「なぜなんですか。なぜ、この記事はボツなんですか」
デスクから身を乗り出すようにして、
入社5年目の若い記者が食って掛かる。
「それは君自身がよく分かっているのじゃないか」
「そんな話では納得できませんよ」
「困った奴だ。君の文才は認めよう。でも、この記事死んでいるよ」
「死んでいるって何ですか」
「この記事ね、どこかの機関がまとめたデータをそっくり持ってきて、
しかもある大手新聞の記事を真似ながら、
君の文才でまとめた記事に過ぎないんだな。
だから、ちっとも新鮮味がない。死んでいるんだよ。
読者の中にはどこかで読んだような記事だと思う人もいるはずだ。
実際のところ、記者をやっていて面白いかな。
おそらく平々凡々な日々じゃないか」
「いらんお節介です」
「記者というものはいろんな人とたくさん会って、
話をし教えてもらいながら成長するものだよ。
君はそんなことはしていないのだろうな。ただ安楽に暮らすのみか」
その若い記者を席を蹴った。
同時に僕の初夢も覚めた。
夢の中の僕は昨年6月末で辞めた会社にいる。
年末から何日も同じような夢を見ている。
「未練たらしい奴」半ば自らをあざけりながら外を見ると青天。
陽射しが部屋の中まで暖かくしている。
ためらうことなくウオーキングへ。
川面はキラキラと眩しい。
ポケットの中では、世界的に売れている藤井風くんが
『あたしの最後はあなたがいい
あなたとこのままおサラバするより
死ぬのがいいわ 死ぬのがいいわ』
何度も何度も繰り返し歌っている。