森はセラピスト!
冷たい朝だ・・・
吹く風に思わずエリ元を合せ、今年初の手袋をする。
箕面大滝前から杉の茶屋に来ると、その前の野生植物園では
もう箕面自然観察会の皆さんが作業をされている・・・
今日はシカ除け網の整備をされるのだそうだ。
箕面川沿いを歩き箕面ビジターセンターに着くと、今日は
「政の茶屋園地・自然観察ツアー」で、
丁度 所長が10数人の方々と共に出発するところだった。
野鳥に興味深々といった元気な子供さんもいて、
その楽しそうな姿につい微笑む。
一休みして自然3号路から天上ヶ岳へ向かう。
途中で急に空が暗くなり、アラレ交じりの小雨が降ってきた・・・
この天候が悪化するのか否かは予想がつかない?
今日の行程と装備、体調など考え、いったん退くことにする。
途中から別の3号路に入り下っていると・・・
何と! 太陽が顔をだし、森の中が一気に明るくなる・・・
雨に濡れた照葉樹林がいっせいに光を反射して眩しく、
キラキラと輝いている。
見上げれば青空が・・・
さてこれからどうしようか! と思いながらも一休みにする。
しばらくするとまた厚い雲に覆われた・・・
あっという間に暗い森に変り、また小雨が枯れ葉を鳴らす。
間もなくして50代ぐらいの男性ハイカーが通りかかり、
挨拶すると話しかけてこられた・・・
* 今日はおかしな天気だんな~ こんな日は迷いますわ!
山の中は予報もアテになりまへんわ~
それにしても不景気だんな~
お天気の話しから急に景気の話しになった。
* この前のTVで 「相棒」 ちゅうの見はりましたか?
水谷 豊のですわ・・・
あれ息子の話かと思いましたわ~
たまたま見ていたのでその旨を話したが・・・
世情に抗議し、殺人に見せかけ自死した若者で、
その悲哀は今の不景気と、その非情さとを訴えていた。
* ほんまえらい世の中でっせ!
ウチの息子もあれと同い年でハケンやってたんやけど、
1年前に切られましてな~
いつも頑張って仕事探してまんねんけどありまへんねん。
恋人もおったけど、そんなんで逃げられましてな~
それにワシももう2年前から定職ありまへんねん。
もう家の中 ムチャクチャですわ!
アルバイトして何とか食いつないでますわ~
ハハハハハ・・・
その淋しそうな笑い声が腹に響く・・・
* すんまへん! 見ず知らずの人にグチ言うてしもうて~
しやけど山の中はほんまよろしわ・・・
悩みも迷いも、怒りもグチも文句も、みんな吸収して
くれまんねん!
ワシの心の吸い取り紙ですわ~ ハハハハ
癒しちゅうか?
ワシの生きてく為の充電器みたいなもんだんな~
しやさかい週一回は山歩いて充電せんと
首吊ってしまいそうですわ。
いつも歩いて歩いて、山の霊気ちゅうもんもろうて、
そんでまた頑張ろうちゅう気になって山下りまんねん~
山歩きが生きる糧という、その切実さが伝わってくる・・・
* すんまへん! しょうもない話し聞かせてしもうて~
せやけどお陰で今日もまた元気もらいましたわ!
おおきに! 頑張りますわ! ほなお先に・・・
僅か10分足らずの事だったが、森の癒しも勿論だけど
その鬱憤を人に話すことで気が晴れたに違いない。
その時、杉木立の間から再び太陽が林床を照らし始め、
下ってゆく先ほどの人の頭上と山道を明るく輝かせている。
その前途には明るい兆しが・・・?
来年はいい年でありますように・・・
山や森が何でも吸収してくれる癒しの場であり、
生きる望みを与えてくれているとは・・・
あの人の心からの体験談には重みがあった。
「自然は全ての病を癒す」 とは、
古代ギリシャの医学者・ヒポクラテスの言葉だそうだが・・・
先年、上原 巌著 「森林療法序説」 始め、森林療法の本を
いろいろ読んだ時期があった。
まだお元気だった頃の作家・立松和平氏や阪大教授、
林野庁専門官や写真家の今森光彦氏らの 「森林の癒し」
テーマのシンポジュームに参加したこともあった。
そこで森林セラピーの科学的な実証、効果などを知り、
自分自身の実体験と併せ、よく理解し納得できたものだ。
最近は箕面にもその森林セラピーの研究会が出来ると
聞いたが、喜ばしいことで期待したい。
目の前の幹にアカゲラが一羽やってきて、軽快なドラミングを
始めた・・・
ボクは腰をあげ、再び木漏れ日の差し込む森の陽だまりに
場所を移し、しばしそのセラピーに浸った・・・
今日は予定を変更し、これにて大満足だ。