みのおの森の小さな物語 (創作ものがたり)
NO-24
悠久の伊之助 止々呂美村へ (2)
白いフワフワの群れの中から、ひときわ体の大きなフワフワが
猪之助の前に出た。
「こんばんわ! 貴方をお待ちしておりました 私は昨日の朝
ここで貴方に助けられた子供の父親です
その節は本当にありがとうございました
つきましては ささやかではございますが お礼をさせて頂きたく
存じます・・・」
「あれ? フワフワが喋った! このタヌキ野郎が・・・ 違うの?
それにお礼? バカな 夢か? 痛い! ホンマか?」
人一倍好奇心の強い猪之助は、アオを木につなぐとそのフワフワの
言葉に乗ってみる事にした。
「ほんの近くですのでこの中にお入り下さい」
見ると、光っていた丸い玉に近づくと戸が開いた・・・
中に入るとすぐにフワリと浮き上がり、そのまま動き出した・・・ と思ったら
あっという間に前方の戸が開いた。
「着きました・・・ ここが私達の家です どうぞこちらへ・・・」
猪之助がフワフワの後ろについていくと・・・
前方に巨大なドームが現われ、左右数十のフワフワに囲まれたまま、
中央の大きな金ぴかのイスに座った貫禄のあるフワフワの前に出た。
「これはこれは ようこそおいで下さいました
私はここを統治するエンペラーです
昨日の朝 私の孫を助けて下さり 心から感謝とお礼を申し上げます
今宵は孫の命の恩人の為に皆が集まり 最善のおもてなしを
させて頂きますので どうぞ心いくまでお過ごし下さい」
ビックリ唖然とする猪之助の前に 次々と見たことも無いようなご馳走が
並べられる・・・ しかも美味そうだ。
しかし 本家でコレでもかと言うぐらい腹いっぱいにご馳走を食べてきた
ばかりなので入りそうに無い・・・
すると 横にいたフワフワが小さな錠剤を一粒口に入れてくれた。
摩訶不思議!? 腹がすいてきたではないか・・・ 腹ペコだ!
猪之助は次々と美味しい料理を平らげた・・・
それに初めて飲む珍しい酒にも底なしだった。
楽団が演奏を始め、美女軍団が舞い踊り、花火が上がる・・・
猪之助はすっかりその雰囲気に呑み込まれていった。
猪之助は隣に座ったあの父親と言うフワフワから話を聞いた。
「・・・子供は何でも好奇心がいっぱいでして・・・ 昨日もここから外へ
出てはダメと あれほどきつく言って聞かせていたのに、ここを出て
面白そうだったから・・・ と、あの猪の罠場に入ったらしく、その罠に
かかってしまったのです。 泣き叫ぶ子供の声でやっと気づき、皆で
何とか外そうとしたものの、我々の力ではどうしようもなく悲嘆にくれて
いる時に、貴方が通りかかり外して下さったのです・・・
まさに命の恩人です」
「オレはウリボーかと思ってな それに自分の名に猪がついてるから
時々罠から外して逃がしてやることもあってな・・・
それだけなんや・・・」
猪之助も子供の頃から人一倍好奇心が旺盛で、5歳のとき、隣の治兵衛と
箕面の山でもう廃坑になっていた狭い穴に入り込み、長い坑道を歩き
回っている内に、とうとう出口が分からなくなり、2日2晩村中大騒ぎに
なったものの、3日目の朝 とんでもない出口で泣き声を聞いた人に
助けられたというエピソードがあったので・・・
「分かる 分かる・・・」 と うなずいた。
よく見るとフワフワは大きな白い布のようなものをかぶり、その中を見ると
人間と同じように目や口や鼻、耳もついていた。
それに結構男前と美人揃いなので、猪之助は警戒心も解け、すっかりと
ここが気に入ってしまった。
猪之助は好きな双葉山が今日 70勝目に破れ、悔しくい話をすると・・・
若いフワフワがこんな事を喋った。
「次もハクホーが優勝でしょうね でも昨日はキセノサトが勝って
一矢報いましたね それにしてもモンゴル勢は強いですね・・・」
「ハクホー? モンゴル? なんのこっちゃ?
オレは日本の大相撲の話ししてるんやが・・・?」
猪之助は時を忘れて食べ、飲み、遊びに興じた。
やがて花いっぱいの風呂に入れてもらい、美女に汗を流してもらい、歌い
遊び、笑い、楽しい一時を過ごした。
特に木の香りのする琥珀色した飲み物は、猪之助の神経をリラックス
させた。
どのぐらい経ったのか・・・?
猪之助はふっと思い出した。
「そうや 夜明けまでにオレは家に帰らんといかんね
明日の荷物も積み込まんとあかんしな それに親父は持病で
しばらくは動けそうにないしな・・・」
猪之助の話を聞いたエンペラーも、あのフワフワ父親も、それに周りの
沢山のフワフワ達みんながたいそう残念がったものの、盛大に見送られ
猪之助は再びあの光の球に乗った。
球に乗り3秒もせぬまに元の場所に下りた。
「充分なおもてなしもできませんでしたが・・・」
「いやいやとんでもない 夢見たいなご馳走をいただきまして
おおきに! でした」
「では ごきげんよう・・・」
光り輝く球はあっという間に消えてなくなってしまった。
真っ暗闇の中で一人取り残され、猪之助はふっと我に返り、口笛を吹いて
アオを呼んだ。
「あれ? アオのやつ どこへ行ったんや?
それにここはどこや? 変やな?
見上げれば見慣れた長谷山も堂屋敷山の山形も、そんなに
変わっていないようやが・・・ ?」
「あれ!? いつの間にこんな所に大きな池ができたんや?
それに山道が・・・ 広い? 地面は硬いし・・・
何やこの柵は? それにあの大きな穴は・・・?」
キョロキョロ見回していると、少し先に標識があった。
顔を近づけてみると何とか読めた。
<箕面隊道?> <みのお川ダム湖?>
<この先 箕面ビジターセンター>
何じゃこれ!?
(3)へ続く・・・