先進国の間で開発途上にある新型コロナウイルス用ワクチンを巡る争奪戦が過熱しているようだ。世界中でウイルスが蔓延し、どの国も喉から手が出るほどワクチンを欲しがっており、最初に開発した企業は名声を得るとともに、大儲けできることは明らかで、開発競争が激化している背景だ。
開発で先行すると言われる英国のオックスフォード大学が関与するワクチン開発に英国政府は88億円を投資し実用化に成功すれば1億回分の供給を受ける契約をしたそうだ。同時に、米国は1284億円を投じ3億回分を確保、独仏伊のEU包括的ワクチン同盟は4億回分を確保、日本も協議中とのことで、世界を上げて争奪戦が繰り広げているのも、現状感染拡大を抑える有効な手段が他に無いことを物語っている。
世界一の感染者数を誇る米国のトランプ大統領は、ワープ・スピード作戦と称し、ワクチン開発に1兆7千億円の巨額を投じている。11月に大統領選を控え、感染拡大が止まらない現状に、藁でも掴みたい気持ちの表れであろう。
世界の開発プロジェクトは莫大な開発資金を得て競争を繰り広げ、複数の候補は開発の山場とされる第3段階の最終臨床試験へと進んでいるようだが、報道される進捗状況も単に計画を述べているのか、実際に着手しているのかよく分からない。
7月20日、先述のオックスフォード大のチームが人に投与する初期の臨床試験で安全性と免疫反応を起こす効果が確認されたと、英医学誌で発表した。次の段階では1万人以上が参加する臨床試験の予定だとのことだが、具体的日程は示されていない。
米モデルナ社は、2020年6月11日、新型コロナウイルス感染症ワクチン候補の第3段階の試験を7月に開始する計画だと発表した。この試験は一般的には治験の最終段階であり、今回は米国内の約3万人を対象としているようで、昨日28日ようやく開始されたとの報道があった。
モデルナ社は初期の臨床試験で抗体の生成に成功したとの報告をしているが、一部の参加者は疲労・頭痛・悪寒・筋肉痛などを訴えたが、深刻な副作用ではないと主張しているようだ。どうも成果を焦っているようにも思え先行きが心配される。
米ジョンソン・エンド・ジョンソン社(J&J)も7月16日、開発中の新型コロナウイルスワクチンの最終段階の臨床試験を当初は2021年前半と想定していたが、早ければ9月に前倒しすると発表した。
J&Jはワクチン開発と並行して量産の準備も進めており、実用化できれば2021年内に10億本の供給を計画するが、あくまでも希望であり前のめり感は免れない。
中国でも国を挙げての開発が進むが、先進諸国の期待は概して大きくないようだ。しかし、先進諸国は遺伝子を利用したワクチンの開発一辺倒であるが、中国のワクチン候補には従来の手法による不活化ワクチンもある。遺伝子利用のワクチンは動物には適用されているが人間には許可されたことが無いとのことで、どこかに落とし穴があれば中国の不活性ワクチンが脚光を浴びるかもしれない。
世界は未完のワクチンの獲得競争が激しいが、第3段階の臨床試験には数千人から数万人の被験者が必要であり、これから被験者の獲得競争が激しくなるとの識者の意見もある。2020.07.29(犬賀 大好-621)