1964年の第1回目の東京オリンピックは戦後の復興を象徴する大会として大成功を収めた。しかし、翌年の日本はオリンピックの反動不況に見舞われた。この年10月ごろから中小企業の倒産が増加し、株価も下落、企業収益も減少し、景気は急速に悪化したのだった。
政府は、景気回復を図るため補正予算で第二次世界大戦後初の建設国債を発行し、次いで1966年当初予算から本格的に国債を導入し始めた。
これを契機に、歳入を全額、税収などの収入で賄う均衡予算主義は崩れ去り、この年以降財政に国債を組み入れることが常態化することになった。これが功を奏したのか疑問であるが、景気が回復し始め、いざなぎ景気が始まったのだった。
いざなぎ景気を象徴するものは、所謂3Cと呼ばれる自動車、カラーテレビ、クーラーである。国民の所得水準が上昇し、家電製品や自動車など耐久消費財を中心に国内市場が拡大したことが背景にある。
そもそも、国債の発行は1947年に制定された財政法の第4条により原則的に禁止されている。この規定は、わが国の無謀な戦争が膨大な戦時国債の発行により可能となり、敗戦後のハイパーインフレの原因となったという反省に基づいて設けられた制度である。
いざなぎ景気が赤字国債発行のお蔭で始まったと言うより、当時の社会に景気回復の下地があったと見る方が妥当であろうが、少なくとも戦後初めてでありカンフル剤としては役立ったろう。しかし、その後麻薬のように習慣化し、遂には世界にも稀にみる1000兆円越えというGDPの2倍に匹敵する債務を作り出してしまったのである。
政府は昨年7月末、2020年度の名目成長率を2.0%とする楽観的な政府経済見通しを公表しているが、この甘い成長率を踏まえた試算でも、プライマリーバランス(PB)は黒字化目標2025年度に2.3兆円の赤字が残るとしている。しかも、今年1月の試算では2025年度に更に甘い成長率3%が実現できても3.6兆円の赤字と状況は更に悪化し、黒字化は更に2年遅い2027年度になる見込みとなるのだそうだ。
1月の通常国会、安倍首相は所信表明演説で2025年度PB黒字化を目指すと堂々と宣言したが、いつもながらいこの役者ぶりには感心させられる。
PBをゼロとしてもこれまでの借金が減る訳では無いが、第1歩としてゼロにすることは極めて重要である。しかし、それすら達成出来無いが、達成時期が延期されたことは過去に何回もあり、延期に対する罪悪感は感じられない。
西村経済再生担当大臣は着実な歳出改革を進めることによって、2025年度のPB黒字化目標の実現が視野に入っている、と首相に追随したが具体的な歳出改革目標を示しておらず、子供騙しもいい所だ。
歳入に関して安倍首相は昨年10月消費税を10%に上げ、今後10年間は上げる必要が無いと大見得を切ったが、財政健全化は遠のくばかりだ。さて、2020東京五輪後の日本経済は、米中貿易戦争、日韓不仲問題等で見通しは暗く、日本の借金は益々増えるだろう。麻薬の副作用は増しているが、誰も気付かぬ振りをしている。2020.01.29(犬賀 大好-570)