現在、東京五輪とコロナ感染拡大の話題で持ちっきりだが、その裏には莫大な赤字が控えており、今後多大な税金が投入されるであろう。東京五輪では無観客開催となったため入場料の収入が無くなり、コロナ対策では一人10万円支給等の緊急経済対策で、昨年度コロナウイルス対策で約100兆円の借入を増やす等、いくら金があっても足りない状態が続いている。
しかし、これらの赤字問題は、国と地方を併せると約1200兆円に達する借金問題や異次元金融緩和で生じた問題に比べれば微々たる財政問題だ。
借金1200兆円は国家予算で税収の不足分を補うために毎年赤字発行する国債が主であり、その改善のためには税収の増額や支出の切り詰めが必要となる。その努力の一つが基礎的財政収支(PB)黒字化であり、毎年増え続ける国債発行を抑える努力であるが、借金の減額までは考慮されていない。
財政健全化への取り組みを巡って麻生財務相は、”新型コロナがあろうとなかろうと、経済成長と財政再建の両立はしっかり進めていく”、との考えを強調しているが、財務相就任以来改善されたとの話は聞いていない。また、PB黒字化の実現時期について、名目3%超の高い経済成長を想定する等本気度が伺えず、政府目標である2025年度黒字化の達成はほとんど不可能な状況だ。
1200兆円の赤字は何十年にもわたる自然災害であるのに対し、異次元金融緩和の弊害は短期間での人災的な感じがする。異次元金融緩和とは、金融機関の保有する国債を日本銀行が購入し、資金を大量に市場に供給し、経済を活性化させ、物価を2%上昇させると言うこれまでにない政策である。
安倍前首相の意を受け、日銀が黒田総裁のもとで2年で達成すると宣言していたインフレ目標は、ついに第2次安倍政権の7年8カ月の間、1度も実現することは出来なかった。
更に日本銀行は今年4月の金融政策決定会合で、物価上昇率2%の目標達成時期を削除した。これまで6度も達成期限を先延ばしにしており、今回達成期限を削除して、黒田総裁の任期以内、すなわち今後2年内にも実現できそうもないことを明らかにした。
結局、アベノミクスや異次元緩和の理論的支柱だったリフレ政策は、10年かけても実現できない欠陥政策であることが判明したが、リフレ派の経済学者はどんな言い訳をするのであろうか。
このまま異次元緩和が出口に向かい本来の金融政策に戻れば一見問題なさそうであるが、日銀が買い上げた膨大な国債、また日銀のみならず年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が購入した株式のリスク等の爆弾が、いつまでもおとなしく眠っているようには思えない。
年金生活者にとって異次元金融政策のお陰で物価上昇が起こらなかったと思えればよいが、その副作用がいつか大きく戻ってくる方が心配だ。五輪気分で浮かれてる場合ではない。2021.08.04(犬賀 大好ー734)