病室でこの一文を書いている。
新年早々、この病院に七度目の入院である。
だが、手術を終えた翌日には、何事もなかったかのように
ベッドの上でテレビを見ている。
ふと、ある新春ドラマスペシャルに目がいった。
あのエリック・クラプトンの名曲『Tears in Heaven』が聞こえてくる。
ドラマのタイトルは
『優しい音楽 ティアーズ・イン・ヘヴン 天国のきみへ』だった。
亡くなった兄に瓜二つの青年に恋をする女子大生、
息子をなくしたその両親、
特にいまだに息子のことを忘れきれずにいる母親の深い悲しみ、
それらを織り交ぜながら物語は進む。
その物語の合間に、あの名曲が流れるのである。
そして、ラストシーンを迎える。
音楽教室に通った青年が覚えたてのフルートを吹き、
それに女子大生がピアノ、父親がギターを合わせ、そして母親が歌うのだ。
途中、感極まった母親を青年、
彼もまた幼くして両親を交通事故でなくしているのだが、
そのフルートが母親に先を促す。
それは「お母さん、もう前を向いて生きていきませんか」と
優しく語りかけているようであった。
♪もし天国でお前と会えたなら お前はまだ俺の名前が分かるだろうか
♪もし天国でお前と会えたなら お前は同じようにしてくれるだろうか
♪俺は強くならなければならないんだ
♪だって俺が生きているここは 天国ではないのだから
原曲の和訳は、おおよそこのようなものだ。
この曲は、4歳半だった息子を不慮の事故でなくしたクラプトンが、
その息子の死を悼んで作ったものだが、
僕にとっても非常に思い入れの強い曲である。
僕は70歳になってからヴォーカルのレッスンに通い始めたが、
その音楽教室の生徒発表会で初めてステージに立った時の曲がこれだった。
そして今、病室で口ずさむ。
♪俺は強くならなければならないんだ
♪だって俺が生きているここは 天国ではないのだから