天声人語 【昭和62年】
『平凡』廃刊 1987(昭和62)年 9・28
ひところは大衆娯楽雑誌の世界に君臨していた月刊誌『平凡』と『週刊平凡』が廃刊になる。
萩本欣一が「悲しいよ、悔しいよ」といっている。
欣ちゃんはこの雑誌を読み、芸能人を身近に感じ、自分でもやれると思うようになってこの世界に入った。
敗戦の年に誕生した『平凡』はたちまち百万部を超えた。
7S、つまりスター、スクリーン、ステージ、ソング、スポーツ、セックスを扱って売れた。
一九五九(昭和三十四年)に生まれた「週刊平凡」は7Sに1Tを加えた。
テレビである。
当時テレビは急成長期にあった。五十九年の普及率は一割強だが、六十五年には八割を超える。
テレビの急成長は次々に人気ものを生み、人気ものを追った「週刊平凡」もまた、急成長した。
この雑誌のおもしろさは異種交配にあった。
第一号の表紙はテレビ界の高橋圭三と映画界の団礼子との組み合わせだ。
以後、三島由紀夫と雪村いづみ、浅沼稲次郎と若尾文子、長嶋茂雄と北原三枝、という組み合わせが表紙を飾った。
七〇年代以降、雑誌の極端な細分化、専門化がはじまり、『週刊平凡』は芸能雑誌化する。
だが、ちまたに芸能情報や暴露記事があふれ、両『平凡』は次第に存立の基盤をゆすぶられる。
それにしても「平凡」というすばらしい表題が出版界から消えるのはさびしい。
雑誌は生きもの時代の子、だという。
人びとは、強烈に自分自身であることを求める時代に入ったのだろうか。
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