入管、政治や経済に目配せ「同じように助けて」
「東京新聞」2022年3月20日
ロシアの侵攻を受けたウクライナからの避難民について、日本政府が受け入れに積極姿勢を示している。支援に手を挙げる地方自治体も相次ぐ。難民認定者数が極めて少なく、「冷たい」と言われてきた日本。人道主義に覚醒し、困窮する外国人に分け隔てなく門戸を広げる国に変身した? いや、ウクライナ以外の国への対応に目をやると、答えは「イエス」ではなさそうだ。(北川成史)
◆就労可能な1年間の「特定活動」認める
ロシアのウクライナ侵攻から6日後の2日、岸田文雄首相は記者団に「ウクライナの人々との連帯を示す」と強調し、避難民の受け入れを表明した。
1日5000人というコロナ禍対応の入国者数制限からも除外。「日本に親族や知人がいる人の受け入れを想定しているが、それにとどまらず人道的な観点から対応する」と語った。
この方針のもと、出入国在留管理庁(入管庁)によると、2日以降15日までにウクライナの避難民57人が入国した。
避難民らの入国時の在留資格は基本的に、旅行者と同様、90日間の「短期滞在」の在留資格になる。古川禎久法相は15日の記者会見で、短期滞在から就労可能な1年間の「特定活動」への変更を認めると、追加のサポートを発表した。
国の動きを受け、全国の自治体が次々、協力姿勢を見せた。首都圏では神奈川や茨城が県営住宅、横浜が市営住宅を提供する方針を表した。水戸市は市長自ら庁舎にウクライナ国旗を掲揚。人道支援の募金も始めた。神奈川や横浜はウクライナの州や市と友好関係を持つが、同国と特段の縁がない自治体も名を連ねた。
◆ミャンマー人には制約も
ただ、海外で紛争や弾圧がある度に、国や自治体が今回のウクライナ侵攻と同じ素早さと手厚さで対応しているわけではない。
例えば、昨年2月1日に軍事クーデターが起きたミャンマー。政府は約4カ月たった5月末、母国の情勢不安のため日本に残りたい在日ミャンマー人に「特定活動」の在留資格を与える緊急避難措置を導入した。
入管庁によると、今年2月末までに約4500件の申請があり、約4300件が措置の対象になった。
表面上の数字は、ミャンマー人の滞在に寛容にも見えるが「1年間でフルタイムの就労可」のウクライナ人と比べ、制約が多い。
まず、在留期間は、特例的に1年のケースもあるが、6カ月が基本だ。就労時間に週28時間の上限が設けられる人もいる。
入管庁の担当者は「両国を比較して検討したわけではない」としつつも、ミャンマー人の中に、技能実習や留学の資格で入国後、就労制限なく長期滞在できる「難民」の認定を受けようとする人たちがいる点を制約の理由に挙げる。
つまり、在留の根拠が微妙な人たちが、緊急措置に乗っかり、格段に条件のよい在留資格を得ないようにする対策というわけだ。
人道的配慮をアピールしつつ、腹の底ではミャンマー人に疑いの目を向けるいやらしさが漂う。
◆ウクライナ支援は一種の「ブーム」か
クーデター後、自治体レベルでミャンマー人支援の広がりはない。先述のウクライナ支援をする首都圏の自治体も、ミャンマー人向けの施策は講じていない。
水戸市の担当者はウクライナ支援について「市長が音頭を取り、市を挙げて活動すべきだという方向性になった」と「トップダウン」をにおわせる。
確固たる人道上の信念に基づく支援というより、全体の流れに合わせた一種のブームなのではないか。
◆「ミャンマーの国民も苦しんでいる」
ミャンマー現地の人権団体「政治犯支援協会」によると、クーデターから18日までに1700人近くが国軍に殺害された。国連難民高等弁務官事務所によると、1日現在で50万人超が国内避難民となり、約5万人が隣国に逃げている。国連人権理事会が設置した独立調査機関は2月1日、国軍の市民への弾圧が「人道に対する罪や戦争犯罪に相当する可能性がある」とする声明を発表した。
隣国に侵攻されたウクライナと違いはあるが、深刻な人権侵害が起きている。だが、クーデター後の避難民を受け入れる特別な仕組みは日本にない。
「ミャンマーの国民も苦しんでいる。ウクライナの人と同じように受け入れてほしい」。関東地方の40代のミャンマー人女性は、切実な胸中を吐露する。
ミャンマーには高齢の親を含む家族がいる。家族はクーデターへの抗議活動に加わったため、転居しながら、国軍の弾圧を避けている。安全な日本に来たがっているが、在留資格を得られないため、叶わない。
女性は在日ミャンマー人の仲間と日本で抗議活動をしている。「自分の活動で母国の家族が逮捕や拷問をされないか、私たちはぎりぎりの思いで闘っている」
緊急避難措置では、在日ミャンマー人の難民認定申請者について、迅速に審査し、難民と認められなくても、特定活動の在留資格を与えるとの規定もある。
◆「緊急避難措置」でも8割が難民認定されず
入管庁によるとクーデター後、11月末までにミャンマー人16人が難民認定された。だが、措置導入後約10カ月たっても、中ぶらりんの人が多くいる。
「緊急とは名ばかりで、遅々としている」。全国難民弁護団連絡会議代表の渡辺彰悟弁護士は批判する。渡辺氏が関わるミャンマー人の難民認定申請者165人のうち、約8割の129人に結論が出ていない。結果が出た36人も、難民認定は1家族5人のみ。残りは特定活動だった。
結論が出ていない東京都内の女性(38)は14年間にわたり、入管施設収容を一時的に免れる「仮放免」の扱いだ。就労はできず、生活費は友人らに頼る。
女性は国軍との内戦が続く少数民族カチン人。2006年以降、4回の難民認定申請をしている。認定を求めて提訴し、20年に地裁で勝ったが、高裁で覆り、不安定な立場のままだ。
「緊急避難措置で在留資格を得られると思ったが、入管から連絡がなく、がっかりする毎日」と漏らす。
◆背景に入管の政治的思惑が
渡辺氏は「入管が政治や経済に目を向けている」と根本的な問題を指摘する。
冷戦時代の仮想敵で、北方領土を争うロシアに対しては、日本はウクライナ人保護を含め、欧米と共同歩調で対峙しやすい。
一方、ミャンマーには日本は累計117億ドル(約1兆4000億円)の政府開発援助(ODA)を支出。11年の民政移管後は「アジア最後のフロンティア」と官民こぞって進出を図った。関係が悪化し、権益をライバル中国に譲りたくないという思惑が政財界にある。
さらに日本はクーデター後、ミャンマーには、対ロシアのような制裁を科していない。軍政にも配慮する姿勢がミャンマー人の処遇に跳ね返るという構図だ。
1990年代まで使われた入管職員の教材には、非友好国と比べ、友好国出身者の難民認定は、相手国との関係から慎重になり得るとの記述があった。差別的な意識は「変わっていない」と渡辺氏は厳しくみる。
実際、日本国内の難民支援団体によると、日本が「友好国」のトルコ出身のクルド人を難民認定した例はない。2020年の認定総数は47人。年1万人以上の欧米の国々と格段の開きがある。
助けを求める人々に対して、格差のある扱い。渡辺氏は「ミャンマーやウクライナの問題を機に見直すべきだ」と訴える。
「人道」「人道」というが、戦争がその極みにあるのは言うに及ばずであるが、その前の小さな「人道」を大切にすることが戦争を回避させるのではないだろうか?
明日には、外に出られるかな(近くですが)
と思います。
人助けをするにも、損得を考えているなんて、さもしい気がします。
日本はもっとやさしい国になってほしいですね。
他国の顔色を伺って自主的外交がなされていない。しかし、ここで「自主外交」をやられると、またとんでもないことになってしまいます。今の「移民」政策がまともなものではないからです。