岸田首相のキャッチコピーの一つは”新しい資本主義”だ。資本主義と言うとマルクスの資本論を思い浮かべる。マルクスは当時の経済システムを批判し資本論を唱えたが、岸田首相の新しい資本主義も現在の資本主義では解決しない問題には抜本的改革が必要だとして、新たな社会像を打ち立てる哲学的思考と期待した。
しかし、首相の資本主義においては、分配の原資を稼ぎ出す「成長」と次の成長につながる「分配」を同時に進めることがそれを実現するためのカギだと言う。これを聞くと新しい資本主義は哲学的な意味で無く現実的な取り組みの話しのようだ。
しかしそこにこれまでに無い新しい発想があれば将来が期待できるが、どうも単なる言い換えのようだ。すなわち、内閣官房の成長戦略会議の資料によれば、現在の日本の諸課題は、• 我が国産業の稼ぐ⼒、国際競争⼒の低迷、 サービス産業の低い⽣産性 • 基礎研究⼒など科学技術⼒の低下 • 企業の⼈材投資が減少 • シェアホルダー(株主)重視、短期の視点に偏り • 企業経営でコストカット重視の傾向 • 過当競争がみられる市場環境が挙げられており、新しい視点は無い。
確かに、これらの項目は現代日本社会の抱える問題点、課題ではあるが、もっと大きな視点が欠けている。・少子高齢化問題、・1.2千兆円を超える国の借金問題、・経済格差や貧困問題等への課題はない。
原資を生み出す成長に関しては、歴代の政権が成長戦略を唱えてきたが、いずれも軌道に乗らなかった。我が国産業の稼ぐ⼒、国際競争⼒の低迷等の言葉が並ぶが、成長戦略には必要な要因であることは間違いないが、具体的なイメージは浮かばない。
分配に関しても、要は税金を如何に徴収するかの問題であろうが、法人税に関しては国際競争力との関係、所得税に関しては累進課税の見直し等が必要になるが、首相は思い切った決断が出来るであろうか。
新しい資本主義の中身はこれから充実されるのであろうが、現実的にはコロナ後の経済回復が優先されるのであろう。コロナの影響で国の借金は随分増えたが、いずれ借金を税金等で返さなくてはならない。分配する分まで含めるとかなりの増税が必要となろう。
岸田首相の良い所は人の話をよく聞くことだそうだが、人により様々な意見があるのは当然だ。すべての人の望みを叶えるのは、神様であったも不可能だ。意見の選択には筋の通った思想が必要だが、首相にはまだ見えない。
”新しい資本主義”に随分ケチをつけたが、それでも首相の新しい発想を期待する。2021.12.29 (犬賀 大好ー776)