2月22日、株価が史上最高値を更新したとマスコミは大騒ぎである。これで”失われた30年”の言いぐさは無くなったと喜ぶ経済専門家もいるが、これで儲かるのは証券会社関係者と眼端が利く投資家であろう。新NISAに踊ろされている人間にとっては、最高値を付けた株を買っても意味は余り無く、更に上がらなければ儲けはない。
株の値段は企業の価値を裏付けるものであり、株価が下がった時に買って、上がった時に売るを繰り返し、その差額で儲けるのが投資家であろう。従って高値安定であれば、配当金を当てにするしかないが、それでも一般に銀行利子より高いのでお得感はある。
しかし一般庶民は株を買う余裕もなく諸物価値上がりで、この騒ぎを指を咥えて冷ややかに見ているだけだ。岸田首相が就任当初言っていた公平な分配の考えは何処に行ったか。
さて、22日時点の企業の値段を示す時価総額をみると、日本国内ではトヨタ自動車が57.4兆円で圧倒的首位に立ち、ソニーグループ、NTTやソフトバンクのIT企業、半導体製造装置や半導体基板の材料を扱う企業等、上位10社には製造業から通信まで幅広い業種が入っている。
バブル期の1989年当時は全く様相が異なっていた。22.9兆円を付けたNTTをはじめ大手銀行が世界の上位5社を占め、しかも海外勢トップの米IBM等を上回っていた。現在の世界上位は、マイクロソフト等のIT企業やアマゾン等の米国企業が大半を占め、日本トップのトヨタ自動車は辛うじて35位である。このように世界の経済の牽引役はすっかり変わり、日本は取り残されている。
さて現在の株価上昇は、・円安の影響で輸出産業を中心に企業の業績が好調だったこと、・中国経済の不況で海外の投資家が日本市場に集中したこと、・新NISAが今年1月からはじまり貯蓄から投資に回っていること、等が主な理由のようだ。日本の輸出産業は何と言っても自動車で、その筆頭はトヨタ自動車だが、その主力はガソリン自動車だ。世界は地球温暖化対策で電気自動車(EV)が世界の潮流になりつつあり、その力は永遠に続く訳ではない。
日本の現在の株高は円安と自動車が支えていると言ってもよいだろうが、円安は日本の異次元金融緩和政策のお陰だ。日本銀行の内田副総裁が講演で「マイナス金利の解除後もどんどん利上げをしていくようなパス(経路)は考えにくく、緩和的な金融環境を維持していくことになると思う」との見解を示したことも株高の支えになったとのことだが、政府の意向である株高を支える為には金融緩和を持続せざるを得ないのだ。物価上昇の原因である金融緩和を止めたくても止められないのだ。
また、自動車産業の未来も決して明るいものではない。株価の回復を契機に、日本企業が本格的に稼ぐ力を高めていくことが必要だ、と識者は主張するが、失われた30年の間に何もしなかった訳ではない。問題は何をなすべきかだ。2024.02.28(犬賀 大好ー987)