日々雑感

最近よく寝るが、寝ると言っても熟睡しているわけではない。最近の趣味はその間頭に浮かぶことを文章にまとめることである。

オリンピック開催理念を再度問う

2016年12月31日 10時16分20秒 | 日々雑感
 2020年の東京オリンピックは、コンパクトな開催や東日本大震災からの復興、日本らしいおもてなしを掲げて、招致に成功した。スペインのバルセロナやトルコのイスタンブールは競争相手であったが、財政基盤の強さや治安の良さは、東京が抜きんでていた。唯一東京の弱点として指摘されていたことは、都民と国民の五輪招致への支持が低いことであった。2012年の段階で、支持率は50%を切っていたが、翌年には70%を超えるまでになり、国際オリンピック委員会(IOC)は、東京に安心して五輪開催を託したことであろう。

 しかし、当初8000億円と見込んでいた開催費用は1.6兆円~1.8兆円に膨らみ、同時に東京の既存の施設を活用するコンパクな開催や東日本大震災からの復興の理念はどこかに吹き飛んだ。現在、開催是非を問うアンケートを再び行ったら、恐らく50%を切るのではなかろうか。

 また、開催理念、あるいはスローガン、キャッチフレーズも相変わらずはっきりしないままだ。1964年に開催された最初の東京オリンピックは、「スポーツの発展を通じて、世界平和に寄与すること」の高い理念の下、戦後の復興を世界にアピールする目的で開催され、国民大多数の積極的な賛成が得られていたであろう。

 東京五輪組織委員会 会長、森喜朗氏は、開催費用の高騰に関しても”東京都から言われたことをやっているだけだ”とまるで他人事であるが、自ら問題提起をしないのであろうか。コンパクな開催理念等が消えたことに対しても、”俺の責任ではない”と言い張るのであろうか。東北復興に代わる理念の必要性を訴えることもできないのか。

 ”なぜ東京でやらなくてはならないか”を、改めて考えると、他にやる都市が見当たらない、ことくらいしか思い当たらない。理念の必要性に関しては、小池都知事もJOCも同じであり、余り必要性は無いらしい。メダル獲得最優先だけに皆が一致しているのは、嘆かわしい。日本の将来あるいはオリンピックの将来を示す、”コンパクトシティ東京”の理念は守ってほしかったが、遅きに失した。

 水泳会場のアクアティクスセンターやバレーボール会場の有明アリーナは新設することに決まった。小池都知事は、前任の都知事であった石原氏、猪瀬氏及び舛添氏の敷いたレールの上を走らざるを得ず、また時間的な制約があるので、大きな改革は出来ないのであろうが、施設建設にかかる費用の400億円削減は、大きな成果であろう。都知事選を小池氏と争った、増田、鳥越両氏では恐らく出来なかったであろう。

 そもそも、コンパクな開催も既存の施設を活用する筈であったが、当初アクアティックスセンターの観客席が2万席とは誰が言い出したのか。一番遠い席からは選手の顔つきなど分かる筈が無い。最近映像技術の発展は目覚ましい。5千席と、後はパブリックビューの活用や既存の映画館を動員すればもっと大勢の観客が臨場感を味わうことが出来る筈だ。最新の映像技術により、将来のオリンピックの見せ方の見本を示した欲しかった。

 有明アリーナも一万席の数だという。”大きいことは良いことだ”、は高度成長期の話だ。大きな箱モノは、その当時を懐かしむ高齢者である、IOC委員や組織委員会の委員が決めたのであろう。五輪後の活用を考えるとき、人口減少に向かっている日本にあって、東京集中を一層煽り立てることを考えているのであろう。

 小池都知事は、都民ファーストとアスリートファースとの言葉をよく口にする。都民ファーストで経費削減に力を注ぐことはよく理解できるが、アスリートファーストは必要なかった。ボート会場が宮城県に移動しそうになった時、選手を始めとする関係者は、東京から遠すぎる、観客が少なくなる等、反対を表明していた。小池都知事がアスリートファーストと言ったばかりに、彼らの声に耳を傾けざるを得なくなったのだ。場所が何処であろうと、選手は皆同一条件で勝負できる。どんなに条件が悪くても、最善の努力をするのがアスリートだ。選手村から遠すぎるなどとのたわ言は、選手のエゴである。試合開始の7時間前になって、飛行機で現地に乗り込むという悪条件でも試合に勝ったチームもいる。
2016.12.31(犬賀 大好-299)

世界の不確実性増大で喜ぶのは?

2016年12月28日 11時38分49秒 | 日々雑感
 トランプ次期大統領の登場により、安倍政権の目玉である環太平洋パートナーシップ(TPP)協定が暗礁に乗り上げようとしている。トランプ氏は予てより、TPP脱退を表明していたが、彼の二枚舌を期待し、そうはならないだろうと多くの人が高をくくっている。

 しかし、TPPの交渉の責任者である、通商代表部(USTR)代表候補に、TPP反対派のダン・ディミッコ氏が浮上していることから、脱退が現実味を帯びてきた。米鉄鋼大手ニューコアの元最高経営責任者のダン・ディミッコ氏は、中国は世界最大の保護主義国と批判しているが、保護主義には保護主義で対抗しようとするのであろうか。

 米国が保護主義に傾倒すれば、各国も自国産業の保護や需要の囲い込みを重視して保護主義に傾くだろう。保護貿易とは、自国の産業を守るため、関税で輸入量を制限したり、自国製品に補助金をつけて輸出を促進する等の政策である。

 一方、ある特定の国に対して政治的な問題から ”経済制裁” をすることがある。これは、対象国に国外から入手していた物資を欠乏させることによって国内的な問題が生じることを狙った外交政策の一環である。クリミア半島やウクライナ問題で西側諸国がロシアに対し、現在でも行っている例である。

 保護貿易と経済制裁は目的、手段が異なるが、また対象とする国がある特定の国か、不特定の国かの点で異なるが、外国からのあるいは外国への物資を制限する点においては同じである。従って保護貿易は不特定多数の国に対する経済制裁であろうが、結局疲弊するのは自国である。

 保護貿易に対するのは自由貿易であり、自由貿易の本質は経済活動の効率化である。経済活動を世界的に一番効率のよい場所、方法で行う、例えば生産は世界で一番安くて高い品質のものが作れる所で行うことにより、生産者と消費者に最大の利益をもたらすことを目的とする。経済の効率化という点において、保護貿易は効率の悪さからいずれ行き詰る訳である。

 自由貿易の負の側面は、これまでの生産秩序の破壊であろう。国内で勝利を収めた産業も世界的に見れば競争に勝てないことも往々にしてある。米国におけるラストベルトと称される地域での鉄鋼業や自動車産業は正にこの産業であり、日本における電気機器産業もこの類であろう。競争に敗れる原因は、単純ではない。一つには人件費の差である。生産技術の発展に伴い誰にでも生産できるようになったため、生産は人件費の安いところに流れる。経済の効率との観点から見れば当然の帰結である。しかし、この困難を乗り切らないと次の発展は望めない。

 現在世界では各地域において経済連携協定が進行中である。TPPは太平洋を取り巻く国々の経済協定であるが、大西洋を取り巻く国々で環大西洋貿易投資協定(TTIP)が交渉中であるようだが、こちらも暗礁に乗り上げているとのことだ。この他、日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)や東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉が開始されているようであるが、なかなか進まないのが現状のようである。交渉が進まない一番の原因は国益の衝突との言葉でまとめられるが、要は自国産業の保護であろう。

 TPPの交渉においても、日本の米生産が話題となった。生産コストは耕地面積の広さの差から米国等に太刀打ちできない。関税を撤廃すれば日本の米生産は全滅する懸念があり、安全保障上生産システムを維持しなくてはならない。世界が争いの無い平和な社会であれば、経済活動の効率化を最優先としてもよいかも知れない。現実は、争いが絶え間なくあり、安全保障との観点を考慮しなくてはならなくなる。このため、自国産業の保護が前面に出てくるのだ。

 経済のグローバル化は格差の拡大等、いろいろ問題を発生させている。保護主義的な経済政策も自国の利益ばかりを追求しだすと、国と国の衝突になり、最後は戦争にまで発展する恐れがある。その中間に答えがありそうであるが、誰も答えを明示できない。

 トランプ氏の発言は過激であり、どこまで本気か誰も分からないそうだ。本人もよく分かっていないのだろう。トランプ氏の政治手腕や、議会、国際社会との関係構築に未知の部分が多いだけに、これまでの発言内容がそのまま実行されないとする希望的観測もある。世界は氏の登場で不確実性が増し、マーケットが大きく動く可能性が大きいと証券会社だけは大喜びである。2016.12.28(犬賀 大好-298)

プルトニウムは脅威とはならない??

2016年12月24日 10時28分31秒 | 日々雑感
 日本は核燃料サイクルの実現を夢見て、せっせとプルトニウムをため込み、既に47トン所有するまでになった。これまでプルトニウムは高速増殖炉で消費するとの筋書きであったが、頓挫したためMOX燃料として使用することに急遽重点を移している。

 MOX燃料とは、原子炉の使用済み核燃料からプルトニウムを取り出し、ウランと混ぜた核燃料である。プルサーマル発電は、多数のウランの燃料棒の一部をMOX燃料棒に置き換えて発電する方式であり、普通の原子炉が使える利点がある。

 電気事業連合会は、全国で16~18基のプルサーマル発電すれば年約6トンのプルトニウムを消費できると試算している。しかし、現在プルサーマル発電しているのは四国電力伊方原発3号機のみであり、経済的、技術的課題が大きい中、各電力会社がプルサーマル発電に切り替えるであろうか疑問視されている。

 また、現在建設中のJパワー大間原発はMOX燃料だけを使うフルMOX原発で、プルトニウムを年1.1トン消費できると見込んでいるが、周辺住民の反対等あり、こちらも順調に進むか疑問である。

 現状では、貯め込んだプルトニウムの使用はMOX燃料でしかないため、この綱渡り状態を続けなくてはならない。

 2018年には日米原子力協定の更新が予定されており、このプルトニウムの扱いが問題になる。この協定は、米国から日本への核燃料の調達や再処理、資機材・技術の導入などについて取り決めている。現行の協約は1988年7月17日改定協定発効し、有効期間は30年で、2018年7月に満期を迎える。

 この協定において日本は核燃料サイクルの実施を認めさせたわけだ。核保有国以外に再処理工場を認めたというのは日本だけなのだそうだ。日本は、尽きることのないエネルギー源の確保が口実であったが、裏には自力で核兵器をつくる技術的な能力を身につけたいとの思いがあったと言われている。プルトニウムの抽出は核兵器の製造に直結するからだ。

 米国は核兵器の原料に使われかねないプルトニウムの拡散を警戒し、原子力協定で厳しく監視している。しかし、トランプ次期大統領は、日本は折角プルトニウムを持っているのであれば、自前で核武装し米国の負担を少なくしてくれ、とでも言い出しかねない。日本にはこれ幸いと思う人もいる筈である。

 一口にプルトニウム(Pu)と言っても同位体が沢山あり、プルトニウム(Pu)240の含有率を指標として、少ない順にスーパー級、兵器級、燃料級、原子炉級、MOX級と分類しているそうだ。原発の燃えカスから再処理されるプルトニウムはPu240が多い原子炉級あるいはMOX級とのことだ。

 核兵器として見た場合、恐ろしいのはPu239の方であり、順番は逆になる。スーパー級のPu240含有量は3%以下とのことであるが、残り97%が即Pu239となるのか不明であるが、兵器を作るのには最適なのだそうだ。

 普通の原発(軽水炉)で燃やした燃料中にできるプルトニウムの場合、Pu239の濃度は50~60%程度に落ちてしまうそうだ。こうしたプルトニウムを ”原子炉級プルトニウム” と呼ぶそうで、中性子や熱の発生が大きいため、取り扱いが困難で兵器として利用しにくいとのことである。そこで原子爆弾には ”兵器級プルトニウム” とよばれるPu239の純度が93%以上のプルトニウムが使われるのだそうだ。

 従って、日本がいくら原子炉級プルトニウムを溜め込んでも、それが世界に脅威を与えることにはつながらないと、原子力発電環境整備機構(NUMO)理事は主張する。しかしながら、MOX級プルトニウムには、Pu240の含有量は30%以上、すなわちPu239の含有量は70%程度もあるので、決して安全との話にはならないであろう。なお、当機構は高放射性廃棄物の埋設等を考える国の機関である。

 Pu239の発熱量はPu240に比べて少ないので、兵器としてコンパクトにまとめやすいとのことであるが、恐らくPu239であっても保管のためには、冷却の必要があるだろう。北朝鮮は核保有国になったと自慢しているが、インフラが整備されていない中、核兵器の保管は安全であろうか改めて心配になる。2016.12.24(犬賀 大好-297)

核燃料サイクルは見果てぬ夢

2016年12月21日 09時42分06秒 | 日々雑感
 11月30日、高速炉開発会議は、廃炉が検討されている高速増殖原型炉 ”もんじゅ” に代わり、より実用化に近い実証炉を国内に建設するなどとする開発方針の骨子を公表した。2018年を目途に約10年間の開発体制を固めるそうだ。これは、万が一実証炉が順調に進んだとしても、少なくとも今後10年間はプルトニウムを消費できないことを意味している。

 高速炉は実験炉、原型炉、実証炉、商用炉の段階を経て実用化するのが通常の進め方だそうだ。悪名高きもんじゅは原型炉であったが、途中頓挫したまま、廃炉の瀬戸際に立たされている。つまり原型炉で解決されるべき課題を残したまま次の実証炉に進むわけであるが、何とも無謀な開発計画である。このような無謀な計画を推し進めるのは、核燃料サイクルを諦めるわけにはいかない背景があるからであろうが、技術開発は一歩一歩推し進めるとの鉄則を無視してまでやるとは、正気の沙汰とは思えない。

 核燃料サイクルの主要な要素は、再処理施設と高速増殖炉である。再処理は使用済み核燃料からプルトニウムを抽出すること、高速炉はそのプルトニウムを燃やして発電することで、この二つの要素が揃わなければサイクルは成り立たない。

 通常の原発から生ずる使用済み核燃料は再処理しないとゴミとなり行き場を失う。青森県六ケ所村にある日本原燃の再処理工場は当初2009年完成を予定していたが、様々なトラブルが相次ぎ、現在2018年上期の操業開始を目指して工事が進行中とのことである。工場の操業開始が遅れているため、再処理工場の容量3千トンのプールは既に満杯近くになっているそうだ。全国の原発の保管プールの72%も埋まっているので、すぐにでも再処理が開始されないと行き場が無くなる。

 現在再処理の一部は仏や英国に頼んでいるようであるが、費用は安くはないだろう。遠からずゴミとして埋設する等が必要になりそうであるが、埋設に関しては一向に進んでいない。ようやく、福島第一原発事故で生じた低濃度放射線汚染ゴミを埋設する中間処理施設の建設が始まったくらいである。

 六ケ所村の再処理工場はフル稼働すれば年4トンのプルトニウムが抽出されるそうだが、このプルトニウムも高速炉がないと行き場を失う。現在、日本の使用済み核燃料からプルトニウムが既に47トンつくられており、その4分の3は、まだそれを分離処理した施設のある英国とフランスに置かれているそうだ。このプルトニウムは日本の軍事上の抑止力になっているとの説もあるが、再処理で出来たプルトニウムでは核兵器は作れないとの説もあり、よく分からない。ともかく、その保管には長期に亘り、安全性を確保する必要があり、多大な費用、リスクが付きまとう。

 日本は利用目的の無いプルトニウムを持たないことを国際的に約束している。日本としては、プルトニウムの使用目的を明確に示さなくてはならないが、高速増殖炉もんじゅは瀕死の状態だ。次期の商用炉が立ち上がるのは10年以上先の話だ。

 そこで、政府はプルトニウムの使用目的を、ウランと混ぜたMOX燃料にして普通の原発で燃やすプルサーマル発電で消費する方針をたてた。プルサーマル発電は、普通の原子炉において、多数のウランの燃料棒の一部をMOX燃料棒に置き換えて発電する方式であるが、その技術的な、経済的な課題は種々指摘されている。例えば、MOX燃料棒の方が発熱量が大きいため、炉内に温度ムラが生じ、制御が難しくなる等である。しかし、現状ではプルトニウムの使用はこれしかない。

 19日、文科省は福井県にもんじゅを廃炉にする方針を伝えたとのことだ。その中で廃炉作業は、原子力研究開発機構が担当するとされた。当機構はもんじゅを運営していたが、原始力規制委員会から不適格とされた機構である。

 当然別の信頼ある機構が担当すべきであろうが、高速増殖炉は原子炉の中でも特殊の方式だ。研究者、技術者は限定されるであろう。受け皿はここしかないのだ。また、文科省は福井県に実証炉を新設するつもりのようであるが、やはり先の機構が担当することになるだろう。兎も角、研究者、技術者がいないのだ。また、世界的にも人気の無い高速炉に新たに人生を託そうとする若者もそうは出てこないだろう。

 これから先の人材不足は明らかである。しかし、日本としてはプルトニウムの使用目的を作らなくてはならない。恐らく、名目上高速炉の開発は進めるであろうが、遅々として進まず、見果てぬ夢に終わるだろう。

 ”夢は諦めなければ必ず適う”の言葉はたびたびマスコミを賑わす。しかし、夢を追い過ぎて人生を無駄にした人間もそれ以上に多いはずだ。核燃料サイクルは見果てぬ夢と早めに諦めた方がよい。2016.12.21(犬賀 大好-296)

トランプノミクスの行方

2016年12月17日 13時36分34秒 | 日々雑感
 米大統領選でのトランプ氏の勝利後、ニューヨーク株式市場は度々過去最高値を更新しているとのことである。中国に対する関税の大幅アップ等の過激な発言が、当選後影を潜めたことも一因であろうが、その昔、俳優から大統領になったレーガン氏の政策と重なるところがあり、期待を大きくしている所があると言われている。

 レーガン氏は、レーガノミクスと呼ばれる社会保障費の縮小などの財政削減、所得税や法人税の減税で消費拡大、規制緩和による投資拡大を行い、金融市場は大幅な株高、ドル高を経験した。トランプ氏も政策の方向は同じであるため、今の金融市場もこれを連想し柳の下の泥鰌を期待しているのだそうだ。しかし、レーガノミクスは貿易赤字と財政赤字と称する双子の赤字を残したが、そんなことは当の昔に忘れ去られている。

 トランプ氏は、米国第1主義を掲げ、保護主義的な政策をとると予想されている。トランプ氏は、雇用の確保を目的に、外国に工場を移転する企業には大幅な輸入関税を課すと宣言している。この手法は瞬間的には拍手喝采を受けるだろう。しかし、米国労働者はメキシコ等の労働者と同じ低賃金で我慢できる筈が無い。生産コストの上昇は、同時に物価高を招く恐れがあり、そこで雇用を確保できたと労働者も喜んでばかりではいられないだろう。

 トランプ氏のインフラ投資に関しては民主党内でも支持する議員は多く、実現される可能性は高い。減税とインフラ投資で大きな需要が創出されれば、経済成長は当然高まるだろう。しかしアメリカ経済は既に完全雇用状況に近く、急速な経済成長率の上昇がインフレを誘発することは間違いない。

 一方、米連邦準備制度理事会(FRB)は、金融政策を決める連邦公開市場委員会(FOMC)で、先日14日、政策金利を引き上げることを決めたとのことだ。利上げはインフレ抑止の有効な手段であるからである。

 このFRBの方針はトランプ次期大統領の金融政策に関する考えと一致しないようだ。トランプ氏は不動産で財をなしたビジネスマンで本音は低金利主義者で、インフレ容認派のようだ。とすれば、イエレン議長が今後もインフレ抑制的な政策を取ろうとすれば、トランプ氏の反発は避けられないだろう。

 トランプ氏は早い時点からFRBのイエレン議長を再任しないとことを示唆していた。たとえば今年5月に行われたニュース専門放送局(CNBC)のインタビューで「イエレン議長は非常に有能な人物である。しかし彼女は共和党員ではない」と、イエレン議長の留任を暗に否定する発言を行っている。

 FRBが利上げを進める中でトランプノミクスを実行すると、金融引き締め、かつ財政緩和となり、長期金利上昇とドル高を進行させることになるそうだ。これはマクロ経済学の基本的な帰結であるからだそうだが、筆者には因果関係がよく理解できない。

 トランプノミクスの進める規制緩和による大規模投資の成功のためには、FRBが利上げをやめ、金融緩和に転じる必要があること、しかし、同時にインフレが進む懸念があることも何となく理解できる。しかし、日本では、金利を下げ、金融緩和をしても一向にインフレの兆候は見られなかった。日本と米国では何が異なるのか。日本国民は金があれば貯蓄に回すが、米国民はすぐに消費に回す、と識者から理由を説明され分かったつもりになるが、要因はそれだけではなさそうである。

 トランプ氏は、9月には「過剰な低金利は投資を歪め、資産バブルを生み出す」とイエレン批判を展開している。だが、それはイエレン議長に対する“政治的”批判であり、本音は5月に行われたインタビューでの「自分は低金利主義者だ。金利が上昇すれば、ドルが強くなり、雇用に重大な影響を及ぼす」という発言もある。トランプ氏の考えは首尾一貫おらず、本当の考えは誰も分からないらしい。ビジネスマンには臨機応変が必要かも知れないが、政治家としては一本筋を通して欲しい。2016.12.17(犬賀 大好-295)