじゃない?って思って、こうだったらこうなるよねってやってみて、それで結果を出しての積み重ねなんです。ひとつのことだけで『そうだ!』って決められるわけじゃなくて・・・」
「いろんなことをやって、積み重ねて、だんだんわかってくるものだと思います」
わかっていることについてはハッキリと伝えつつも、まだよくわかっていないことについては一方的に決めつけることを避け、これからの研究と知見の積み重ねへと繋げていく・・・。そんな、科学的なものの考え方の大切さをしっかりと伝えているところも、この番組の優れているポイントなんだなあ、ということを認識した次第であります。
『カリスマ解説員の楽しい星空入門』
永田美絵著(写真=八板康麿、星座絵=矢吹浩)、筑摩書房(ちくま新書)、2017年
「夏休み子ども科学電話相談」でお馴染みの回答者のお一人が、天文・宇宙テーマを担当されている「コスモプラネタリウム渋谷」解説員の永田美絵さん。解説員のお仕事で培ったわかりやすい説明を、美しく優しげなお声でこなしておられる永田さんは子どもたちはもとより、大きなお友だち(笑)からの支持も厚いものがあるものと推察されます。・・・などと申している不肖ワタクシも、美絵さま(以下、謹んでこのように呼ばせていただきます)ファンの端くれなのであります。
その美絵さまがお出しになったばかりの新著が、今回ご紹介する2冊目『カリスマ解説員の楽しい星空入門』です。美絵さまファンとしては買って読まないワケにはいかないではございませぬか。
本書は、四季の夜空に輝くさまざまな星座を見つけるコツから、星座にまつわる神話や伝説、地球の家族である太陽系の惑星や小惑星、彗星についての基礎知識などを、星空観察の初心者に向けてわかりやすく解説していく一冊です。
たとえばちょうど今、夏の時期に見られる星座の1つが、こと座。毒蛇に噛まれて死んでしまい、黄泉の国から戻ることができなかった妻への切ない思いのあまり、川に身を投げて命を絶ったギリシャ神話の琴の名人・オルフェウスの持っていた琴が星になったということ座は、悲しくも美しい夫婦愛の物語をまとった星座です。また、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に描かれた、アルビレオという星を持つはくちょう座も、夏の星座です。
ロマンティックな物語を持つ星座がある一方で、やはり夏の星座であるやぎ座は形からしてパンツにそっくりな上、それにまつわる物語もとても愉快です。上半身が神様、下半身は山羊という姿の森の神様・パーンが開いたパーティーに呼ばれなかった荒くれ者の神様から殴り込みを受け、パニクった挙句に下半身は魚、上半身は山羊というけったいな姿に化けてしまい、それを面白がった他の神様たちの手で空に上げられてしまったのが、やぎ座なんだそうな(カワイソ)。ちなみに、「パニック」という言葉の語源も、そのパーンからきているのだとか。
夏を過ぎ、秋になると見ごろとなる月が、太陽と地球とのからみでどのように見えかたが違ってくるのか・・・というお話も、けっこう知らないことが多かったので、とても勉強になりました。
なかでも目からウロコだったのは、月の見かけの大きさと太陽の見かけの大きさはほとんど同じである、ということでした。月と太陽は大きさが400倍違ううえ、月までの距離と太陽までの距離もまた400倍違うという偶然により、双方の見かけの大きさはほとんど同じになるのだとか。・・・そうだったのかあ。
本書はこういった、さまざまな星座や星にまつわる物語や基礎知識を、まことに親しみやすい語り口で伝えてくれます。美恵さまの美しく優しげなお声を想像しつつ読むと、さらに雰囲気が高まること間違いなしでしょう。
さらには、美恵さまが日々活躍の場としているプラネタリウムをめぐる裏話も披露されています。矢印で星座の位置を示すポインターが点灯せず、窮余の策としてとんでもないモノをポインターの替わりにしたという愉快な失敗談もあれば、星によって繋がった解説員仲間や来館者との、心暖まるエピソードも。
本書を読んで、星空というのはとてつもないスケールの大きさと、人間の歴史をすっぽりと包み込んでしまう、悠久の時の流れによって成り立っている素晴らしいものであることを、あらためて認識することができました。
美恵さまはこのように語ります。
「宇宙を知れば知るほど、大きさ、星の多さに圧倒されます。私たちは天の川銀河の中の太陽系の中の第3惑星の中の小さな地球という星の中で、世界がわかったような気になって、泣いたり笑ったりしているのです。自分の人生を悲観したり思い通りにならないで怒ったり、まして小さな土地を取り合い、争いを起こしたりします。なんて小さなことなのでしょう」
そして、星空を見上げ、広大な宇宙に想いを馳せることの大切さを訴えます。
「星を見上げることは、大きな視点に気づかせてくれることでもあります。迷った時、悲しい時こそ前を向いて生きる希望が必要です。その時に助けてくれるのは計り知れない大きな世界です。だから人は星空を見上げなければいけないと私は思っています」
思えばわたしもずいぶん長いこと、星空を見上げるという行為から遠ざかっておりました。自分自身の、そして人間社会の狭い常識や視野に囚われないためにも、本書を手引きにしながら星空周遊してみたいと思います。
不思議なものごとに対する驚きと好奇心、そしてその不思議さを解明していこうという科学的な探究心は、子どもはもちろんのこと、われわれオトナにも必要なことでしょう。
ラジオ番組「夏休み子ども科学電話相談」とこの2冊の本で、科学することの楽しさ面白さを、子どもたちとともに味わっていだだけたら、と思います。
子どもたちから電話で寄せられる、科学にまつわるさまざまな疑問質問に、各界の専門家の方々が答えていくというこの番組。オトナ顔負けの鋭い質問を発してくる子どもたちと、四苦八苦しつつもなんとかわかりやすく答えようとする専門家とのやりとりが実に面白く、子どもたちはもとよりオトナにも、根強いファンがおられます。最近は仕事の都合で思うように聴けないのですが、わたしも大好きな番組であります。
今シーズンも7月24日から放送が始まりましたが(番組サイトはこちらです。ちなみに高校野球の期間はお休みです)、それを前に番組ファンには見逃せない本が2冊、新書として刊行されました。今回はその2冊をまとめてご紹介することにいたしましょう。
『大人もおどろく「夏休み子ども科学電話相談」 鋭い質問、かわいい疑問、難問奇問に各界の個性あふれる専門家が回答!』
NHKラジオセンター「夏休み子ども科学電話相談」制作班編著、SBクリエイティブ(サイエンス・アイ新書)、2017年
昨年(2016年)のシーズンに番組に寄せられた数々の質問から50本を選び、番組中でのやりとりを抜粋、再現しながら補足コラムも加えて書籍化したのが『大人もおどろく「夏休み子ども科学電話相談」』であります。
「スイカは果物みたいなのにどうして野菜なのですか?」という質問における、野菜と果物の区分けについてのお話や、「ワニのしっぽは切れないのにトカゲのしっぽが切れるのはなぜ?」という質問に対して説明される、トカゲのしっぽが切れるメカニズムなどなど、わたしたちオトナも知らないようなお話の数々に、読みながら「そうだったのか!」の連続。
中には「空は、どの高さから空なのですか?」や「人の心はどこにあるのですか?」といった実に奥の深い質問もあったりして、子どもたちの着眼点の鋭さにあらためて感心させられたりいたします。
番組でのやりとりを再現した紙面から、回答者それぞれの人となりが生き生きと立ち上がってくるのも楽しいところです。
「雑草は、どうして次から次に生えてくるのですか?」の項における、番組ではお馴染みの植物学者・田中修先生の回答からは、飄々とした京都ことばでの語りっぷりが頭に浮かんで、読みながらカオがほころんでまいりました。
(田中先生)「栽培している植物は、人間がタネをまいたり、苗を植えたりしているの。でも、雑草がエライのは、自分でタネをまいてるところなの!タネもまかないのに次々と生えてくるのが不思議なんだよね?」
(質問した子ども)「はい」
(田中先生)「そやねぇ。雑草っていうのは、『も、の、す、ご、く』、たくさんのタネを作るの。そして、それを飛ばしたり、人にくっつけたりして撒き散らしてるのね」
また、「ハート形や星型のシャボン玉は作れないの?」という質問に回答した、法政大学教授の藤田貢崇先生。シャボン玉には、表面積を小さくしようとする「表面張力」が働くので、たとえハート形や星型の枠であっても球形にしかならない、という回答に、ちょっとガッカリした様子の質問者の子ども。そこで藤田先生は話題を変えて、洗濯のりや砂糖、ハチミツを混ぜることで丈夫なシャボン玉を作ることができることを教えるのです。
時には質問からさらに話題を広げて興味を掻き立てようとする、回答者の先生方の巧みな話の運びかたも、本書ではじっくりと味わうことができます。
テキストの形で再現された、専門家の方々のお話を読んで気づかされたのは、単に科学的な知識を説明するだけにとどまらず、科学的なものの見方と考え方とはどういうことなのかをしっかりと伝えている、ということでした。
本書に収められた質問中、おそらく最大の難問といえそうな「人の心はどこにあるのですか?」という質問に回答した脳科学者・篠原菊紀先生は、心がどこにあるのかということについてはさまざまな考え方がある、ということを説明したあと、このように話を結びます。
「科学って、だいたいわかんないことを、こうじゃない?って思って、こうだったらこうなるよねってやってみて、それで結果を出しての積み重ねなんです。ひとつのことだけで『そうだ!』って決められるわけじゃなくて・・・」
「いろんなことをやって、積み重ねて、だんだんわかってくるものだと思います」
わかっていることについてはハッキリと伝えつつも、まだよくわかっていないことについては一方的に決めつけることを避け、これからの研究と知見の積み重ねへと繋げていく・・・。そんな、科学的なものの考え方の大切さをしっかりと伝えているところも、この番組の優れているポイントなんだなあ、ということを認識した次第であります。
『カリスマ解説員の楽しい星空入門』
永田美絵著(写真=八板康麿、星座絵=矢吹浩)、筑摩書房(ちくま新書)、2017年
「夏休み子ども科学電話相談」でお馴染みの回答者のお一人が、天文・宇宙テーマを担当されている「コスモプラネタリウム渋谷」解説員の永田美絵さん。解説員のお仕事で培ったわかりやすい説明を、美しく優しげなお声でこなしておられる永田さんは子どもたちはもとより、大きなお友だち(笑)からの支持も厚いものがあるものと推察されます。・・・などと申している不肖ワタクシも、美絵さま(以下、謹んでこのように呼ばせていただきます)ファンの端くれなのであります。
その美絵さまがお出しになったばかりの新著が、今回ご紹介する2冊目『カリスマ解説員の楽しい星空入門』です。美絵さまファンとしては買って読まないワケにはいかないではございませぬか。
本書は、四季の夜空に輝くさまざまな星座を見つけるコツから、星座にまつわる神話や伝説、地球の家族である太陽系の惑星や小惑星、彗星についての基礎知識などを、星空観察の初心者に向けてわかりやすく解説していく一冊です。
たとえばちょうど今、夏の時期に見られる星座の1つが、こと座。毒蛇に噛まれて死んでしまい、黄泉の国から戻ることができなかった妻への切ない思いのあまり、川に身を投げて命を絶ったギリシャ神話の琴の名人・オルフェウスの持っていた琴が星になったということ座は、悲しくも美しい夫婦愛の物語をまとった星座です。また、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に描かれた、アルビレオという星を持つはくちょう座も、夏の星座です。
ロマンティックな物語を持つ星座がある一方で、やはり夏の星座であるやぎ座は形からしてパンツにそっくりな上、それにまつわる物語もとても愉快です。上半身が神様、下半身は山羊という姿の森の神様・パーンが開いたパーティーに呼ばれなかった荒くれ者の神様から殴り込みを受け、パニクった挙句に下半身は魚、上半身は山羊というけったいな姿に化けてしまい、それを面白がった他の神様たちの手で空に上げられてしまったのが、やぎ座なんだそうな(カワイソ)。ちなみに、「パニック」という言葉の語源も、そのパーンからきているのだとか。
夏を過ぎ、秋になると見ごろとなる月が、太陽と地球とのからみでどのように見えかたが違ってくるのか・・・というお話も、けっこう知らないことが多かったので、とても勉強になりました。
なかでも目からウロコだったのは、月の見かけの大きさと太陽の見かけの大きさはほとんど同じである、ということでした。月と太陽は大きさが400倍違ううえ、月までの距離と太陽までの距離もまた400倍違うという偶然により、双方の見かけの大きさはほとんど同じになるのだとか。・・・そうだったのかあ。
本書はこういった、さまざまな星座や星にまつわる物語や基礎知識を、まことに親しみやすい語り口で伝えてくれます。美恵さまの美しく優しげなお声を想像しつつ読むと、さらに雰囲気が高まること間違いなしでしょう。
さらには、美恵さまが日々活躍の場としているプラネタリウムをめぐる裏話も披露されています。矢印で星座の位置を示すポインターが点灯せず、窮余の策としてとんでもないモノをポインターの替わりにしたという愉快な失敗談もあれば、星によって繋がった解説員仲間や来館者との、心暖まるエピソードも。
本書を読んで、星空というのはとてつもないスケールの大きさと、人間の歴史をすっぽりと包み込んでしまう、悠久の時の流れによって成り立っている素晴らしいものであることを、あらためて認識することができました。
美恵さまはこのように語ります。
「宇宙を知れば知るほど、大きさ、星の多さに圧倒されます。私たちは天の川銀河の中の太陽系の中の第3惑星の中の小さな地球という星の中で、世界がわかったような気になって、泣いたり笑ったりしているのです。自分の人生を悲観したり思い通りにならないで怒ったり、まして小さな土地を取り合い、争いを起こしたりします。なんて小さなことなのでしょう」
そして、星空を見上げ、広大な宇宙に想いを馳せることの大切さを訴えます。
「星を見上げることは、大きな視点に気づかせてくれることでもあります。迷った時、悲しい時こそ前を向いて生きる希望が必要です。その時に助けてくれるのは計り知れない大きな世界です。だから人は星空を見上げなければいけないと私は思っています」
思えばわたしもずいぶん長いこと、星空を見上げるという行為から遠ざかっておりました。自分自身の、そして人間社会の狭い常識や視野に囚われないためにも、本書を手引きにしながら星空周遊してみたいと思います。
不思議なものごとに対する驚きと好奇心、そしてその不思議さを解明していこうという科学的な探究心は、子どもはもちろんのこと、われわれオトナにも必要なことでしょう。
ラジオ番組「夏休み子ども科学電話相談」とこの2冊の本で、科学することの楽しさ面白さを、子どもたちとともに味わっていだだけたら、と思います。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます