次の米国大統領候補として、民主党ではクリントン上院議員とサンダース上院議員が争っていた。今月28日にはクリントン氏に正式に確定したが、若者の間では相変わらずサンダース氏の人気が高いようである。氏の主張の一つは、経済の反グローバル化である。
この15年間に米国では、6万ヶ所近くの工場が閉鎖され、製造業では480万人以上の高給の職が消えた。グローバル経済は、経済エリートが得をするように彼らが生み出した経済モデルであり、米国でも世界でも、大多数の人間には役立っていない。今の自由貿易を根本から否定し、公正な貿易へと移行すべきだ、とサンダース氏は主張する。
公正な貿易とは何か、がよく分からないが、表面的には分かり易い主張である。共和党の大統領候補であるトランプ氏も反グローバル経済を主張している。しかし、明治以降の日本の歴史を振り返るとき、日本はグローバル化の先駆けの恩恵を受けてきたのではないかと考え込んでしまう。
戦後、資源の少ない日本は輸出立国として経済的な発展をしてきた。すなわち、外国から鉄鉱石等の資源を輸入し、それを鋼板等に加工し、更に船や自動車に製品化して輸出し外貨を稼いできたのだ。原料を製品にするためには、高い技術力が必要であり、そのため技術立国と言われ、物作り大国とも言われていたのだ。
江戸時代、外国との交易が無くても何とかやってこれた。しかし明治時代には文明の遅れを取り戻すために大変な苦労をした。また、江戸時代の推定人口は3千万人であり、現在1.3億人の食料を自国だけで調達するのは困難と思われる。この意味で日本にとって貿易は必要不可欠であり、貿易のグローバル化は歓迎すべき話であろう。
しかし、ここにきてグロ-バル化の問題点が際立ってきた。グローバル化には、貿易のグローバル化を始め、金融、技術、人の移動等様々な面があり、これらは互いに絡み合い、単独現象としては考えられず、エコノミストにとっても手に余る問題であろう。
最近話題の英国のEU離脱もその現象の一つの反動であろう。離脱の理由として、移民に職が奪われることや製造業の衰退等が挙げられているが、離脱すれば解決するほど単純な問題ではないだろう。
世界の国々が次第に豊かになり、世界の産業構造の変化と共に、自国の産業構造も変化せざるを得ない。産業革命時に英国を支え、戦後の日本を支えた繊維産業はとうの昔、東南アジア諸国に移った。変遷時には、英国でも日本でも大変な騒動があったであろう。当時の、大阪紡績、片倉製糸紡績、郡是製糸などは、現在東洋紡、片倉工業、グンゼなどに名前を変えて生き残っているが、中身は大いに変わり、繊維部門は全体の一部となっている。
そして、高度成長を支えた日本の電子技術も韓国、中国へと移りつつ、一部移ってしまった。日本の生産工場の海外移転は効率化の為であり、要は人件費等の経費の削減であろう。経費の削減は、経営者の立場からすれば当然であるが、工場が転出する側にとっては雇用の損失であり、地元経済の衰退である。一方工場が進出する地区にとっては雇用の創出となり、技術レベルを急激に高める。技術は創出するより真似する方が簡単なため、拡散するのに時間はかからない。
かくして、技術のグローバル化は誰にも止められない。政治の力で一時的に止められるかも知れないが、後で大きなしっぺ返しを食う。技術の変遷と産業の構造変化に追随するのは大変な苦労を必要とする。大手電子機器メーカのシャープや東芝の衰退、TPPの発効に伴う農家の苦労等、例は数えきれないが、それを乗り越える努力が無くては次の発展が無い。
サンダース議員の主張する反グローバル化の理由は、産業構造の変化による職の喪失もあるかも知れないが、それより貧富の格差の拡大にあるのではないか。上位1%の所有する富は、他の99%の人たちの合計より大きいと主張している。金融のグローバル化を始めとし、経済のグローバル化は資金のあるものがより多くを稼ぐシステムを作り上げてしまったのは感覚的にも確かであろう。
世の中の技術や経済のグローバル化は避けられない。しかし経済のグローバル化と格差の拡大は別次元の話と考えたい。そうとすれば貧富の拡大は政治の力で避けられる筈だ。政治の力でも避けられないとすれば、富は益々集中し、世界は破滅に向かうことになる。
2016.07.30(犬賀 大好-255)
この15年間に米国では、6万ヶ所近くの工場が閉鎖され、製造業では480万人以上の高給の職が消えた。グローバル経済は、経済エリートが得をするように彼らが生み出した経済モデルであり、米国でも世界でも、大多数の人間には役立っていない。今の自由貿易を根本から否定し、公正な貿易へと移行すべきだ、とサンダース氏は主張する。
公正な貿易とは何か、がよく分からないが、表面的には分かり易い主張である。共和党の大統領候補であるトランプ氏も反グローバル経済を主張している。しかし、明治以降の日本の歴史を振り返るとき、日本はグローバル化の先駆けの恩恵を受けてきたのではないかと考え込んでしまう。
戦後、資源の少ない日本は輸出立国として経済的な発展をしてきた。すなわち、外国から鉄鉱石等の資源を輸入し、それを鋼板等に加工し、更に船や自動車に製品化して輸出し外貨を稼いできたのだ。原料を製品にするためには、高い技術力が必要であり、そのため技術立国と言われ、物作り大国とも言われていたのだ。
江戸時代、外国との交易が無くても何とかやってこれた。しかし明治時代には文明の遅れを取り戻すために大変な苦労をした。また、江戸時代の推定人口は3千万人であり、現在1.3億人の食料を自国だけで調達するのは困難と思われる。この意味で日本にとって貿易は必要不可欠であり、貿易のグローバル化は歓迎すべき話であろう。
しかし、ここにきてグロ-バル化の問題点が際立ってきた。グローバル化には、貿易のグローバル化を始め、金融、技術、人の移動等様々な面があり、これらは互いに絡み合い、単独現象としては考えられず、エコノミストにとっても手に余る問題であろう。
最近話題の英国のEU離脱もその現象の一つの反動であろう。離脱の理由として、移民に職が奪われることや製造業の衰退等が挙げられているが、離脱すれば解決するほど単純な問題ではないだろう。
世界の国々が次第に豊かになり、世界の産業構造の変化と共に、自国の産業構造も変化せざるを得ない。産業革命時に英国を支え、戦後の日本を支えた繊維産業はとうの昔、東南アジア諸国に移った。変遷時には、英国でも日本でも大変な騒動があったであろう。当時の、大阪紡績、片倉製糸紡績、郡是製糸などは、現在東洋紡、片倉工業、グンゼなどに名前を変えて生き残っているが、中身は大いに変わり、繊維部門は全体の一部となっている。
そして、高度成長を支えた日本の電子技術も韓国、中国へと移りつつ、一部移ってしまった。日本の生産工場の海外移転は効率化の為であり、要は人件費等の経費の削減であろう。経費の削減は、経営者の立場からすれば当然であるが、工場が転出する側にとっては雇用の損失であり、地元経済の衰退である。一方工場が進出する地区にとっては雇用の創出となり、技術レベルを急激に高める。技術は創出するより真似する方が簡単なため、拡散するのに時間はかからない。
かくして、技術のグローバル化は誰にも止められない。政治の力で一時的に止められるかも知れないが、後で大きなしっぺ返しを食う。技術の変遷と産業の構造変化に追随するのは大変な苦労を必要とする。大手電子機器メーカのシャープや東芝の衰退、TPPの発効に伴う農家の苦労等、例は数えきれないが、それを乗り越える努力が無くては次の発展が無い。
サンダース議員の主張する反グローバル化の理由は、産業構造の変化による職の喪失もあるかも知れないが、それより貧富の格差の拡大にあるのではないか。上位1%の所有する富は、他の99%の人たちの合計より大きいと主張している。金融のグローバル化を始めとし、経済のグローバル化は資金のあるものがより多くを稼ぐシステムを作り上げてしまったのは感覚的にも確かであろう。
世の中の技術や経済のグローバル化は避けられない。しかし経済のグローバル化と格差の拡大は別次元の話と考えたい。そうとすれば貧富の拡大は政治の力で避けられる筈だ。政治の力でも避けられないとすれば、富は益々集中し、世界は破滅に向かうことになる。
2016.07.30(犬賀 大好-255)