物語絵本から科学・知識絵本、さらには日本の伝統を題材にしたものなど、600点を超える多彩な作品を生み出してこられた、絵本作家の加古里子(かこさとし)さんが、5月2日に逝去されました。
享年92歳。天寿をまっとうした、ともいえるご年齢ですが、今年の1月には代表作である「だるまちゃん」シリーズの最新作を一挙3冊も刊行するなど、晩年に至っても旺盛な創作活動をなさっておられただけに、その訃報には驚かされました。まだまだやりたいことがあったであろうことを思えば、誰よりもご本人こそ無念だったのではないでしょうか。
子どもの時は絵本をほとんど読まないまま育ち(図鑑はよく読んでいたのですが)、大人になってから、それもわりと最近になって絵本に親しむようになったわたし。恥ずかしながら加古さんの絵本にも、代表作を含めて読んでいなかった作品が数多くありました。
そこで、訃報が流れた5月7日、勤務先である書店の在庫分から3冊選び、買って帰って読みました。絵本好きな方、加古さんの作品を愛読してこられた方から見れば、「何をいまさら」な感があろうかとは思いますが、今回はその3冊を取り上げることにしたいと思います。
『だるまちゃんとかみなりちゃん』
加古里子さく・え、福音館書店(こどものとも絵本)、1968年
雨の日。外に出ようとした「だるまちゃん」の目の前に、変な丸いものとともに「かみなりちゃん」が落ちてきます。木に引っかかった丸いものを取ろうと奮闘するだるまちゃん。それがきっかけで、かみなりちゃんと仲良くなっただるまちゃんは、かみなりちゃんの住む街へと連れて行ってもらうことに・・・。
加古さんの代表作である「かみなりちゃん」シリーズの第2作目です。本作でまことに愉快だったのが、かみなりちゃんたちの住む「かみなりまち」の描写でした。
エネルギー放電塔やユニークな形のビルが立ち並ぶ街中には、アンテナが伸びる雲型自動車(?)が行き交っていたり、家の中にはごちそうをテーブルへと運ぶベルトコンベアーがあったり・・・。それらは、かつてさまざまな形で空想されていた「夢の未来世界」を思い起こさせてくれるものがありました。
それでいて、パラソルや街灯、テレビ、食器などのいろいろなモノに、かみなりちゃんたちの角と同じ2本の突起がつけられているというのにも、なんだかニンマリさせられました。
『はははのはなし』
加古里子ぶん・え、福音館書店(かがくのとも絵本)、1972年
「歯」にはどんな役割があるのか。虫歯はどうしてできるのか。そしてどうすれば虫歯を防ぐことができるのか・・・。そんな「歯」にまつわる知識を説いていく科学絵本です。
「歯」でしっかりと食べものを噛むことで体に栄養が行き渡り、それが体を丈夫にし、ひいては生きることを楽しいものにしてくれるのだ・・・という、オトナもついつい、ないがしろにしがちな「歯」についての大切な知見を、楽しみながら理解することができる一冊でした。
ああ、子どもの頃にこの絵本に出会っていたら、もっと歯を大切にしていたことだろうなあ・・・昨年、前歯を1本失ってしまい、ブリッジを取り付ける治療を受けたわたしは、つくづくそう思うばかりでありました。
『からすのパンやさん』
かこさとし作・絵、偕成社(かこさとし おはなしのほん)、1973年
からすたちの住む「いずみがもり」でパン屋を営むからすの夫妻。そこに生まれた4羽の赤ちゃんからすの世話に手を取られ、お店は傾き始めるが、赤ちゃんたちに与えていた「おやつパン」をからすの子どもたちが欲しがったので、一家総出で美味しいパンや変わった形のパンをたくさん焼くことに。すると、森の中にいたからすたちが一斉にパン屋めがけて殺到し、大騒動が巻き起こる・・・。
こちらもまた、加古さんの代表作であるロングセラー絵本です。お話自体、実に楽しくて痛快なのですが、主人公のからす夫妻と4羽の赤ちゃんからすはもちろんのこと、大挙してパン屋に押しかけるモブキャラのからすたちに至るまで、登場するからすたちのキャラクターが一羽一羽、個性豊かに描きわけられているのが、また見事でした。たくさんのからすたちが画面を埋め、一気に突き進んでいく後半の展開にはダイナミズムがあり、ちょっとした高揚感すら覚えました。
ペンギンパン、きょうりゅうパン、かみなりパン、バイオリンパンなどなど、変わった形のパンがいっぱい描かれた見開きの場面も、まことに愉快でした。
3冊とも、わたしが生まれた1969年前後に刊行された超ロングセラー。にもかかわらず、これまでキチンとした形で読むことがないままでした。もっと早く読んでおけばよかった・・・と激しく後悔するくらい、いずれも楽しい作品ばかりでした。
これら3冊に共通して感じられたのは、健全でおおらかなユーモア感覚でした。加古さんのお人柄の反映ともいえる、このユーモア感覚があったからこそ、加古さんの絵本は長きにわたり、多くの人たちに愛され続けてきたのでしょう。
おおらかなユーモアと、工学畑で培われた科学の知見が盛り込まれている加古さんの作品は、これからも世代を超えて、さらに多くの人たちに愛され、読まれ続けていくに違いありません。
そしてわたしも、まだ読んでいなかった多くの加古作品を一冊一冊、楽しみながら読んでいきたいと思っております。そう、お楽しみはまだまだこれから、なのです。
NHKのテレビ番組『プロフェッショナル 仕事の流儀』は、亡くなる少し前の3月に加古さんを密着取材していたとか。その放送も、心待ちにしたいと思います。
加古里子さん、長いあいだ本当に、お疲れ様でした。そして、素敵な遺産たる作品をたくさん遺してくださり、ありがとうございます。
享年92歳。天寿をまっとうした、ともいえるご年齢ですが、今年の1月には代表作である「だるまちゃん」シリーズの最新作を一挙3冊も刊行するなど、晩年に至っても旺盛な創作活動をなさっておられただけに、その訃報には驚かされました。まだまだやりたいことがあったであろうことを思えば、誰よりもご本人こそ無念だったのではないでしょうか。
子どもの時は絵本をほとんど読まないまま育ち(図鑑はよく読んでいたのですが)、大人になってから、それもわりと最近になって絵本に親しむようになったわたし。恥ずかしながら加古さんの絵本にも、代表作を含めて読んでいなかった作品が数多くありました。
そこで、訃報が流れた5月7日、勤務先である書店の在庫分から3冊選び、買って帰って読みました。絵本好きな方、加古さんの作品を愛読してこられた方から見れば、「何をいまさら」な感があろうかとは思いますが、今回はその3冊を取り上げることにしたいと思います。
『だるまちゃんとかみなりちゃん』
加古里子さく・え、福音館書店(こどものとも絵本)、1968年
雨の日。外に出ようとした「だるまちゃん」の目の前に、変な丸いものとともに「かみなりちゃん」が落ちてきます。木に引っかかった丸いものを取ろうと奮闘するだるまちゃん。それがきっかけで、かみなりちゃんと仲良くなっただるまちゃんは、かみなりちゃんの住む街へと連れて行ってもらうことに・・・。
加古さんの代表作である「かみなりちゃん」シリーズの第2作目です。本作でまことに愉快だったのが、かみなりちゃんたちの住む「かみなりまち」の描写でした。
エネルギー放電塔やユニークな形のビルが立ち並ぶ街中には、アンテナが伸びる雲型自動車(?)が行き交っていたり、家の中にはごちそうをテーブルへと運ぶベルトコンベアーがあったり・・・。それらは、かつてさまざまな形で空想されていた「夢の未来世界」を思い起こさせてくれるものがありました。
それでいて、パラソルや街灯、テレビ、食器などのいろいろなモノに、かみなりちゃんたちの角と同じ2本の突起がつけられているというのにも、なんだかニンマリさせられました。
『はははのはなし』
加古里子ぶん・え、福音館書店(かがくのとも絵本)、1972年
「歯」にはどんな役割があるのか。虫歯はどうしてできるのか。そしてどうすれば虫歯を防ぐことができるのか・・・。そんな「歯」にまつわる知識を説いていく科学絵本です。
「歯」でしっかりと食べものを噛むことで体に栄養が行き渡り、それが体を丈夫にし、ひいては生きることを楽しいものにしてくれるのだ・・・という、オトナもついつい、ないがしろにしがちな「歯」についての大切な知見を、楽しみながら理解することができる一冊でした。
ああ、子どもの頃にこの絵本に出会っていたら、もっと歯を大切にしていたことだろうなあ・・・昨年、前歯を1本失ってしまい、ブリッジを取り付ける治療を受けたわたしは、つくづくそう思うばかりでありました。
『からすのパンやさん』
かこさとし作・絵、偕成社(かこさとし おはなしのほん)、1973年
からすたちの住む「いずみがもり」でパン屋を営むからすの夫妻。そこに生まれた4羽の赤ちゃんからすの世話に手を取られ、お店は傾き始めるが、赤ちゃんたちに与えていた「おやつパン」をからすの子どもたちが欲しがったので、一家総出で美味しいパンや変わった形のパンをたくさん焼くことに。すると、森の中にいたからすたちが一斉にパン屋めがけて殺到し、大騒動が巻き起こる・・・。
こちらもまた、加古さんの代表作であるロングセラー絵本です。お話自体、実に楽しくて痛快なのですが、主人公のからす夫妻と4羽の赤ちゃんからすはもちろんのこと、大挙してパン屋に押しかけるモブキャラのからすたちに至るまで、登場するからすたちのキャラクターが一羽一羽、個性豊かに描きわけられているのが、また見事でした。たくさんのからすたちが画面を埋め、一気に突き進んでいく後半の展開にはダイナミズムがあり、ちょっとした高揚感すら覚えました。
ペンギンパン、きょうりゅうパン、かみなりパン、バイオリンパンなどなど、変わった形のパンがいっぱい描かれた見開きの場面も、まことに愉快でした。
3冊とも、わたしが生まれた1969年前後に刊行された超ロングセラー。にもかかわらず、これまでキチンとした形で読むことがないままでした。もっと早く読んでおけばよかった・・・と激しく後悔するくらい、いずれも楽しい作品ばかりでした。
これら3冊に共通して感じられたのは、健全でおおらかなユーモア感覚でした。加古さんのお人柄の反映ともいえる、このユーモア感覚があったからこそ、加古さんの絵本は長きにわたり、多くの人たちに愛され続けてきたのでしょう。
おおらかなユーモアと、工学畑で培われた科学の知見が盛り込まれている加古さんの作品は、これからも世代を超えて、さらに多くの人たちに愛され、読まれ続けていくに違いありません。
そしてわたしも、まだ読んでいなかった多くの加古作品を一冊一冊、楽しみながら読んでいきたいと思っております。そう、お楽しみはまだまだこれから、なのです。
NHKのテレビ番組『プロフェッショナル 仕事の流儀』は、亡くなる少し前の3月に加古さんを密着取材していたとか。その放送も、心待ちにしたいと思います。
加古里子さん、長いあいだ本当に、お疲れ様でした。そして、素敵な遺産たる作品をたくさん遺してくださり、ありがとうございます。
本当にびっくりしました。まだまだご存命だと思っていたのですが。
からすのパンやさんや、だるまちゃんシリーズ、手元にある絵本をひもときながら、もう新作を見る事はないのだと思っています。
それにしても閑古堂さんが取り上げるとは・・・なんだかすごく嬉しいです♪
亡くなったこと自体は悲しく寂しいことなのですが、遺されたたくさんの作品はこれからも末永く読み継がれていくであろうと考えると、ささやかながら希望を感じるところもあるんですよね。
わたしもこれからもっと、加古さんが遺してくださった作品をいろいろ読んで、新たな発見ができることを楽しみにしたいと思っております!