コロナウイルスを鎮静化させる重要な要件は免疫の獲得である。このため一度感染し抗体を身に付けるか、あるいはワクチンの接種により抗体を身に付けるかである。しかし、最近抗体が余り長持ちしないとの説が有力になってきた。
新型コロナウイルスの遺伝子が二重らせんという安定的な構造を持つDNAではなく、一重らせんのRNAであるため、その構造が不安定で、変異し易い特質を有するのだそうだ。従来からあるインフルエンザウイルスもRNAであり、インフルエンザのワクチンを打っても長期間持続しないのは、流行している間にウイルスの遺伝子が変異し、ワクチンが効きにくくなったり、まったく効かなくなったりするのはこのためだそうだ。
2002年から翌年にかけて流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)も原因ウイルスはコロナウイルスの一種で免疫持続期間は平均して約3年とされていたが、この3年の間に変異していたと推測される。
しかし、新型コロナウイルスの場合変異のスピードが非常に速く、中国で発生して以来、世界各地に広がっていく過程で変異を繰り返し、5月末ですでに数百の変異が出来たとの報告もあるのだそうだ。SARSのワクチンが今もって開発されていない理由をよく知らないが、ウイルス変異に原因があるとすれば今回のウイルスワクチンの開発は一層困難と思われる。
実際、一度感染し完治した人が再び感染する例が海外のみならず日本でも報告されている。感染による抗体とワクチンによる抗体が同じであるかよく知らないが、短期間に再感染するのはウイルスの変異以前に抗体そのものが長持ちしない特質があるのかも知れない。このような話を聞くと、目下最終の臨床試験に入ったとの報告のあるワクチンも先行きが決して明るくなさそうと感ずる。
更に、ワクチン開発には副作用という大きな関門を乗り越えなくてはならない。ワクチン開発では症状に効果があると分かりながら、臨床試験の段階で副作用が出て、100億円、1000億円ものお金がパーになったというケースは枚挙に暇がないそうだ。
1976年に米国で新型インフルエンザの流行に備え、見切り発車で全国民へのワクチン接種を始めたものの、四肢や顔、呼吸器官に麻痺などが起こすギラン・バレー症候群などの副作用が出て投与中止になるという悲劇的な事件が起きたこともあったそうだ。
開発競争の先頭を走るオックスフォード大学のグループが、今月20日、人に投与する初期の臨床試験(治験)で安全性と免疫反応を起こす効果が確認されたと発表したが、副作用を評価する臨床試験はこれからのようで、道のりは遠い。
ただ、こうした副作用はワクチンには付き物なのだそうだ。副作用は人によって現れ方が様々であり、しかもすぐに現れるとは限らず、この評価には数千人程度の健康な人と長い時間を要する。
さて、日本でもワクチン開発が進められているが、このような試験を実施するためには安全性が最重要であり、爆発的な感染が抑えられている今の日本でやるのは非常に難しいとのことだ。2020.07.25(犬賀 大好-620)